第14話 特訓の成果見せます!
店から養成所へと戻る途中、通行人の会話でふとこのようなものを耳にした。
「なんでも、エルフの村を襲いにいったワイバーンのガルド様が討たれたらしい」
「ガルド様が!?」
私は立ち止まると、そちらに意識を集中させる。多分私たち勇者パーティーが倒したあのワイバーンのことを言っているのだろう。
なるほど、あのワイバーンも名前のついた魔物だったんだね……しかも通行人の話を聞くかぎり、結構強そうな感じ。……それほどでもなかったけどなぁ……
「ガルド様を討ったのはあの悪名高き勇者、レオンのパーティーらしいぞ!」
「なんだと!? ついにこの近くまでやってきたのか!?」
「恐らくな」
「勇者なんかが攻めてきたら……このサンチェスの街はどうなってしまうんだ!?」
「そうなる前に魔王様が動いてくださることを祈るしかないだろう……」
「あぁ……魔王様、何とかしてください……」
勇者パーティー、やたらと怯えられているね。まあ人類最強の存在である勇者と、周りの人達も私含めて規格外の強さのヤバいパーティーだけど……
でも、魔王が動くとしたら、レオンたちとぶつかるのも時間の問題かも……? もしかして私も意外と早くレオンたちと再会しちゃったりして……
そんなことを考えながら、早めに帰らないとオーウェンに街へ買い物に行っていることがバレてしまう私は歩を進めて……
「……なにこれ?」
採掘場に戻ってきた私は思わずそう呟いた。
なんと、採掘場の近くに、大きくて首のが長くて毛むくじゃらの魔獣が倒れていたのだ。そしてその魔獣を遠巻き見ながら怯えているゴブリンたち。
「あっ、ちょうどいいところに帰ってきたべ! ありゃなんじゃぁ?」
ヨサクは私の姿を確認すると、聞いてきたけど、こっちが聞きたいよ!
カナちゃん情報にもないレアな魔獣みたい。死んでいるようなので、恐る恐る近づいて様子を伺ってみる。
……それにしても奇妙な魔物だ。体長は5メートルはあるだろうか、長い首の先には牛を思わせる頭部に2本の角。毛むくじゃらの胴体からはたくさんの脚が生えている。……そして所々焦げている。……まさか
「おう、帰ってきたか相棒! いいのがとれたぜ」
魔獣の死体の後ろから、ひょっこりとマシューが現れた。
「これ、マシューがとってきたの?」
「おうよ。ちょうど牛鬼(うしおに)を見かけたんで、仕留めてきたのさ。まあ運ぶのは大変だったが……」
自慢げにボッと炎を吐くマシュー。いや、いやいやマシューの倍くらいの大きさありますよね? 結構強そうな魔獣だし、よく仕留められたね……
「確かにいいお肉をとってきてとは頼んだけど……」
これはちょっと多すぎかも……
「牛鬼の肉なんかめったに食えない高級品だぞ? 一応神霊級の魔物だしな。要らないなら俺が貰うぞ」
神霊級といえば、キメラとかグリフォンとかユニコーンとかそんな感じのヤバめの魔物だよね? そんな魔物を軽々と仕留めてくるマシューってなんなんですか? ノーランとティアマトの補正が入ってるからかな?
でも、せっかくマシューがとってきてくれたんだから……
「じゃあこの牛鬼で料理を作りますか……」
夕食の時間までにはまだ余裕があるかな……
私は、武器庫から初日に振れなかったショートソードを持ってくると、はや素振りとツルハシで鍛えた筋力で、よいしょよいしょと牛鬼を解体して厨房へ運んだ。
うん、だいぶ体力がついてきているみたい。牛鬼の肉が柔らかいのもあるかもしれないけど。
解体するときに血とか内蔵とか飛び散るのは気持ち悪かったけど、こんなんでビビってたら戦場には立てない。
厨房を捜索すると、大きなフライパンらしき鉄板を見つけることができた。一応最初はちゃんと料理する気あったのかな? それか料理人がいたとか? とにかく、だいぶホコリをかぶっていたのでパンパン払って、薄めに切った牛鬼の肉を乗せると、厨房の外で待機していたマシューのところへ持っていった。
フライパンをマシューの背中に乗せると
「マシュー、お願い」
「……はいはい」
マシューが炎を纏うと、たちまちジューッという音を立てて肉が焼け始めた。うーん、いい匂い。片面が焼けたら、ショートソードを使ってひっくり返してもう片面。両方焼けたら皿に乗せて、買ってきた醤油で味付けをした(味見してみたけど、ほんとに醤油だったみたい。よかった…)。
あとは仕上げにスープ用の野菜を切って軽く炒めて付け合わせにしたら……カナちゃん式和風ステーキの完成! 我ながら美味しそうにできた。
それを私の分も含めて5人分作る。
途中で
「なんかすごく美味そうな匂いがしてるな……」
とか言いながらオーウェンがやってきたりしたので、
「あっちいってて!」
と追い払ったりした。やっぱりごちそうはサプライズじゃないとね!
