第6話『将にいの恋人』

6-1

「たかはしーダンボール持ってきてー!」

「ポスターできたよー」

「買い出し誰行くー?手空いてる奴いるかー?」



きょう月曜から金曜まで、文化祭準備が始まった。

今年は二年目ということもあって、みんなサクサク動いている。



「冴島は感動してるよ…」

「奏美が去年ぶっ倒れた甲斐あったね」

「ほんとだよ…伝わったんかな…」



きっとそういうことではないだろうけど、

そういうことにさせてほしいな。



「奏美いいい!!!」

「どしたの」

「いまメニュー表を作ってたんだけどね…」



ちなみに私達のクラスは、「めろんぱんアイス」のお店をやる。

去年やってかなり好評だったので、

クラスの面々があまり変わらないこともあって

復活させることになったのだ。



「とにかく見て!!!」

「あ、はい」



上から順調に、晴香らしく可愛いデザインで書かれている。



「めっちゃいいじゃん!」

「そうなの!そうなんだけど…ここ!!」

「ん?」



これは…ミス?

「めろんぱんアイス いちご味」なのに

横のイラストは明らかにチョコ味に塗られている。



「逆だったらさ…逆だったら、上から塗り直せるのにさっ!!」



いつになく悔しそうに顔を歪めている。



「まさか…ぜんぶ書き直す気?」

「あったりまえでしょ!!!」



抜けているようで意外と完璧主義なので、

ここまで完成させてもミスを見つければ全てやり直し。

それが功を奏するときもあるし仇となることもある。



「上から修正ペンで塗ってさ…」

「それじゃダメなの!」



自分のミスにぷんぷんしている晴香。



「ピンク色っぽい修正ペンあったと思うけど…」

「いやだから…えっ?」



私の何気ない提案に反応が速い。



「大きい文房具屋さん行けば、修正ペンも色々あると思うよ?」

「それ早く言ってよ〜!」



ダッシュで買出し班に飛び込んで、

颯爽と教室を後にした。



「芦野ってああいうとこあるよな」

「うん、あるね ………ん?」

「ん?」

「わああっ!?」



智也だと思って返事したら将に…じゃなくて冴島先生だった。



「三本なら高橋と一緒にダンボール探しに行ったよ」

「あ、そ、そうですか…」



相変わらず素っ気ないな、もう。

もっと自然に出来ないのか私!



「ミニメロンパンとアイスクリームのセット、注文間に合ったよ」

「あ!ありがとうございますっ」

「これが注文明細で、一日目に各種200とアイスは1BOXずつ、二日目は…」



なんでいつもそんなに唇が綺麗なんだろう…。

何か特別してるわけじゃないのに。

ほんのり赤みのある艶めいたそれに、思い切り視線を奪われる。



「…奏美?」

「えっ」

「大丈夫?」

「あ、うん、大丈夫」

「当日の朝に届くはずだから、放送入ったら力仕事できそうな人行かせてね」

「はい」

「くれぐれも、一人で抱え込まないようにっ」



顔を傾けて、念押しするようにぐっと目を合わせてきた。



「…はいっ」



この二文字を声に出すだけで、思考の限界だった気がする。

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