【100本目】マーウェン(2018年・米)
「ミートボールデーだと伝えて?」「それは彼も知ってる」
がビッグバンセオリーっぽくてすき
【感想】
映画オタクやってたら、【こんなにクオリティの高い作品なのに、なんで評価されないんだ!!】とどこにも向けようのない怒りというか、悔しさみたいなものを感じてしまうときがたまにあります。
自分はものすごい大傑作だと感じたのに、興行収入では大コケ、批評家からの評価も散々、本国でそんな評価だから日本でも上映数が少ない、そんな映画です。
今回記念すべき100本目に紹介する【マーウェン】は、それら全てに当てはまる上にSNSでも全然話題にならなかった(と思う)映画です。【バトルシップ】みたいにカルトなファンがついていればまだ注目もされたのでしょうが、この映画にはそんな機会すらありませんでした(そもそも当初の製作費も少なかったし……)。
それでも自分に2019年に日本で上映された映画では、【アベンジャーズ・エンドゲーム】に匹敵する感動と視聴後感を味わわせてくれた大傑作映画です。
【マーウェン】は実際に起きた事件と、その後日談を基にした映画です。
映画の主人公でもある実在の人物・マーク・ホーガンキャンプは、過去の傷害事件(彼の性的趣向へのヘイトがきっかけで起きたヘイトクライム)の被害でPTSDに悩まされ、日常生活をまともに送ることもできなくなった男性でした。そんな彼がセラピーの一環としてフィギュアを使用したジオラマ撮影を始め、結果アーティストとして成功を収める、というのが映画の大まかなストーリーです。
マーク・ホーガンキャンプの人生を知ってすぐに映画化を望んだロバート・ゼメキス監督は、「誰もが生きることに苦悩している時代において、”癒し”は普遍的なテーマだ」とその理由を語っています。
この映画で描かれる主人公の妄想はハーレム的であり、政治的にはあまり正しいとは言えません。実在の女性をモデルにした女性フィギュアたちを、主人公をモデルにした男性フィギュアの周りに囲ませるというジオラマ世界は、見る人によってはかなりオタクというか、異世界転生チートハーレム的というか、非モテの妄想丸出しです。(質感もちょっと【実写キャッツ】的な奇妙さがある)見る人が見たら、それだけで嫌悪感を及ぼしたり、主人公の内面に女性蔑視を見たりする可能性も高いでしょう。
でもねぇ、どんなに荒唐無稽で奇妙で、主人公の醜い一面が見え隠れする妄想であっても、その妄想はトラウマに苦しむ主人公を支え、救ってくれたものなんです。
一見歪で、だからこそ他人の目線を気にしない妄想。誰の心の中にも少しはあるかもしれない、他人に話したら軽く引かれそうな妄想。
【マーウェン】は、そういう個人の歪な妄想を、歪なことは承知のうえで、我々のようなリアルに生きる人間を救ってくれる力(正にゼメキス監督の語る「癒し」)として全肯定してくれる映画なんです。
去年の夏劇場で見て(【天気の子】と同日に都市部だけでこっそり上映されてた)、どんなに【妄想】という従来のメディアでは気持ちの悪いものとして扱われがちな概念を、そのイメージを苦境に生きる人間を勇気づけてくれる存在として肯定的に描いてくれたことに、これまで数あるフィクションに力を貰えた身としてはただただ救われる思いでした。
2018年の暮れにアニメの【SSSS.GRIDMAN】と特撮映画の【仮面ライダー MOVIE大戦 平成ジェネレーションズFOREVER】を見て、【ヒーローは確かに虚構の存在かもしれないけど、彼らが現実に生きる我々に与えてくれる癒しや勇気は本物】というメッセージが奇しくも両作でシンクロしていたことに感動を覚えたんですが、その半年後くらいに(遠出して)この映画を見たもんだから、見ている間感情の大洪水でしたね。
またそれでいて、マークを妄想の世界に閉じ込めようとするデジャや、史上最も共感性羞恥度の高いプロポーズの描写などで、自分の世界にあまりにも入り込みすぎると、他人との間に溝を作ってしまうということもしっかり描写しているところにも、ゼメキス監督の手腕が見てとれます。
ともあれこの【マーウェン】、映画に限らず、漫画・アニメ・ゲームなど、フィクションの世界に心を救われたことのあるすべての人々、あるいは自分の趣味を誰かに「気持ち悪い」「無意味」と蔑まれたことのある方に見てほしいと、胸を張って言える映画だと思っています。興行的にも批評的にも散々な結果に終わった映画ですが、気になった方がいらしたら是非視聴していただきたいです(アマゾンプライム会員なら無料で見れるので)。
【好きなシーン】
メッセージ性で魅せてくれる映画なので、好きなシーンと言われるとあまり思い浮かびませんが、しいて言うなら妄想の世界と現実とが交差するシーンに、ゼメキス監督の手腕が遺憾なく発揮されていたように見えました。
冒頭の「あれ戦争映画?でも登場人物の質感が変だな……」と思わせておいての【実はジオラマでした】という導入は、妄想世界と現実世界を行き来する物語の導入としては白眉だったと思います。
ゼメキス監督の映画だとアニメ映画と見せかけてのアニメ+実写映画でした、という導入の【ロジャー・ラビット】をほうふつとさせますね。
あと弁護士からの留守電で(過去のトラウマを思い出して)電話中にいきなり(イメージ上で)銃撃を受けるシーンや、ジープに乗り込んで進撃するマーウェンの仲間たち→カメラが引いていく→マーウェンの人形たちを引っ張って散歩してるマークなど、居合か何かのようにスムーズに妄想の世界に移行するシーンが複数あるんですが、現実と妄想の区別すらつかないほどにマークが妄想の世界に埋没してしまっていることの描写として秀逸でした。
一応結婚歴があるにもかかわらずおもちゃ屋店員にはザ・コミュ障な反応を返してしまったりと、男らしさを打ち砕かれた男性をこれでもかというくらいリアルに演じ切るオスカーノミネート俳優・スティーブ・カレルの演技も見どころです(吹き替え版の堀内さんも然り)。
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