【99本目】ナポリの隣人(2017年・伊)

 フランス映画やドイツ映画よりイタリア映画を多く劇場で見てるの、この映画の影響かもしれない。


【感想】

 1999年のアカデミー賞で作品賞を受賞した【アメリカン・ビューティー】は、人前では【普通の家族】というコマーシャルを演じながらも、実態は一人一人バラバラなアメリカ人一家をテーマにした映画でした。

 今回紹介する【ナポリの隣人】は、一見普通な家族の暗部を描いたという意味で、イタリア版【アメリカン・ビューティー】とも言える作品だったといえます。

 世界的にも【家族主義の国】という宣伝をよくされるイタリアだからこそ、こういう映画が作られ、日本を含む世界中で上映された意義は大きかったといえるでしょう。

 その徹底したリアリズムが評価され、伊アカデミー賞ことダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞にて作品賞を含む8部門にノミネートされ、うち主演男優賞を主演のレナート・カルペンティエーリが受賞しています。


 序盤では実の家族とギクシャクしている老人が、偶然知り合った赤の他人と親密な関係を築いていく、というストーリーラインで話が展開されていきます。

 まあそれだけならよくある話なんですけど(【グラン・トリノ】とかね)、中盤に入って、平和だった空気は一気に急転直下の様相を見せることになります。本物の家族に愛されないなら、疑似家族を造ればいい、という国問わず創作でよくある救いを、この映画は無慈悲に切り捨てます。


 そういう生生しい話運びによって家族の不和、崩壊を描いたこの映画は、ハリウッド映画でよくある予定調和とハッピーエンドの空気はほとんど感じさせてくれないので、【自転車泥棒】のような往年のネオ・レアリズモを彷彿とさせる作風になっています。


 この映画、登場人物の相関関係が昼ドラ張りに複雑ですが、近しいはずの人々とどこまでも打ち解けず、それゆえ不幸に陥ってしまう、という点がどの登場人物にも共通しています。理解しようと近づいたら逆に嫌われ、遠ざかっても不満がられ、といった具合に、コミュニケーションで何が正解であり、何が不正解か、というジレンマに登場人物全員が陥っているからです。

 名作にありがちな【誰一人悪人がいないのに辛い映画】の一種ですね(主人公や隣人の夫は見る人が見たら悪人だろうけど、少なくとも僕の目には闇を抱えてる普通の人だし)。

 主人公の娘のエレナは法廷通訳者で、個人的見解を挟まずに一字一句被告(おそらく中東からの移民)の言葉を訳することを求められますが、序盤で彼女は言葉だけでは真意は伝わらない、息使いや目つきを見ないとダメだ、と話しています(で、その発言も話し相手の父親に無視される)。彼女のこの発言をしたシーンがある種象徴的ですが、【言葉が理解できるからこそ、余計に相手のことが信用できなくなる】という問題がこの映画の根幹のテーマなのです。

 

 公式のディレクターズノートで【(この映画は)不幸を声高に叫ぶのではなく、無限に寄り添う物語だ】というコメントがあるのですが、ラストシーンでの言葉を介さずに寄り添う父娘は、【言葉が不和を生むなら、いっそ言葉を使わないという選択肢もある】というこの映画なりのささやかな救いが表れてるように思えました。


 余談ですけど色々イタリア映画見て思うのは、イタリア自体がそうなのかイタリア映画がそういう見せ方をしてるのか知らないですけど、印象的な【広場】が多いな、ということですね。

 【ニュー・シネマ・パラダイス】でも広場があの小さい町のシンボル、みたいな形で印象的に映されるんですけど、この映画でもロレンツォが劇中で初めて帰宅するシーン、中盤の事件の後で不安げに家へと向かうシーンなどで、広場が印象的に映されていますね。音響やアングルから言って、社会で理解者のいない彼の孤独さが強調されているんですが。


【好きなシーン】

 視聴1回目と2回目では、かなり見方の変わってくる映画なんですよね。1回目で平和だなーと思っていたシーンが、2回目(オチを知っている状態)で見ると不穏だな……って思わされるシーンが前半に多いです。

 隣人の子供が自分の方を見向きもせずに一人でドローン(ただのラジコンかな)を子供みたいに操縦している父親から離れて別室に向かい、赤の他人のロレンツォにくっついてるシーン、とかが特にそうですね。


 他、患者の身内を装って病院に不法侵入した父親を【父は孤独な人間です】と庇うエレナに、ロレンツォが間髪入れずに【庇おうとしてるのは私のことをボケ老人と思ってるからだ】と突き放すシーンは、この親子の不和とか齟齬とかを一気に凝縮して具現化したかのようで見てていたたまれなかったです。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る