【55本目】ブラック・クランズマン(2018年・米)
黒人差別系社会派映画なら【ブラインド・スポッティング】もいずれレビューしたい。
【感想】
タイトルのクランズマンというのはKKKのメンバーの通称です。
と、言ったら、大体の人がこの作品に興味を持ってくれるのではないでしょうか。ちなみに原題は【BlacKKKlansman】。
ちなみにこの映画のジャンルは伝記映画。つまり、フィクションみたいな物語ながら実話を基にしています。
黒人警官がKKKへのメンバー入りを志願するレイシストになりすまして、潜入操作を行う、という設定だけで手に汗握らせるこの映画。
監督、脚本を【マルコムX】のスパイク・リーが担当し、主演にデンゼル・ワシントンの息子ことジョン・デヴィッド・ワシントンを迎えたこの映画は、2018年にカンヌ国際映画祭でプレミア上映されて以降世界中で大きな反響を呼びました。
2018年のアカデミー賞でも6部門ノミネート、うち脚色賞受賞という好成績を残しています。
同年にアカデミー作品賞を受賞した【グリーンブック】もこの映画に同じく黒人差別を扱っていた(厳密にはそれだけじゃないけど)ので、去年同時期に上映された際にはこの2作はよく比較されました。【グリーンブック】は視聴後感の良い一つのエンタメ作品として優れた映画ですけど、対してこの【ブラック・クランズマン】は、物事の顛末が汚くて曖昧で、だからこそ社会派映画として高いクオリティを放っておりました。
黒人が主人公の映画やテレビドラマが放送される一方で、KKKのポスターやラジオ番組に簡単に触れられた緊張状態の時代として、1970年代を描写しているのがこの映画のキモです。
カエルだのサルだのホモだの黒人蔑視発言が自然と飛び出すのが、現実を綺麗ごとで覆い隠さないぞ!という社会派映画として正しいスタンスで痛快ですらあります(あと「中国人も嫌いだ」って発言も飛び出すんだけど、多分アレ文脈的に日本人含めたアジア系全体を指してるんだよな)。
映画は一応の無難な着地点に落ち着きつつも、ラスト10分で観客を一気に現代の問題へと引き戻します。電話帳を開けば当然のようにKKK団体の電話番号を知ることができ、明らかに同団体と陸軍が癒着していた劇中の時代は(僕らみたいな外国人には特に)一見遠い昔のように感じます。しかし遠い昔の問題かのように思われたことは実は現代と地続きなんだ、と思い知らさせるあのラストは、同国であんな大統領が生まれる時代だからこそ、より訴えるものが大きいと言えるでしょう。
【キャラについて】
アダム・ドライバー演じる白人(ユダヤ人)警官のフリップが主人公の黒人警官と組み、他にも白人警官の何人かが仲間として協力してくれるんですが、要所要所で彼らは明らかに黒人差別発言にニヤニヤしてるんですよね。
結局ロンの計画に協力してくれるので脚本上は味方なんですけど、そうやって差別を許さない聖人!みたいな感じでは決して描かなかったあたりに、人間として描いてる感があって好印象でしたね。
KKKのメンバーたちがすごく和気あいあいとしていて正に一種の家族という喩えが似合う雰囲気で描写されてた点も然り。
寝起き早々呼び出し食らって頭抱えるロンが、頭蓋を直接、じゃなくて髪型を崩さないようにアフロヘアーのガワだけを優しく触ってる辺りも、自分の文化を大事にしてる感を細かい描写で表現してる感じで面白かったです。黒人自治会が集まるシーンでアフロヘアーが大集合してるんですけど、一人一人アフロの質感が違うんですよね。
「アレルギーが出た」と言って声の違いをごまかすロンに、KKK団員のウォルターが「俺もよくある」って笑って流したところにも意外さがありましたね。あ、そっちのマイノリティには寛容なんだ、みたいな。
【好きなシーン】
冒頭の【風と共に去りぬ】引用やラストの逆さま国旗も印象的でがすが、やはり何と言ってもKKKの集会での【國民の創生】の応援上映は衝撃的でしたねー。
黒人自治会での老人の話と交差させながらそのシーンが展開されるのがまたゾワゾワさせられるんっすよねあそこ……
時代設定が1980年代の【ジョーカー】で、トーマス・ウェインがアーサーの殺人事件を「ピエロの仮面をかぶらないと犯行できない卑怯者」と表現してて、時代設定のわりに表現が今のネット社会的で面白いなって思ったんですけど、当時をなるだけリアルに描きつつも、2010年代の視聴者にピンとくる表現をする、という表現方法には観てるこっちが唸らされます。
同じ理由でフェリックスの「ユダヤ人のホロコーストなんてなかった」なんて台詞も、ネットによくいる中年になってから陰謀論に洗脳される人みたいで面白かったですね。
あと前半のストークリー・カーマイケル改めクワメ・トゥーレのブラックパワー連呼の口調が、【映像の世紀】で散々見た本人まんまだったのも感動ポイントでしたね。
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