【40本目】エド・ウッド(1994年・米)

【感想】

 映画好きの方だったら一回は、いわゆる【クソ映画】に興味を持ったことがあるでしょう。

 演技、演出、ストーリー、その他もろもろのクオリティが低くて、でもそのクオリティの低さが愛らしい映画。

 例を挙げると某名作悪魔漫画の実写映画とか、軟骨魚類が色んな形で人を食べる映画群とか(前者は見たけど、個人的には言われるほどじゃなかったです)。

 ハリウッドの国ではラジー賞なんてクソ映画をリスペクトした映画賞なんかあったりもして、とにかく映画好きの人々にとっては時として名作映画以上にクソ映画が心を動かす、なんて事態も少なくないわけです。

 そんな【クソ映画】と、その作り手たる【クソ映画監督】への愛、それ自体を映画にしたのが、1994年(日本では1995年)公開のこの映画です。


  当時【バットマン】【シザーハンズ】【バットマン・リターンズ】【ナイトメアー・ビフォア・クリスマス】と名作を世に送り出し、ノリにノッていた時期のティム・バートンが製作したのが、【史上最低の映画監督】と謳われた映画監督ことエド・ウッド、本名エドワード・デイヴィス・ウッド・ジュニアを題材にした【エド・ウッド】です。映画好き以外の方からしたら誰やこいつって思うような人物を題材にしたバートン監督の趣味全開の映画だったためか、興収では同監督の過去作の成果からは信じられないような大コケをした映画ですが、ベテラン俳優ベラ・ルゴシ役を務めたマーティン・ランドーの哀愁漂う演技や、クソ映画のリアルすぎる再現が評価され、アカデミー助演男優賞、メイクアップ賞を受賞した映画です。


 映画好きがクソ映画について語る時に必ずと言っていいほど話題になるのが、このエド・ウッド監督の映画です。主に活躍したのが初代ゴジラと同じ1950年代なのに、なぜかファンの熱狂ぶりで言えば初代ゴジラとさほど変わらない、という点で、この監督のただ者じゃなさがわかってもらえると思います。

 自分はさほど映画にハマってなかった時期にアマゾンビデオで字幕なしの【プラン9~】を流し見してたことがある程度なので、いわばクイーンを知らずに【ボヘミアン・ラプソディ】を見るような状態で視聴したのですが、エド・ウッドがどうこうじゃなくて1950年代の映画製作現場の再現がリアルすぎ、綿密すぎてそれに魅かれたんですよね。

 全編通してモノクロ映像で話が進むっていう映画は今でも珍しくないですけど、この【エド・ウッド】はそれに加えて終始画面が薄暗くって、いかにも1950年代に量産されたようなSF映画、ホラー映画って感じの映像で物語が展開されます。【ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド】(ブラピオスカーおめでとう)の劇中映画の映像で「こんなに1960年代っぽく撮れるもんなんだ!?」って驚いた人たちは少なくないでしょうけど、この映画のリアルすぎる1950年代の再現も、1960年代に憧れたタランティーノに同じく、バートン監督のエド・ウッド映画への愛のなせる業なのでしょう。


 あとこの映画最後まで見ていると、なんかエド・ウッドがどうこう言うより、映画製作自体の楽しさをテーマとしているように見えなくもないんですよね。純粋な目で映画への愛を語り、クオリティが低かろうが楽しそうに映画の撮影にいそしむエドの姿は、こちらまで創作をしてみたくなるような空気を醸し出しています。

 また、終盤でエドに対して、名匠オーソン・ウェルズ(演じているのは【フルメタルジャケット】の微笑みデブことヴィンセント・ドノフリオ。アレからは信じられん風格)が出会うシーンは、あれこそこの映画の真のテーマを体現していたと思えてなりません。

 資金繰りとかスポンサーとの軋轢とかへの苦労を述べたうえで、「それでも映画作りはいいもんだ。エド、お前も他人のためじゃなく自分のために撮れ!」と激励するウェルズの発言には、バートン監督のエド・ウッドへの愛と映画製作自体への愛が融合して具現化されていたと思います。



【好きなシーン】

 もうエド・ウッドにあまり触れていない僕でも「あ、なんかの映画のパロディなんだろうな」というのが一目でわかるいかにも1950年代当時のB級映画なオープニングで一気に心つかまされました。(でも灰皿円盤は知ってたので、OP後半で出てきて爆笑)


 あと物語中盤で素人の起用に「作品の質はガタ落ちね……」という恋人の言葉に対してエドが発した「完成させることが先決だよ!」という発言は、状況が状況とはいえすべてのクリエイター志望の人々に響く言葉なんじゃないかって思います。そうだよなー、質が低くても人に見てもらうのが第一なんだよ……監督としてはダメダメなのに、こうやって時折クリエイターを振り向かせるような正論を吐いてくるのが、この映画でのジョニー・デップ演じるエドの魅力なんです。

 もちろん孤独なベラに寄り添ってあげられる温和な人柄もそう。


 ちなみにエド・ウッドを知らない状態で楽しむのでしたら、字幕よりも吹替版で見ることをおススメします。映画撮影シーンでの棒読みっぷりがより伝わってくるのは吹き替え版の方なので。

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