具現化能力を得たので変身ヒーローになってみる
Last
初めての異世界転生
気が付くと真っ暗な空間を一人で歩いていた。
真っ暗といっても、周囲には星々の様なものが煌めいていて、不思議と視界が悪い気はしない。
ここは何処なのだろう?
何時からここにいるのだろう?
何故、歩いているのだろう?
そんな疑問が浮かぶが、どういう訳か、このまま歩いていかなければならない、という漠然とした思いから足を進めていた。
やがて、一つの“星”の様なものに向かっているのだと気付く。すると、それはどんどん大きくなり、見上げなければならない程の巨大な水晶が目の前に現れた時、自然と足が止まった。
「クリスタル……?」
不意に口にした言葉へ反応したように、目の前の巨大な水晶が煌めき始めた。
『よく来てくれました、
水晶が話し始めたのに驚いたが、それ以上に驚いたのは志藤巧真という名前と共に、自分自身が何者なのか思い出したからだ。
『貴方は先程、天寿を全うした為ここへ来てもらいました』
その一言はすんなりと自分自身の中に受け入れられた。
俺は幼い頃から身体が弱く、小学生の頃から入退院を繰り返し、中学などは殆ど行けず病室のベッドの上で寝て過ごしていた。
確か、十五の誕生日を迎えたのは覚えている。その前後は薬の影響からか、意識が混濁していてよく思い出せない。ただ、自分の命は間もなく尽きるのだろうと感じていたのだ……
「……ここは死後の世界? 天国とか地獄、閻魔様の裁きとか、そういうのがあるのかもしれないと思ってたけど……こんなところに来るのか……」
と、感心して辺りを見回す。相変わらず星々が煌めいていた。
『いえ、神々が行っている魂の運営、確か輪廻とか言いましたか……そこへ介入して、貴方の魂をこちらに呼び寄せたのです。厳密に言えば死後の世界とは異なりますが、まぁ貴方にとっては似た様なものでしょう』
「へぇ……では、クリスタルさんは神様ではない?」
『ええ、そうです。貴方には解り難いかもしれませんが、私は世界の意思の様なものの一つです。貴方にここへ来てもらったのは、別の世界へ転生してみませんか、というお誘いです。勿論、元の世界の輪廻の輪に戻りたいのならそれでも構いません』
「うーん……それなら、元の世界へ戻るかなぁ。生まれ変わったら今の記憶は無くなっているだろうけど、姉さんや、両親に恩返しできるかもしれないし……」
姉さんは学校の行事がある時以外は、ほぼ毎日のようにお見舞いに来てくれていたし、両親も姉さん程ではないが来てくれていた。医療費だってバカにならなかっただろう。
何一つ家族にしてあげられ無かったのが心残りともいえる人生だった。
俺さえいなければ、各々、自由に時間を使えたのかもしれない。
そう思うと、逢える確率が数十億分の一だろうと、恩を返せる可能性がないわけではない。また、たとえ逢えなくても自分の行動の一つ一つが巡り巡って、少しでも家族にプラスに働くかもしれない。
『貴方は元の家族に恩を感じているのですね。では、こういうのはどうでしょう? 元の家族の方々には無病息災で暮らせるよう、また事故に遭いにくくなるような多少の介入を行います。ただ、人々の悪意による事件、神々が起こす天災などには介入できませんが……代わりに貴方には他の世界に転生してもらう、というのは?』
人の悪意……通り魔に襲われるとか、何かの犯罪に巻き込まれるとかかな?
