くるくる、まわる

ムラサキハルカ

 一.十二月中旬某日

「どうしたんだ舞。ぼんやりとして」

 目を開けると、はじめが呆れ顔で私を見ていた。まだ働ききっていない頭を軽く振りながら辺りを窺うと、右側には生協と食堂が入っている四角い建物があり、左側には背の高い木々に囲まれた喫煙スペースがあった。

 そこでようやく、ここが大学なのだと理解する。日の傾きと空気の冷たさから判断するに、冬の夕方より少し前だろう。

「ねぇねぇ、一。今日は、サークル棟には行かないの」

 所属しているのはただの飲みサークルなので、一定の会費を払う他の義務なんかない。けれど、サークル室に常駐している同級生や留年生ども(もといありがたい先輩方)は暇潰しの相手としてならば付き合い甲斐があるので、特になにもなくても顔を出すことが多かった。

 一は怪訝そうな表情を作る。こいつの方が私よりも幾分か背が高いせいもあってか、なんとなく見下ろされているみたいでいやな気分になる。

「何言ってんだ、お前。今日は俺の家で今月の予定を相談するって話だっただろう」

 その言葉を聞いて、ようやく、頭が起き上がりはじめる。そうだった。たしかに、こいつの家で今後の予定を決めるつもりだったんだ。

「そうだったね。ちょっと、寝足りなかったのかも」

「さっきの哲学、思いっきり爆睡してただろう。それで寝足りないのかお前」

 呆れ顔をする一に少しだけむかっとしたので、指先の腹を思いきり頬っぺたに押し付ける。途端にこいつは冷たそうに顔を歪める。本当は、額に爪を押しつけて肉とでも書いてやりたい気分だったんだけど、生憎ヒールの高さを含めても指が届きにくい位置だったので諦める。

「なにすんだよ」

「あんたのさっきした顔がむかつくの」

「どういう顔だよ。言われなきゃ、わからないんだが」

 言われてもわからない癖にと思いつつ、その問いに答える気にはなれないまま欠伸をする。

「とにかく寝不足なの。着いたらちょっと寝かせてよ」

 そう言いながら、家にゴムが残ってたかなと考えた。

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