第5話 魔法?なにそれおいしいの?

 椅子に座ると可愛らしい三つ編みの女の子が水をコトっとおいてくれた。


「おみずしかないの。ごめんね」


恥ずかしそうにもじもじとしている。きっと、生活が厳しいのは、本当なんだろう。


「いや、俺は水好きだからありがとう」


ニコッと笑いかけると顔を真っ赤にして何処かへ行ってしまった。何かしたのだろうか?


「妹はやらんぞ!」


「なんの話だよ!」


 キラキラ野郎(勝手に命名)は椅子に座りながら威嚇したかと思うと、


「あ、そういえば僕はルイ。君の名前なんていうんだい?今更だが」


と、聞いてきた。


 コロコロ表情が変わりやすいタイプだな。脳まで筋肉でうまってそう。にしても、名前か…。今の俺は男装しており、リディアなどといった可愛らしい女の子の名前を言うのは少々抵抗がある。だからといって、山田太郎を使うのもな…自分の名前を改名したいほど嫌だった俺は困ったすえ、


「名前などない」


と答えた。


「な、名前がないなんて…君もやっぱり捨て子なのかい?そんないい服装してるのに…。

 大丈夫! 僕が面倒みてあげるからね!!」


 いや、別に家が無いわけではないのだが、涙を流しながらうんうん頷いているルイを見ていると、嘘をついた事や、男装していることが申し訳なくなってきた。


「そうだなぁ…君みたいにそこまで真っ白? 銀? の髪は見たことないし、ヴァイス君とかでどう?」


 ヴァイス…確かドイツ語? で白か。


 なかなか悪くはないどころか、結構好きだ。なんたって太郎よりはカッコイイ。


「ありがとう」


「気に入ったかい? これで君も家の子だね」


 ニコッとルイが笑った。正直男の俺から見てもカッコイイと思えるほどのいい笑顔だった。っとそして話がだいぶそれてしまっている。


「帰るとこはあるから大丈夫だ。名前は今のが気に入ってなかっただけだ。そして、話がそれているのだけど…?」


俺はルイをギロッと睨んだ。


「ごめんごめん。じゃぁ、話すけど…髪の毛の色や目の色で魔力とその適正がきまるんだけど、それは知ってる?」


「まぁ、なんとなく」


「じゃぁ、魔力は女神様からのギフトとされているから、黒髪は女神の子と呼ばれているほど、女神に愛された存在だと言うことは?」


俺は目を見開いた。黒髪=女神に愛されている?では俺は?見事に白のような銀髪の俺は?


「…女神から愛されてない子供というわけか。」


俺の疑問は口をついて出ていた。


「そうだね。愛されてないどころか嫌われていると思われているよ。ついでに、協会に行って女神に祈れば、髪の毛が黒に近くなると言われているんだけど、僕達なんかは協会に言っても追い出されるよ。」


まぁなんとなく、日本とちがって、神=白ってイメージではなく、女神様=黒という、腹黒そうな理論があるのはわかったが、女神に嫌われている=悪魔はひどくないか。


 俺が考え事をしていてうつむいたのを、勘違いしたのかルイは俺の頭をガシっとつかむようにして…


「そんなにショック受けなくても大丈夫。生きてくのハードだけどね、僕がついてるよ。」


っと頭をグワングワン回してきた。こいつ出会った頃は頭良さそうな王子様タイプだったのに、本当に脳みそ筋肉なのかと思うほどのパワータイプすぎる。


「あ、でもね、僕らが悪魔ってよばれるのは少しだけ違うんだ」


ぴたっと手が止まり、真面目な顔になった。


「魔力少ない証のこの髪が魔物を呼ぶんだよ。特に、魔王様とかね」


「魔王?いるのか!? この世界に」


俺は妹がリディアが~などと言っていたのでリディアがラスボスだと信じていた。魔王がいるなら魔王がラスボスじゃないのかよ。


「ッッ…もうだめ…アハハ。そんな少年らしい目で見られるとは。」


爆笑された。嘘だったのだろうか?


「いないのか?」


「いるよ」


 まだおかしいのか震えた声だ。


「いるけど、おとぎ話のようなものさ。モンスターがいるから魔王的なものも居るはずだーってね…まぁ本当にいるのだけど珍しいもの好きの変態野郎が」


 最後の方は聞こえなかったが、おとぎ話なのか。


ガチャ


「ルイー遊びに来たわよー」


 ボンキュッボンの黒髪グラマーなお姉さんが扉をあけ、ルイにむかって抱きついていた。


 ルイはムチムチボディに抱きつかれている。正直羨まけしからんが、お姉さんには黒髪に角らしきものや、羽のようなのものまで…まさか…魔物?


