第2話 中年のメイドの話

「アタシはその日は用事があって、屋敷に居なかったんですよ。

 何の用だったかはもう忘れちまいましたが、忘れるぐらいなんだから、たいした用じゃなかったんでしょうね。


 とにかく帰ってきたらルイーザお嬢様が生まれてらしたんですよ。

 キャサリン奥様には妊娠しているような素振りはまったくありませんでしたよ。

 だからってそれが何だってあそこまでの大騒ぎにならなきゃいけなかったんだか、アタシにゃサッパリです。

 同僚達には運が良かっただの羨ましいだの散々言われましたけれどね、何のことかって訊いても誰もマトモに答えてくれないんじゃ、ただの嫌味でしかありませんやね。

 

 死んだのはキャサリン奥様だけでしたよ。

 医者も警察もアタシが呼びました。

 何せあの時あの屋敷でマトモだったのはアタシ一人だけでしたからね。


 使用人はみんなパニックになって泣き叫んで、本当なら一番落ち着いてなきゃいけない執事が一番最初に逃げ出したって言うんですからね。

 そのせいであの執事がキャサリン奥様を殺したんじゃないかなんて疑ったりもしましたけどね、キャサリン奥様の死因は、心臓麻痺だそうですよ。

 おとなしくしてらしたのはパトリシア大奥様だけでしたよ。

 それだってあとで考えたら呆然ぼうぜんとしてただけだったんでしょうけれどね。


 ものすごい死に顔でしたよ。

 大変なショックを受けたんでしょうね。

 ルイーザお嬢様が、旦那様が愛人に産ませた子だってウワサはアタシだって知ってますけどね。

 仮にそうだとして、それを突きつけられたのがキャサリン奥様の心臓が止まった原因だなんていうのは、あのかたの死に顔を見てない人の言うことですよ。


 アナタ、悪魔って見たことあります?

 アタシだって本の挿し絵でしか知りませんがね。

 アレが本の中から抜け出てきたとしたって、それを見ただけではあんな死に顔にはならないと思いますよ。

 本の挿し絵なんて所詮は人間が考えて描いたものじゃないですか。

 きっとキャサリン奥様は、そんなのじゃない、本物の悪魔を見てしまったんですよ」

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