令和最初の夏に異世界に転生したった!♡

野々華ライデン

第1話  私、異世界転生なう、マ???

前に撮影の待ち時間中にモデル仲間の杏里が言ってた。


「今、主人公が異世界に突然転生した結果、めちゃくちゃスペックが高いスーパーマンみたいな存在になって、活躍する、みたいな内容の小説が流行っているらしいよ」

と。


ほかにも色々と話していたから、はいはいって聞き流していたけれど今となってはもしもうちょっと杏里がその話をしてくれたときに真剣に耳を傾けていたらと思ってならない。途中の設定はともかく、ストーリーの結末がどうなるのかだけでも聞いておけばよかった。



私、どうやら異世界、なう。







子供の頃から足は速い方だった。


いつもリレーの選手で、かけっこ1位は当たり前。


学校の外の大会でどれだけの結果を出せるのかというのが毎年の私の楽しみだった。


と言ってもこれは単に生まれつきそうだったと言うだけで、努力して手に入れたものは幼少期から続けているヴァイオリンのスキル。


あまり練習時間のない日々の中でもコンクールで賞を受賞することもあるからそう悪くはないレベルだと思う。





そのほかに私について言うとするのなら、大学に入って以来モデルをしている。

9頭身のスタイルを生かせる仕事だったから、アリかなと思った。

お陰で初めてモデルデビューしてから割とすぐに単独表紙も飾らせてもらった。



もちろん外見だけで中身が薄いって言われるのだけは許せないから勉強にも全力。


普通の受験科目だけではなくプログラミングに至るまでなにもかもを全速力でやってきたと思う。

だから才色兼備モデルとして、テレビのニュース番組にも毎日出してもらっている。


正直なところ睡眠時間とか、課題とか、いろんなことを考えるとショートしそうになるけれど、それが目に入らないふりをしながら目の前のことに必死にくらいかかり、一瞬一瞬に全力を尽くすことをし続けたら全てをなんとかこなすことができる。


いつ寝てるの?とか、本当に1日が24時間なの?もしかして36時間だったりしない?って聞かれるけれど、毎日4時間睡眠で、起きている時間中はギンギンに頭が冴えわたっている状態で次から次へと襲ってくる全てをなぎ倒し続けているだけだ。


時間がないなら、短距離走のペースで長距離を走ればいいじゃない。


前にそう言ったら平成のマリーアントワネットって言われたけれど、できれば新しい年号にしてほしい。

自分のことを古くさく感じるのなんて真っ平御免だから。




さて、杏里が話していたように


「ごく平凡な能力しか持たない主人公がトラックに跳ね飛ばされた勢いで異世界に飛んだら全ての属性の魔法を使えるようになった上に、その威力が魔法を教える先生たちのものをはるかに凌駕していて学院中を驚かせてスーパーヒーローとしての人生が始まった」

という異世界に転生する時のセオリーが本物なのだとしたら、現世ですら、完全なるハイスペック女子の私が異世界に転生したら、どこまで無敵になれるのか知りたい。

そんなことを思いながら歩いていたら、突然自転車に跳ね飛ばされた。





で、今に至る。


周り中みたことのない景色。


一瞬、あれ?私、死んだ?ここは天国かな?とも思ったけれど、天国にしてはあまりにも地味すぎるし、そもそも自転車で轢かれて即死なんていうことはなかなか起きない。


確かに確率がゼロだとは言わないし、実際に起きているのも知っている。だから私は自転車用の保険にも入っている。加害者になってしまった時用の保険ね。


で、話が逸れたから話を元に戻すと、私はたしかに自転車に轢かれた。


でも、ひかれたというよりはひかれかけたに近い。あ、ぶつかる!と思った次の瞬間、痛みも傷もない状態で、変な着物を着て、通りに立っている自分に気付いたというのが正確な表現。


これって死んだって言えるのだろうか。



辺りを見渡して見たけれど、天国の門もなければ地獄っぽさもない。


死んだ祖先らしき顔もなければ天使もいない。



当然のごとく小さい頃に死んだ犬のポチも出迎えに来てくれていない。




風景も天国とか地獄みたいなファンシーな感じと違って、周りの景色は昔の日本!という感じ。


あっちに天守閣、こっちに武家屋敷、そっちには長屋、あの辺には竪穴式住居。



科学技術とかは一切進歩していません!

水道何それおいしいの?

状態の景色だ。


私の着ているものもトラディショナルジャパン!って感じ。



あのー、私は、異世界に転生したんですかね?



杏里が話していたことによると、異世界に転生すると神様みたいなのが現れて

「ここは異世界じゃ!」

って言ってくれたり、そこまで露骨ではないまでも、魔物に襲われていたところを助けてくれた異国情緒あふれる衣服の騎士に

「見慣れない服だな。君はアデラルールのほうが出身か?」

などと聞いたことのない地名を聞かされたりしてここが元いた場所とは全然違う場所だと気付いたりするはずなんだけれど。

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