そうこうしているうちにディランたちが帰ってきたので、そのまま夕食ということになった。いつもの場所に待機しているみんなのもとに、ステーキをパンと一緒に運ぶ。
「おぉ……」
湯気と美味しそうな匂いをあげるステーキに、ディランが少し驚いたような表情をした。
「美味そうじゃねえか! 早く食わせろ!」
「いや、少し待ってください。この肉、調理されていますね?」
今にもステーキにかぶりつきそうなオーウェンを、トラウゴットが制した。
「そうよ。焼いて味付けをしたの」
「不安ですね。何か変なものが入っていないか……」
……この豚、意外と心配性なのかな? 私が変なもの入れるわけないっての! 相変わらず信用されてないなぁ……
「僕が毒味をすればいいかな? こう見えて毒耐性は一通り持ってるし」
名乗り出たのはエミール。……毒耐性を一通りって……ほんとに何なのこいつ……
エミールは、可愛い外見とは裏腹に、ステーキを手で掴むとワイルドにかぶりついた。……うわぁ……みんなの食事シーンは毎日見てるけど、相変わらず豪快だなぁ……
「……んっ!? すごく美味しいよこれ!」
目を丸くするエミール。お口に合ったみたいでよかったよ。
「本当か!?」
続けてオーウェンがかぶりつく。
「おぉっ! いい感じに味付けがされているな! これは美味いぞ!」
「これはなかなか……」
「うむ、新鮮な味だ。こういうのもなかなか良いな」
トラウゴットとディランも、ステーキを口に運んで満足そうだ。
「これはいつもの肉じゃないな? どこからとってきたのだ?」
「それは……マシューに頼んで捕まえてきてもらったんです。牛鬼だそうです」
ディランの問いに対して、私は大人しく白状した。ディランたちが毎日食べている肉は、出処が分からないし、もしかしたら人間の肉かもしれないじゃん? そんなの私食べられないし……食べたら共食いになるし……
「牛鬼!?」
「そんなもの滅多に食べられないぞ!?」
「どおりで美味いんだ……」
口々に驚きの声を上げるディランたち。私は腕を組んで得意げな表情をしてみた。まあ、これに関しては完全に相棒のマシューのお陰なんだけど。
「なんだ、じゃあ結局お前は何もしてないのか……」
「そんなことないよ! 肉を焼いたし、味付けだって私は…」
オーウェンの言葉に噛み付いた私に対し、ディランは続けて尋ねた。
「確かにこの味付け独特だな……どこでこんな調味料を手に入れた?」
「そ、それは……」
これはちょっと困った。大人しく街に醤油を買いに行ったことを白状するか……でもそしたら仕事サボってたのバレるし……
ちょっと考えたらこういう質問が飛んでくるのは分かりそうなものだけど、また何も考えずに行動してしまった……どうしよう。またまたピンチ!
えーい! 考えていても何も思い浮かばない! だったら!
「ごめんなさいっ!」
私はディランの前で土下座をして謝った。
「仕事中に抜け出して醤油を買ってましたっ! 採掘場で塩がとれたのでっ! それと交換してもらいましたっ!」
「お、お前!」
大声を上げるオーウェン。監督責任を問われるとでも思ったのだろうか。
「自分が何をしたかわかっているのか……?」
「ごめんなさいごめんなさい! でもっ!」
静かに、問い詰めるようなディランの口調に、半分死を覚悟しながらも、私はしっかりとディランの目を見据えながら言った。
「私を食べたらもうこのステーキは食べられなくなりますよ!」
ディランはそのまましばしなんの反応も示さなかった。張り詰めたような空気が数秒漂っただろうか、ディランが眉をピクッと動かすと
「別に怒ってはいないのだが?」
「へっ?」
てっきり怒られていると思った私は、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「このステーキ? とやらは確かにものすごく美味かった。それに、問い詰められた時のその開き直り方、心意気、天晴(あっぱ)れ! よし! 気に入った!」
はぇ? めっちゃ褒められてません? 私?
