【39本目】Ray/レイ(2004年・米)
【感想】
自分が【ボヘミアン・ラプソディ】に劇場で4回見るほど感動したことの一因に、事前にクイーンっていうバンドにハマった時期があったからというのがあります。
じゃあ特にハマったことのないミュージシャンだったらどう感じるのかと思って手に取った映画の一つが、この伝説の盲目ミュージシャン、レイ・チャールズを扱った伝記映画・【Ray/レイ】です。昨日今日で見たけどいい映画でした。
【愛と青春の旅立ち】のテイラー・ハックフォードが監督を務めたこの映画は、同年のアカデミー賞で2部門受賞、作品賞含む6部門にノミネートされました。
レイ・チャールズ本人も映画の製作にかかわっているのですが、上映前にガンで死去したため映画を観ることはありませんでした。R.I.P.
【ソーシャル・ネットワーク】ほどではないですが、伝記の対象となる人物を過剰に神格化しすぎていない、という映画はそれだけで信頼度が上がります。ドラッグ三昧な上にツアーのたびに不倫しまくるレイの姿は、憧れの大スターのイメージとは程遠いです。勢いでとはいえ、妊娠した不倫相手に堕ろせとか言い出したシーンは歪んだ痛快感すら覚えましたよw「そうだよな、偉人だからって性格まで聖人だと思ったら大間違いだよなw」的な。
リアルで盲目の人が演じているとしか思えないジェイミー・フォックスの迫真の演技も見どころです。
演技指導をしていた生前のレイ・チャールズから後継者認定された、なんてエピソードもあるんですが、ただ単に生前のレイの動きを観察した、というだけではあのリアルすぎる演技は行えないと思います。すべてはジェイミーの、「視覚障害者だったらどういう風に動くか?」を細部まで考える想像力と、それを動きに昇華させる演技力故でしょう。
ただこの映画で自分が最も好きな要素は、レイの人生に必要以上に人種差別の被害者という属性を付加しなかったことですかね。
1950年代から60年代にかけてヒット曲を連発した黒人歌手を描く、という情報だけ見て、音楽で人種差別の壁を打ち破った文化人の話を描くのかと思ってたんですけど、観た後の印象は全然違いました。
自分は黒人というだけで雑に差別と闘う人々、みたいな属性を付ける映画には説教臭さみたいなものを感じてしまうタイプなんですが(決して黒人差別を描く映画自体が嫌いなわけではない。【ミシシッピー・バーニング】も【マルコムX】も傑作)、この映画の場合人種差別に反対した結果のジョージア州追放にはさほど時間を割かず、それよりも孤独や少年時代のトラウマ、というレイ個人が持つ悩みの描写に多く時間を割いていました。
【黒人】というありふれた属性だけではなく、【南部出身】【母子家庭】【自分が原因で弟が死んだトラウマ持ち】【盲目】【不倫常習犯】【ドラッグ中毒者】という様々な属性を2時間半の時間で強調して描き、結果的にレイ個人だけが持ちえた個性を映画に昇華することに成功していました。
むしろこの映画では白人からの差別よりも黒人同士で騙し騙される描写の方が多かったですね。レイが視覚障害者という別のマイノリティ属性を持っていたから描きやすかったんでしょうけど、レイを経済的にも性的にも搾取する序盤のバーのママとか、レイが盲目だからって給料をくすねる雇い主とか、とにかく悪くて狡い黒人の多いことw
ただ白人からの人種差別に苦しむ人々のコミュニティ、という風に当時の黒人社会を描くのではなく、同じ社会の中でも差別やら、騙し合いやらが存在してまとまりのない、という実態に近かったであろう社会として描いているのがとても好印象でした。レイ自身の描き方にも言えますが、清濁描き切ってこそ、初めて人間を描いたことになるわけですからね。
そういう意味では、モーガン・フリーマンとかがよくやるような黒人を聖人として描いてるような映画にちょっとモヤモヤしてる人たちにはちょうどいい映画かもしれません。
【好きなシーン】
【ボヘミアン・ラプソディ】でフレディがロックとオペラを融合させた曲を作ったときもそうですけど、特定の音楽ジャンルで既成観念の殻を破るシーンは爽快ですね。
ゴスペル音楽を取り入れた"I got a woman"を、嫁に不謹慎と呼ばれても、宗教熱心らしき人に罵倒されても弾き続ける姿は、ベタながら文化人というか、現代人としてうまく生きるためのヒントを観ている気分にさせられますよ。
レイの子供時代の記憶がフラッシュバックするとき、ビビッドな赤が印象的に挟まれるのも印象深かったです。視界があったころの記憶だからこそ、視覚的に訴えやすい赤の色がそれを呼び覚ますためのキーになってるわけですね。
あと【アイアンマン】何回も見てるからすぐわかったけど、初代ロディーことテレンス・ハワードが序盤で嫌な奴として出演してるのも面白いです。【クラッシュ】で評価され出すのとほぼ同時期の出演ですね。
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