【66本目】フィッシャー・キング(1991年・米)

 本作で魅力的なおっぱいだったメルセデス・ルール、【ハスラーズ】でもいいキャラしてた。


【感想】

 富野由悠季監督のアニメはガンダムももちろん好きですが、同じくらい【聖戦士ダンバイン】も好きでして。ヨーロッパの騎士物語的な世界観で動き回る巨大ロボット、異世界に飛ばされる主人公、という男子の妄想をめっちゃ詰め込んでる作風がツボなんです(それとは裏腹な戦場の地獄っぷりもw)。

 でこのアニメの序盤では必ず冒頭に【バイストン・ウェル(劇中の異世界)の物語を覚えていられる者は幸せである……】というナレーションが語られるのですが、これには【悩みの多い現実世界において、異世界のようなファンタジーを心に描ける人間は幸せである】という意味合いが込められているそうです(富野監督自身がガーゼィの翼だかのインタビューで語ってた。うろ覚えだけど)


 テリー・ギリアムの1991年の映画、【フィッシャー・キング】は、そんな現実世界の混沌の中にあって、ファンタジーの世界に思いをはせる一人の男性を描いた映画になっています。


 【未来世紀ブラジル】【Dr.パルナサスの鏡】など異様な世界観の映像に定評のあるテリー・ギリアムが、【バロン】に次いで監督を手掛けたこの映画は、【アイアンマン】のオバディアことジェフ・ブリッジスと、当時【いまを生きる】や【レナードの朝】などでノリに乗っていたロビン・ウィリアムズが主演を務めています。また【パルプ・フィクション】に登場したアマンダ・プラマーも出演しています。

 1991年のアカデミー賞では主演男優賞を含む5部門にノミネートされ、うち助演女優賞を主人公を支える恋人・アンを演じたメルセデス・ルールが受賞しました。


 ギリアム監督が本作より前に書いた2作が【未来世紀ブラジル】【バロン】とディストピアSF、歴史系ファンタジーを描いていたのに対して、この映画はあくまで現実世界を舞台とした物語です。にも関わらず、どこか本作は現実離れと言うか、幻想的な雰囲気の漂う映画となっています。

 最新作【テリー・ギリアムのドン・キホーテ】でもそうでしたけど(【バロン】もそう解釈できなくもないな)、テリー・ギリアムは現実と妄想の区別がつかなくなっている、まさに【ドン・キホーテ】のような人物に対する思い入れの強い監督なのがわかります。

 映画のタイトルは言えない傷を負った王が最終的に聖杯によって救われる、アーサー王伝説の【漁夫王】の物語からですが、この映画のストーリーも癒えない傷を負った主人公・ジャックが、聖杯伝説のような妄想に生きるパリーによってイキイキした人生を取り戻す、という【漁夫王】を彷彿とさせる内容になっています。

 しかし物語はそれだけには終わらず、後半で今度はジャックを救ったパリーが癒えない傷を負ってしまいます。そんな状況でパリーを救うためにジャックが妄想的な手段を実行する、という終盤の展開は、まさしく二人がこれまでに培ってきた絆を体現する物語となっています。

 その辺が、この映画が【友情物語の傑作映画】と言われる所以になっているのです。


 元人気DJとホームレスが同じ作品に登場することで、はからずもニューヨーク内の格差社会みたいなものがうっすらと劇中で表現されているのも興味深いところです。

 

【キャラについて】

 傲慢な人気スターだったのに一つの事件がきっかけで落ちぶれてレンタルビデオ屋の女店主のヒモになっているジャックと、大学教授だったけど同じ事件がきっかけで精神を病んだホームレスのパリーという、ある日突然人生が変わってしまった二人を主人公としているのが面白いところです。というのは、ある種のギャップによるキャラ立てみたいなものが、一つの事件をきっかけとして二人同時に行われているんですよね。


 面白いのは、ジャックがひたすら現実にうちのめされるだけの無気力な毎日を送るのに対して、パリーが空想の中に生きることによってイキイキとした日々を送っている、という点ですね。上にも記した【バイストン・ウェルの物語を覚えていられるものは、幸せである】の意味するところを、この映画なりに体現したキャラクター描写だと言えます。

 そして上にも書きましたが、そんなパリーに影響されてジャックの人生も潤いを取り戻していく、というのがこの映画の魅力です。


 またジャックがパリーと付き合い過ぎたせいで次第に距離が離れてしまうアン、パリーが小さい一歩でも現実に踏み出すための動機となるリディア(彼女もパリーの存在によって救われる)と、二人の主人公を軸としてヒロインを描いているところも面白いです。

 

【好きなシーン】

 冒頭のシーンでDJ時代のジャックが「人気DJ番組がきっかけで悲劇が起きました」とニュースキャスターが言ってるとこまでは他人事のように見てたけど、殺人事件に発展と言う続報を聞いてからまじまじと動揺しだすところがリアルで好きです。


 アンのレンタルビデオ屋が棚積みとかじゃなくて雑貨屋みたいに一個一個距離置いて陳列されてるところも、あ、当時はVHSでも本数少なかったんだなっていう当時の映像媒体事情が垣間見られる感じで好きです。当時の映画事情とかよくわかんないんだけど、1990年代初頭ってまだ名画座が勢い失ってなかったりしたんだろうか?

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