第7話 フェブラリータウンからの手紙 2
親愛なるオリヴィアへ
この町、ヘンだわ。
別にインスマウスみたいにハッキリとした危険があったってわけじゃないけど、何ていうか、違和感があるのよ。
まず、町並み。
ホテルもそうだし、民家とかお店とか、駅舎もそう。
何もかもが、古めかしいんだけど古びてはいないの。
まるで映画のセットみたい。
今の時代に古いデザインの建物をわざわざ建てたって感じなの。
ちゃんと生活してる人が居るから、セットではないわけなんだけど、その人たちも何か不自然なの。
これも別に挙動不審とかじゃないんだけど、何かが足りないような――
インスマウスの人たちみたいに特徴的な顔をしているわけでもないし――
今日の様子を一から書くわね。
書いてるうちに何か気づくかもしれないわ。
わたし、ずっとルイーザにお供していたのよ。
子供だけでどこかへ行かせるわけにはいかないから。
そうしたら、朝一番でショッピング。
ここもまたアンティークショップと言うか、タイムスリップしてきた昔の普通の雑貨屋と言うか、そんな感じのお店でね。
ルイーザは、入念に選んで、大きなバスケットを買って、駆け足でホテルに戻って、サイズがぴったりだって大喜び。
赤ずきんちゃんが持ってるような可愛らしいバスケットに、サン・ジェルマンおじいちゃまの頭蓋骨を収めて、午後から再びお出かけしたの。
ルイーザが言うにはね、町で一番力のある人に会いに行くんですって。
「町長さんなら役場に居るだろうけどいきなり行っても会ってくれないわよ」ってわたしが言ったら「そういう力じゃない」って。
どこに居るのかも、何ていう名前なのかもわからない。
これから調べる。
どういう人なのか訊いたら、学者のような神官のようなって、しばらく考えて、魔法使いって。
でも結局、今日はその人には会えなかったわ。
聞き込みなんかしても答えてくれるはずがないだとかで、ひたすら、おさんぽ。
よそ者が居ればそれだけで向こうから反応してくるはずなんだそうよ。
ルイーザは、風の吹くままふらふらと歩き回って、足を止めては景色を観たり、足を止めてはバスケットをなでたり。
それでフッとわたしのほうを見て、気まずそうにするの。
まるでわたし、妹の初デートに着いてきちゃったおせっかいなお姉ちゃんみたい。
ルイーザとサン・ジェルマンおじいちゃまって、血が繋がっていなくったって、そんな関係には絶対にならないわよね?
夕方になって何事もなくホテルに戻って、夕食の前にこの手紙を書いているの。
一日かけて手がかりゼロなのに、ルイーザはいつになく余裕だったわ。
それどころか、何だか浮かれてもいるみたいで。
「時間は気にしなくていい。この町では時間は無限にある」ですって。
無限とか、そういう言葉を使いたい年ごろなのかしら?
宿代は有限よ。
なんとこのフェブラリータウンには銀行がないの!
ああ、これ、この町の違和感の正体の一つね。
でもまだ何かあるはずだわ。
そろそろアデリン叔母さまも帰ってくるころだから、先にこの手紙を投函しておくわね。
じゃ、またね。
キャロラインより。
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