「確かに美味しかったですし、それくらい多めに見てもいいかもしれませんね」
「これから食べられなくなるのはちょっと嫌かも」
「お、俺はこういうことを想定してあえて見逃してやったんだからな!」
トラウゴット、エミール、オーウェンも口々に言う。
ディランは土下座をする私の目の前にやってくると、頭をポンと叩いて
「よし、カタリーナ。今日からお主をここの料理長に任命する!奴隷の仕事はもういいから、毎日買い出しに行って某達のために美味い飯を作るが良い」
えっ!? えぇっ!? まさかの奴隷から解放!?
しかも食材の買い出しに街に出ていいって!?
手間をかけてステーキを作ってよかったぁ……やっぱり努力は報われるのかも?
と呑気なことを私が考えていると案の定、トラウゴットが
「いや、確かに飯は美味かったですけど……奴隷からの格上げが早すぎませんか?」
と苦言を呈してきた。
「確かにそうかもしれんが、食は生活の基本だ。美味い飯を食えればそれだけ一日が幸せに過ごせる。その事実を改めて痛感した」
ディランの言葉に、オーウェンもうんうんと頷いている。よほど美味い食事を食べたいらしい。トラウゴットもまた渋々黙るしかなかったようだ。
「……ありがとうございます」
お礼を言っておく。奴隷生活から解放されるのも嬉しいけど、純粋に自分の料理を褒められるのはとても嬉しいよ。
食事を終えた私は、だいぶ余っていた牛鬼の肉をおすそ分けしに、採掘場へ向かった。
先日お世話になったヨサクたちに、是非ともこのステーキを食べてもらいたかったのだ。
奴隷のゴブリンたちは、採掘場の近くに立っている小屋に住んでいるようだった。そう、私が倒れた時に寝かされていた場所。
小屋の扉をコンコンとノックする。すると、中からヨサクが現れた。
「あの大きな魔獣は何なのかと思ってたけんど、まさかあれを料理するとは……」
ヨサクも私特製ステーキを見て目を丸くしている。
その後、ヨサクたちゴブリン4人組は私のステーキを「ありがてぇありがてぇ」と口々に言いながら美味しくいただいてくれた。
「実は私、これから料理長になることになったの……だから、みんなと働くのは今日で最後だったの……」
私はヨサクたちに、ディランに言われたことを報告した。
「それはえがった! ようやったべ!」
1人だけ抜けるのはちょっと気まずかったけど、ヨサクたちは自分の事のように喜んでくれた。ほんとにいい人達だなぁ……
これからも美味しい料理を届けに来ることを約束して、私は採掘場を後にした。
自分の小屋の近くに戻った私は、小屋に入る……ことはなく、いつもの様にマシューの近くで眠ることにした。……採掘場での労働を免除されたから少し余裕もできたし、明日あたり小屋の掃除をしようかな……雨が降ってきたら屋外だと寝れないし、虫も割といるから衛生的にも……ね?
「マシュー、今日はありがとう……」
私は、眠るマシューの背中を撫でながら眠りについた。
翌日、またしてもいつものようにオーウェンに起こされた私は、朝稽古を終えるなり、ディランに呼ばれた。
「……喜べカタリーナ。モンスターギャルドの試合に出れるぞ」
「……えぇぇぇぇぇっ!?」
早朝の養成所に、私の叫び声がこだました。
「ど、どうしてですか!? エミールとかオーウェンですらまだ試合に出れないのに……」
「お主の闘蜴(ファイティングリザード)と、お主が人間だということが理由だな……」
「……というと?」
「最近のモンスターギャルドはどうにもマンネリ化が進んでいてな。観客は常に目新しいものを求めている。あとは明確な〝悪役〟もな。燃える蜥蜴に(とかげ)に人間の乗り手。これほどインパクトのあるキャラクターは貴重なのだ」
「……はぁ」
悪役ですかぁ……私が……確かに魔物サイドからすると勇者パーティーだった私は明らかに悪役だけど、今はそれなりに魔物とも上手くやってるつもりなんだけどなぁ……
「……つまり負けろということですか?」
「いや……」
ディランは首を振る。
「悪役だからといって、わざと負ける必要はない。全力で潰しにいくがよい」
ふふふ……そうこなきゃ!
1週間の朝稽古と過酷な労働、倒れては無理やり回復されての生活で、私の体力は飛躍的な向上しているのが分かった。成長期だし、ぐんぐん力がつくのかも……
ショートソードも持てるようになったしね。修行の成果、見せてやりますよ!
「……任せてください!」
私は両手をぐっと握ると力強く言った……つもり!
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