7-4

ついに、文化祭初日。

花榎高校では、土日の二日間に渡って大規模に開催される。

各エリアでイベントもあったり、

丸一日遊んでも飽きない立派なテーマパークと化す。



「めろんぱんアイス、今年も売れるといいな」

「そうだね、去年よりパワーアップしてるし」



今日は、さまざまな衣装やメイクが許される日でもある。

私は至っていつも通りだけど、他の子は多くが

青春アオハル謳歌のために気合が入っている。



「今日こそ、佳月との距離を縮めるぞ…!!」

「そんなに肩回すと服破れるよ」

「簡単に破れるお洋服じゃありませーん」

「そうですか…」



いつも以上に気合いが入っているのは、やはり晴香だ。

メイクも遊びに行く時より華やか。

佳月じゃなくて違う男を引っ掛けてきそうで心配。



「そーいえば、担任見てなくね?」

「うん?…ああ、そうね」



この一週間、地獄のような家だった気がする。

まあ地獄にしたのは、きっと私なんだけど。



┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉



「ただいま〜…」

「…おかえりなさい」



将にいが帰ってきても、会話はこれ以外特になし。



「お風呂、次どうぞ」

「どうも…」


「食器、置いといて」

「あ、はい」



私としては、なんとかいつも通りを演じようとしていた。

でも下手すぎて、めちゃ冷たい人になってしまった。



「先寝るね」

「あ、おやすみ…」

「おやすみなさい」



いつも、どんな会話をしていたっけ。

私、うまく笑えてるかな。

将にい笑ってないし、出来てないのかな。

布団の上で鏡を見て、そのたびに落ち込む。


ただひとつ、加わった習慣もある。

とは言っても、私はされるがままなんだけど。



ぎし、ぎし、と、ゆっくりこちらへ近づく音がする。

それはもちろん将にいしか居ないわけで。

とりあえず寝たふりをして固まっていたら、

すぐそばでしゃがんだらしく、壁に写る影が見えなくなる。

そしたら、あの大きな手が私の頭をそっと撫でる。

ごめんねって、言ってるみたいに。

優しく、優しく、ときどき手を震わせながら。


それは今日まで、毎日続いている。

いつ無くなるのかは分からない。

でも私は、心地よいそれのために

将にいより早く布団に入るようにしている。


結局、忘れることなんて、出来なかったのだ。



┉┉┉┉┉┉┉┉┉┉



「どした、遠い目して」

「へっ?」

「なんか、すっげえ黄昏てたけど」

「ああ、いやあ?」



そういえば将にい、先生たち主催のイベントで

何かやったりするのかなあ。

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