【65本目】キング・オブ・コメディ(1983年・米)

 パーケンYoutubeくらいだったら出れないかなぁ?


【感想】

 【タクシードライバー】を紹介したなら、この映画も紹介しないわけにはいかないでしょう。

 一人の売れないお笑い芸人が注目されないことに不満を募らせるあまり、ストーカーや誘拐などの犯罪を強行してしまう、【ジョーカー】のもう一つのルーツともいえる映画です(監督・主演は我らがマーティン・スコセッシとロバート・デ・ニーロ)。

 【ジョーカー】を観に行った日の前日深夜にこの映画をアマゾンプライムで見たんですが、劇場で見てて【キングオブコメディ】と共通点が多すぎて(パクリとかそういうことではなく)、色んなところでニヤニヤしてましたね。

 

 脚本が新しすぎたのか興収的には大コケながら、業界関係者には絶大な評価を受けた映画です。カンヌ国際映画祭でもパルム・ドールにノミネートされたり、英国アカデミー賞ではオリジナル脚本賞を受賞した映画なので、今現在はともかく当時は批評家好みの映画、という立ち位置だったのかもしれません。

 なお日本では黒澤明や松田優作などレジェンド級著名人がファンを公表しています。そして言うまでもなくかつて存在したお笑いコンビ・キングオブコメディのコンビ名はこの映画から(まさか犯罪犯すところまで元ネタと一緒とは……)。


 【タクシードライバー】と同じ監督同じ主演の映画ではありますが、あの作品の街中や室内みたいなきったねぇ風景は出てきません。何だったらジェリーの事務所とか、今見ても結構オシャレだったりします。後述しますけどデニーロの主人公のキャラもどっちかというと陽キャよりで、色んな意味で【タクシードライバー】とは対照的です。

 ですが【何者かになれない若者】と彼らの【鬱屈した感情】という点では【タクシードライバー】と本作は一致しており、陰キャと陽キャが同じように承認欲求を満たせず不満の募る日々を送る光景を映した、という意味では表裏一体の作品ともいえるかもしれません。


 また【ジョーカー】と違って、ヴィランとしてとかじゃなく芸人として名声を得る、という一応のハッピーエンドになるあたり、クライム映画ではあってもニューシネマから抜け出した時期の映画って感じですね。

 ベテラン芸人の売れ方をまねるのではなく、素の自分をさらけ出して自分だけの売れ方を模索してこそ道は開ける、という芸能人の卵へのメッセージにも見えてくるのは僕だけかな?



【キャラについて】

 人を笑わせるコメディアン、なのに人を恐怖に陥れる犯罪者、という二面性が主人公・ルパート・パプキンの持ち味ですが、こういうキャラ立ての仕方を見ていると、笑いと恐怖の類似性と言うものに着目せざるを得なくなりますね。

 笑いも恐怖も意外性というか、【常識・慣習からの逸脱】が原因となって起こる感情ですよね。犯罪的行動が原因となって却って人気芸人となる彼の姿は、笑いと恐怖がいかに紙一重な感情か、そしてそのことにいかに我々が無自覚かを訴えているようでもあります。


 あと同監督、同じ役者でありながら、【タクシードライバー】のトラヴィスとは見事に差別化ができてるのも面白いところです。トラヴィスがガリガリで目も虚ろな陰キャだったのに対して、パプキンは澄み切った眼をしていて自分の才能に根拠のない自信を持っている、という一見好青年な人物です。だから誘拐に及んだりするのが余計怖いんだけどw

 同じようにストーカー気質なマーシャに対しては、自己を振り返ることなくヤバい女と思ってる辺りの無自覚さも彼の面白いところですね。

 

 また曲者感出そうとしてる口ひげとか、目標としてるジェリーをコピーした衣装とか、売れるために形から入ろうとしてる努力の垣間見られるビジュアルも個人的にはツボです。


【好きなシーン】

 大スターとなるパプキンの妄想映像(今見ると褒められ方がなろう主人公的なのが笑える)は、【ジョーカー】を見た後だとニヤリとさせられますね。【ジョーカー】のアーサーはマレーのショーを見てる間に妄想してましたけど、パプキンはネタテープを見てもらってる間に何もないところで妄想できるのである意味こっちの方が想像力豊かです。


 また冒頭のジェリー・ラングフォードショーの当時のアナログテレビで映ってた映像そのままな画質にはすごいレトロ映像フェチ心を掴まされましたね。昔のレンタルVHSの冒頭に挿入されてる予告編映像でよくあの画質のセサミストリートが見れました。


 あと死ぬほど悔しいんだけど、芸能人の等身大パネルを立ててバラエティ番組を模倣したパプキンの自室は滅茶苦茶シャレオツな部屋だな、って思わされました。案外テレビ会社に入って裏方から始めてれば正規ルートで成功してたかもしれない、彼。

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