担任の先生はお兄ちゃん
明音
第1話『赴任してきたのはまさかの…』
1-1
ピピピピッ…ピピピピッ…ピピピばちん!
「んーもう朝ぁ?」
短い春休みも、もう終わった。
「将にい起こさなきゃ…」
将にいは遊びに行く時以外、自分で未だに起きられない。全く、困った兄だ。
「将にい!…ってあれ?」
「おはよー」
「わっ!」
「ふふん」
「…めずら、しいね」
「まあね、もういい大人ですから」
「いやいやよく言うわ!」
今日に限って、どうしたんだろう。
始業式だから?いや、去年は起きなかったぞ。
余裕な顔で既に洗顔と着替えを終えている。
「あ朝ごはん、作るね…」
「うん」
何か変なことでもあるんだろうか。雪が降るとか?
「ねえ今日どうしたの」
「どうしたって、何が?」
「いつも起きないじゃん」
「いや、うん、早く出なきゃだから」
「いつもと同じじゃないの?」
「うん」
「なんか仕事増えたん?」
「いや、学校変わったから」
「…は?」
なに?学校変わったって何?どゆこと??
「ウインナー焦げるよ」
「えっ?…ああ!」
あーあ。将にいのせいでちょっと焦げちゃったじゃん。
「パン焼けたよ」
「あ、うん」
焦げたウインナーとサラダと目玉焼き、ジャムとトーストをテーブルに並べる。
「なに飲む?」
「コーヒー」
「はーい」
こんなゆっくりで余裕な朝、いつぶりだろう。
随分前に二人でディズニー行った日も慌ててたのに。
「「いただきます」」
「お、昨日作ってたジャムだ」
「たぶん美味しく出来てる」
「やったー」
あの、そこの貴方。
久々の手作りジャムにはしゃいでないで、教えてくださいよ。その「学校変わった」案件について。
「…顔怖いよ」
「何その何事も無かったかのような口ぶりは」
「だって何も無「あったでしょ!!!」
…はい、ありました……」
皮の硬いウインナーを一口で頬張ると、噛みづらそうにしながら話し出した。
「だから、その、この前まで教えてた学校を辞めて、違う学校に赴任することになりました…」
「それは、転校っていうの?それとも転勤?」
「えっそこじゃなくない?」
「あっ違うか」
「なんだ怒ってないじゃん…」
「怒ってないわけないでしょ」
「え」
将にいの顔が微妙に引きつる。
ごくんと飲み込んで、私は怒涛の返答。
「なんで早く言ってくれなかったの?そしたら何か出来ることとかあったかもしれないし第一に家族なんだから言うでしょ普通そういうことはっ!」
「…ごめん、色々あって」
「言い訳無用!」
「はいぃ」
「で、どこの学校なの?」
「いや、それはその…」
「…言えないの?」
小さく頷いて、残ったトーストとウインナーを口に詰め込む将にい。
最後にコーヒーを一気に飲み干すと、意地悪な笑みを浮かべて言った。
「すぐに分かるよ」
「…へ?」
「ご馳走様でしたー!いってきまーす」
「えっ?えっ?ちょっ待ってよ!将にい!」
ものすごい勢いで玄関の扉が閉まった。
「行っちゃった…」
テーブルには、将にいの分の目玉焼きが残っていた。
「もう知らない!食べちゃえ!」
目玉焼き二つを一気に頬張った。
黄身に火が通り過ぎて、いつもより少しボソボソしていた。
その後いつも通りに洗濯をして軽く掃除して
洗濯干して炊飯器セットして
一人で家を出た。
将にいは、最寄りから一駅の私立高校で英語を教えていた。
私は少し遠めの、違う私立高校に通っている。
だから朝は一緒に行けてたんだけど、もう今日からは行けないんだね。少し寂しい。
電車の扉が開く。まだ朝は冷たい風が脚をすり抜けた。
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