いわくつき物件って最恐の防犯なんじゃね?

ちびまるフォイ

人 対 幽霊

「……私の家の近くでも空き巣被害が多くなっているんです。

 うちにはなにもないとはいえ、やっぱり荒らされるのは嫌じゃないですか」


「なるほど。でもどうしてうちへ?」


「私、古い人間だから機械とか苦手なんです。

 防犯カメラをつけたところで見方がわからないなんてことになりそうで」


「そうでしたか、弊社の幽霊防犯システムにお任せください!」


店員はドンと自分の胸を叩いた。


「まず、この防犯システムを導入するにあたって

 お客様を審査しているんですが、お客様は問題なさそうですね」


「え? なにか審査していたんですか」


「いえね、幽霊が見える人でないとこの防犯は意味がないんですよ。

 お客様は幽霊が見えるタチのようなのでよかったです」


「よくわかりましたね……。実はそうなんです」


「はい、ではこちらを」


店員はテーブルの上に書かれている模様を指差した。。


「これはいわくつきの模様です。これを外からは見えない場所に描いてください」


「どうなるんですか?」

「呪われます」

「えっ」


「あ、大丈夫。といってもこの模様からそう遠くには行けません。

 なので家に入っていることはありません。

 家に入ろうとしてくる人間を容赦なく呪うだけです」


「配達とか困りそうですね……」


「配達は玄関前でしょう?

 家に押し入ろうとする明確な意思を感じなければ牙を向きません」


「番犬みたいな……」

「犬よりもコスパいいですよ」


客はにこにこ顔の店員には少し懐疑的だった。


「あの、でもこれ本当に効果あるんですか?

 できれば水際でとめたいんですけど……」


「というと?」


「この御札で呪ったとしても即効性はないじゃないですか。

 空き巣されて、家を荒らされて、仏壇を壊されて、

 その後で呪い殺したとしても私としては嫌なんですが」


「そこはご安心ください。心霊スポットはご存知ですよね」

「ええ」


「あそこに足を踏み入れる前にいや~~な寒気や空気がするでしょう?

 家に入ろうとするほどに幻聴や幻視が強くなります。

 ドアノブに手を触れでもしたら肩が重くなって、足もすくんじゃいますよ」


「それなら安心ですね」


客は家に帰ってから門の内側に魔除けのような模様を描いた。

これで本当に効果があるのかと心配で夜もふわふわと徘徊していた。


「~~」

「~~~~~」

「~~!」


深夜の丑三つ時。外からなにか声が聞こえる。

おそるおそる窓から外を見てみると覆面をした男たちが集まっていた。


(あ、空き巣!? こんなに早く!?)


けれど、家に入ることはなく家の外でなにやらもめている。


「やばいよ、なんか嫌な予感がするんだよ!」

「何ビビってる! この家に金があるってこと知ってるだろ!」

「霊感ないけどこの家近づいちゃまずいって!」


効果てきめん。

空き巣たちは強烈な霊気に気圧されて中に入れない。

あまり騒ぐと見られるからかそそくさと帰っていった。


「ああ、幽霊防犯しておいてよかった」


安心していた数日後のこと。

家の門の外には見慣れない盛り塩がしてあった。


「い、いったい誰がこんなことを!?」


盛り塩の効果なのか描いたはずの模様も若干薄まっている気がする。

彼らはけして諦めていなかった。


この家に残されたままの大量の遺産を手にすべく再チャレンジするつもりだ。


薄まっていた模様をさらに強く描きなおした。

盛り塩は一気に真っ黒に染まる。


「これを見てビビって逃げてくれればいいけれど……」


その夜も空き巣たちはやってきていた。


「なぁこの家だけはやめとこうよ」

「まだビビってんのか。せっかく霊媒師から御札もらったんだろ」

「幽霊を怒らせたらどうするんだよ」

「大金が得られるなら呪われたところで除霊してもらえればいいんだよ」


空き巣は家の中に御札を投げ込んだ。

霊媒師からの強力な御札というだけあって、模様がかき消された。


「よし、明日様子見に行こうぜ」


空き巣たちは去っていったが、極寒の地で丸裸にされたような気分。

翌日、客はふたたび幽霊防犯の店を訪れた。


「え!? 除霊されちゃった!?」


「そうなんです。奴ら昼間に御札の効果を確かめてから

 再度夜にアタックするみたいなんです。どうしましょう」


「それは……困りましたね……」


「このままじゃ他人に家を荒らされて何もかもめちゃくちゃです!

 私は単に静かな日々を過ごしたいだけなのに!」


「……わかりました、一番強力なものを派遣します」


その夜のこと、強すぎる防犯霊のために見ることも許されず

客はたた家の中で空き巣が来ないように祈っていた。


しかし、祈りもむなしく聞き覚えのあるささやき声が近づいてくる。


「よし、昼間もチェックしたしもう大丈夫だろう。……ん?」


余裕を感じられていた声が急に恐怖に引きつった。


「うあ……うあああーーーー!!!」


忍び足も忘れた空き巣たちはドタドタと一心不乱に逃げ出した。

防犯霊の様子は見えなかったが、逃げていく空き巣たちは見えた。


「やった! やった! これでもう安心だ!!」


あの恐怖におびえた背中を見ればもう空き巣をしにくることもないだろう。

これからは安心してここにとどまることが出来ると思った。


後日、客は今回の感謝を伝えに幽霊防犯を訪れた。


「……あれ? こんにちはーー。だれかいませんかぁーー」


呼びかけても返事がない。

何度か呼びかけていると、店の外から近所の人がやってきた。


「ああ、人の声が聞こえてびっくりした。

 あんた、この店になにか用でもあるのかい?」


「ええ、実は店主にちょっとお礼が言いたくて」


「店主? ……この店はもうずいぶんと前から空き家だよ?

 それに店主なら経営苦で自殺したんだ。それもここでね」


「うそ……」


思えば、最初に面接というか試すようなことを言っていた。

幽霊が見えるかどうかとか。

どうしてすぐに幽霊が見えると特定できたのか。


「もしかして、最後に派遣された強い悪霊って……」


「あんた、悪いこと言わないから早くここは出たほうがいいよ」


「あ、あの! もし、よろしければ私が訪れたことを

 手紙にしてこの店に置いてくれませんか!?」


「……はぁ? そんなの自分でやればいいだろう」


近所の人は呆れて答えた。

そのとき、子供が裾を引いていた。


「お父さん、誰とおはなししてるのーー?」


「向こうへ行ってなさい。今大事な話をしているから」

「はーーい」


子供はトテトテと去っていった。


「……手紙の件は考えておくよ。とにかく、あんたも早く帰って――」



男が振り返ったときもう部屋には誰もいなかった。

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