天災はどうしようもないな。
「……その方が数十億分の一に賭けるよりかはマシな恩返しになるのかな? どうして、そこまでして別世界への転生を勧めるのです? クリスタルさんに何のメリットが? そして、どうして俺が選ばれたのです?」
『せっかく世に生まれ出でたのに、何も為せずに死んでしまった魂を憐れんで……という理由ではいけませんか?』
「それでは、俺である必要は無いでしょう。俺より若くて死んだ者はいくらでもいるし、別の世界へ転生するのに、元家族へ対価を払ってまで勧める理由がわかりません」
『まず、誰でもいいという訳ではありません。魂には位階というものがあり、この位階が高い者ほど順応性が高い傾向にあるのです。例えば同じ環境で育ってきた二人がいたとして、同時に絵を描かせるとします。一人は上手く描けて、一人は上手く描けなかった。これは魂の位階の違いから生じる差なのです』
「それって単に才能が有るか無いかってだけの話では?」
『才能が有るから魂の位階が高いのでは無く、魂の位階が高いが故に才能があるのです。勿論、上手く描けた方が努力せず、下手だった方が努力した場合は逆の結果になるでしょう。ただ、両者が同じだけの努力をすれば、やはり魂の位階の違いによる差は出るでしょう』
「成る程……俺はそこそこ魂の位階が高い?」
『ええ、貴方は
「うん? 生まれ変わったら、前世の記憶って無くなるのでは? 生まれ育った環境からそういうものだと教えられれば、常識が違っても大丈夫だと思うけど?」
『恐らくですが貴方の場合、正常な輪廻転生では無いので、記憶の消去作用が上手く働かないと推測されます……』
「恐らくって……今まではどうだったのです?」
『今までも何も、別の世界から魂を転生させる――
「えぇ!? 何それ、実験? とかモルモット的な意味で転生を勧めていたってこと?」
『まぁそうなります……前例が無いことに不安があるかもしれませんが、どうでしょうか?』
「うーん、実験体になるってのは気分の良いものじゃないけど、――姉さんや両親の為に転生するよ、別の世界に」
『そうですか、ありがとうございます。では、私から貴方に特別な恩恵を与えたいのですが、どういった能力がいいでしょうか?』
「恩恵? 能力? 何です、それは?」
『こういった別の世界へ転生してもらう際、代償に何か特殊な能力を授けるのが定番らしいのです』
「へぇ……不老不死とか超能力とか? っていうか定番なら他にも異世界転生した人っているのかな?」
『ええ、私が行った訳ではありませんが、貴方の世界でも過去に天才と呼ばれた偉人がいたと思います。その内の何人かは異世界転生者で、異世界の知識で天才と呼ばれていたようです。先程、記憶の消去が上手くいかないかも、と言ったのはそういう理由からですね。しかし、不老不死ですか……そうすると貴方は生まれた赤子のまま生涯を過ごすことになるのですが……』
ああ、老いないから成長しないのか。まぁ言ってみただけで、何ができるようになるのか知りたかっただけなんけど。
というか、不老不死になんて簡単になれるみたいに言っているけど……秦の始皇帝も吃驚するだろう。
『それと超能力ですが、これから行って貰う世界では魔法や魔術と呼ばれる技術で代行できます。もう少し具体的に、こういう能力が良いというのはありませんか?』
「魔法がある世界なんだ!……とは言っても、ファンタジー系のアニメや映画ってあんまり観てないし、RPGも長時間のプレイが辛くて、それ程やってこなかったから、いまいちイメージが湧かないなぁ……特撮の変身ヒーローものならよく観ていたんだけど」
寝たきりの俺には、あんな風に自由自在に飛び跳ねたり、走り回ったりできる人が羨ましかったのだ。
『その特撮変身ヒーローとは……ふむ……なるほど……それなら身体強化系と具現化系に特化すればいけそうですね』
「うん? 特撮変身ヒーローの様になれるってこと?」
『ええ。ただ、身体強化はともかく、具現化で様々な能力を持つとなると……そうですね、こちらをお持ちください』
すると、目の前に細かな光の粒子が集まってきて、やがて白く小さな板の様な物に変わっていき、それを手にして気付いた。
「これって俺が使っていたスマホ?」
『そうです。それをすぐに具現化できるようになりますので、そこから様々な能力を付与してみてください。それに変身ヒーローはそういう道具を用いるものなのでしょう?』
「おお! ありがとうございます! 大事にします! うわぁ、早く変身してみたいなぁ」
『では、早速転生しますか?』
「はい、お願いします!」
『フフッ、それでは貴方の来世に幸多からんことを……』
その言葉を聞きながら、俺の意識は遠のいていった。
大事な何かを聞き忘れている気がしながら……
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