時計
餅雅
僕は失業して目標を見失っていた。そんな時、母が送ってくれた荷物の中に懐かしい写真が一枚入っていた。老朽化を理由に建て直すことになった駅が写っている。それを目にした時、どうしようもなくいてもたってもいられなかった。
まだ一人歩き出来なかった僕が初めて一人で立って歩いたのがこの駅だった。
当時を覚えてはいないが、何度かその話を聞かされた。僕が初めて危なっかしそうに足を踏み出した時、駅にあるカラクリ時計が祝の如く鐘を鳴らした。幼い僕は嬉しそうに笑い、手を叩いて喜ぶ母に向かって三歩だけ進み、転んだ。一緒にいた父がカメラでその顛末を連写したがために、座り込んで泣いている姿までアルバムに残っている。
僕は再びあの駅の前に降り立った。寂しさと言いしれない悔しさが綯交ぜになる。
「もう一度、ここから歩きだそう」
まだ一歳にもなっていなかった僕が歩き始めた場所に誓う様に呟いた。
時計 餅雅 @motimiyabi
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