「ひどいじゃないルイなかなか来てくれないなんて。逆にこっちから来ちゃったわ。」


 お姉さんが来た方向から、角のついた黒い子犬がヨタヨタとお姉さんにちかよってきて、クゥーンクゥーンと鳴いている。


 お姉さんはその犬をひと目見る。すると、


「あら? あんたも来たの?

 我が子ながら黒色に興味はないのよね~

 なぜ、魔物は白系産まれないのかしら?」


 軽く子犬を掴んで顔まで上げたかと思うと冷ややかな目で見たあと、興味がないというようにペシッと投げ捨てた。


 え? 何この人ひどすぎる? 我が子って犬? やっぱ魔物? 


 つてか、人型って相当力強いんじゃ…ルイの知り合いなのかよ。

え、ってか魔物なのに黒髪って女神理論どこいったんだよ。


「ね、魔王はいるでしょ?」


 ルイはと笑った。


「ま、魔王…?」


 きっと俺の顔は、鏡で見たら間抜けな顔をしているであろう。ラスボスいきなりきちゃったよっ。


「うん、そう。モンスターや、魔族には魔力が低い子が産まれないため、白系統の人間が大好きな変態痴女野郎だよ。」


「ひどーい。痴女じ…え、何この子綺麗!

 とてもいいわ。うふふふふ、ルイったらこんないい美少年を拾って来たのね。いいわね、ダントツいいわ。連れて行っていいかしら?」


「僕の子なので駄目です」


 よくわからない、どういうことだ。机から身を乗り出してるこの人とが魔王様?


 とりあえずこのままでは連れてかれそうだ。


「俺はルイの子ではありません。

 女神様の愛=黒髪理論じゃなかったのか?

 魔王が黒髪なんて女神は魔王様を愛して…?」


「あら? 違うわよ~

 あのビッチが黒髪フェチだから時々異世界から黒髪の美形を連れてきてるのと、黒髪イケメンにばっかり加護を与えているだけで、元は魔族の色が黒よ」


 きっと俺の今の表情は絶句というのが正しいようなきがする。


「まぁ、私は逆に白系統が好きなのよね。魔族にはない色だし、あのクソビッチと同じというのは嫌なのだけど」


「一応そこは、仲悪いんですね」


「そりゃそうよ~だってアイツ魔族にしか純粋な黒がいないのを妬んで魔族討伐を人間にやらせてるのよー?

 私も人間に魔族と同じ黒がある事が嫌で、人間見ると殺れっていってるのだけど。うふふ」


 え、モンスターひいては魔物VS人間って、魔王様VS女神様の性癖対決なのか…。世界を巻き込むなや。


「それはそうとぼくぅー?

 ルイの家の子じゃないならお姉さんのところに来ないー?」


「あげませんよ。貴方には、僕の家の子にしますし。」


「いや、俺帰る家あるから! 悪いけど帰るよ」


「え、本当に帰るのかい?」 


「あら、そうなのー?それならこの子を連れてきなさい。本当は私がついていったり、私の加護をあげて魔族にしたりしたいのだけど、私の加護でその色濁っても嫌だし…ついていくには仕事があるのよね。君の事諦めないからよろしくね♡」


 黒い子犬が目の前に突き出された。なんだか、泣いているような…。一目見たときから可愛いなぁと思うほどには、俺は犬派である。しかし、連れて行くのは可愛そうな事をしている気分になる。


「泣いているように見えるからちょっと…」


「あらー? 連れてかないの? 仕方ないわ。

 勝手についてきた上に約立たずなんて、ムカつくから殺そうかしら。」


「いえ、責任を持って育てます」


もはや条件反射だった。言葉が考えるより先にでる。


「それはよかったわ」


 魔王様の教育方針えぐすぎないか…?

息子に愛情なさすぎる。俺が代わりに可愛がってやろう。なんたってもふもふだし。犬を飼いたいけど飼えなかった俺は心なしかワクワクしており、魔王様と子犬の会話が聞こえてなかった。


「13番目の息子ちゃん、あの子がコレクションとして欲しいの。私しか頼れないくらいに孤独にしてきなさい?ママのお願い聞けるわね?」

という会話が。


 俺は知らなかったのだ。ゲームのリディアは黒い狼を従えており、魔法を使ってたのはリディアではなく、狼と言うことを。


 リディアがモンスター化するのは魔王様にお願いして魔族になったからということを。


 何より、リディア嫌いの妹がやっていない隠しルートの中にリディアに近づき、ヒロインちゃんのレベルをマックスにすると、この13番目とヒロインちゃんが恋に落ちる魔王討伐編があるということを。




 つまり、多少の違いはあるものの、ゲームの通り進んできているということを、実際にゲームをしていない俺は何も知らずにもふもふ育成計画に没頭していたのである。

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