煙草
無事に家に帰ると、玄関先で絢斗にキスをされた。壁に押さえつけられて、舌を絡められる。思わず「んッ」と鼻にかけた喘ぎ声を上げると、堪らないといった動作で膝を股間に差し込まれる。自分より身長の高い絢斗に抵抗することは、今の状況では不可能だ。
「はっ……はっ……」
「ッ……本当に……エロすぎて誘ってるようにしか見えないよ」
顔を隠すと、少し悪戯な笑みを浮かべて股間に当たっている膝を上に押し上げてくる。
「ふ……アッ、そ……」
「こんなのでも感じちゃうの? 可愛い……他の男に間違ってもそんな顔見せるなよ」
頷くと絢斗は、「素直でよろしい」と笑った。だがまた少しすると、機嫌を悪くしたような溜息を吐き出した。思わず慌てると、俺の肩に顔をうずめてくる。徐々に絢斗がこの体勢を好きだと分かってきた。
「葵のキス……苦かった……さっき俺が会計並んでる間に吸ってたでしょ」
「た、ば、こ」と口を動かした絢斗にバツの悪そうな顔をすると、ゆっくりと微笑した。
「吸うなら、俺の前で。ね?」
「ハイ……スミマセン……」
絢斗は、さっきまで膝で虐めていた俺のモノをジーンズの上から撫でた。もう数年も刺激を与えていなかったモノは撫で上げられて簡単に大きく勃ち、自分のスペースを確保しようとする。
痛みが先行して、油断していた絢斗からするりと逃げた。自分の股間に「鎮まって」と言い聞かせるように手を当てると、絢斗が不思議な顔をして後ろを追ってくる。
「ちょ、ちょっと待って! 玄関でやるな的な意見はごもっともだけど!」
手を掴まれて振り向くと、にやけた絢斗。
「オナニーするなら、気持ち良くなってるところ、見せてよ」
俺は固まった。突如として石像と化した俺の目の前を絢斗の手が往来する。
「おーい……俺なんかまずいこと言った?」
できることならこれを絢斗には言いたくなかった。言ったらどうなるかなんて、容易に想像できるから。でもよく考えてみれば同居しているのだから、仕方ないと腹を括った。
「……ないんだ」
「え?」
小声で答えた俺に、絢斗が首を傾げる。赤くなる顔を隠しながらやけくそで答えた。
「しないんだ……オ、オナニーなんて……」
1拍程度固まって、「はぁあああ!?」と大声を上げる絢斗。
「どういうこっちゃ!? お前……玉がないなんて言わないだろうな……? いや、こんなに可愛い葵のことだ。有り得るのか……!?」
ぶつぶつと独りで考えを巡らせる絢斗を、思わず肩を揺さぶって止めた。
「違うよ絢斗、そうじゃなくて、」
「じゃあ何!? 女が途切れないの!? いや男でも! 男か! お前は俺以外の男にも言い寄られてるのか!? そうなんだな!?」
「ちーがーうー!」
絢斗は大声を上げた俺にびっくりしたのか、「ごめん、取り乱した。ごめん」と謝って静かになった。俺は項垂れる。
「やっぱり、ちょっとおかしいよな。俺」
仕事の忙しさに甘えて、とうの昔にしまい込んだ暗い闇がふと顔を覗かせる。
絢斗にそんな俺は見せたくない……そんなことを思っていた。息を吸って、吐いた。
「俺さ、本当に自慰行為しないんだ。しないっていうか……できないっていうか……触ることもないし、ムラっとくることもそんなに、ないっていうか……」
曖昧な言葉でしか説明できないが、絢斗も自然に理解したようだ。
確かに今この瞬間も精子は製造されるわけだが、使われないそれらは分解されて体内に戻ったり、尿と共に排出される仕組みになっていると聞いた。これらの情報もそれとなく説明はしたが、それよりも「俺に」その意識がないことを本能で感じ取ったらしい。
だが、そこからが早かった。
「でも……ほらその……勃ってしまったものはどうにかしないと」
驚くべきことに絢斗が指差した俺のモノはまだ元気に起き上がっていた。「ウソ!」と声を上げると、絢斗はまた嬉しそうに笑う。
「俺がしてあげるから……ね?」
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