第4話 ルルイエ邸からの手紙 1

親愛なるオリヴィアへ


 変な文章になっていたらごめんなさい。

 すごく動揺しているの。


 今、実家のわたしの部屋に居ます。

 部屋の中はわたしが寮に入る前と何も変わらないわ。


 ルイーザはすっかり大きくなってた。

 使用人はごっそり入れ替わってた。

 ここまでは予想していたとおりよ。


 汽車の中でずっと、久しぶりにパパに会うのに何を話せばいいのか考えてたわ。

 だって親子なのに宝石の相続の話しかしないなんて品がないじゃない?


 急な出立だったからオリヴィアには言ってなかったと思うけど、アデリン叔母さまからの手紙に、パパがブルーダイヤを売ろうとしてるってあったのよ。

 ルイーザはまだ子供だからダイヤはパパが管理するって言うのはわかるけど、おばあちゃまはダイヤをルイーザに継がせたがってるし、そもそもおばあちゃまはまだ生きてるのに!



 だから、何て言ってパパを止めようか、汽車の中でずっと考えていて、でも長旅で時間があったからいろんな想いがよぎってきて、ダイヤ以外にも、わたしの近況の話とかもしないといけないかなとか思って……



 でもね、我が家の目と鼻の先で、そんなの全部、吹き飛んじゃったの!


 わたしが乗っている馬車を別の馬車が追い越して、何だか馬がいうことを聞いてないみたいだったの。

 その馬車は横倒しになって、乗っていた人が亡くなったわ。

 博物館の館長ですって。


 パパはブルーダイヤを博物館に寄付しようとしていて、館長自身が受け取りに来たの。

 寄付よ。売るんじゃなくて。

 高価なダイヤを。


 パパは詳しい話は明日するって言ったわ。

 今日はもう遅いからって。


 だけど何だか嫌な予感がするのよ。

 明日になったら手紙なんか書くどころじゃなくなるような。

 だからこれだけ先に送っておくわね。


 盗み聞きするつもりはなかったんだけど、廊下で聞いてしまったの。

 館長に渡すために応接間に用意していたブルーダイヤが、自室から一歩も出ていないはずのおばあちゃまの指に戻ってたって。


 何だかもったいぶってるみたいになってしまってごめんなさい。

 続きを書けるように祈っててちょうだい。



キャロラインより





PS.

 返事は書かなくていいわ。

 きっと行き違いになるもの。

 そちらからの手紙がこちらに届く前に、こちらから次の手紙を送れる。

 そう願ってる。

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