第33話 映画の観客(H)の証言

H「当時としてはありえないほどシャープなアクション・シーンでした。

 今となってはそれほどでもありませんが、当時はスクリーンの前で思わず目を見張ったものでしたよ。

 細身の美青年が闇と触手の合間を縫って、怪物と化した少女に駆け寄りましてね。

 いやー、もう、本当に鮮やかな身のこなしでしたよ。

 私、憧れて真似をして足首をひねってしまいまして……

 いやいや、それはどうでもよろしいですな。


 少女は、頭は怪物になってしまいましたが、それ以外は少女のままでした。

 青年は少女の前でひざまずき、切り落とされた指を拾って、少女の左手にそえました。


 私、こういうの、わかるんですよ。

 あのシーンはきっと、作り物の指を引きちぎる様子を撮影して、フィルムを逆回しにしたのです。

 少女の指は、元通りに手にくっつきました。

 指輪をしたまま、ね。


 青年は『すぐに助ける』と叫びました。

 指輪にそういう力があるという設定だったのです。

 ですが少女は青年を突き飛ばしてしまいました。

『クトゥルフの力を使わなければニャルラトホテプと戦えない』と。

 もともとはニャルラトホテプの力でクトゥルフを退治する話だったのに、いつの間にか逆になってしまいましたね」

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