Tea with milk
息を吸って、深く吐く。
また吸って、もっと深く吐く。
自分の気持ちに正直になること、それは自分の過去を否定することだ。そうだとしても、今は。たとえ自分が信じてきた羅針盤を投げ捨てることになったとしても、今はそれが正しい選択だと思えるから。
息を吸って、言葉を吐いた。
「兄さんに……強姦されたんだ、中学生の頃のことだ。俺は何が何だか分かんなくて、必死に目の前の快楽から逃げようとして、でも逃げられなくて、気持ち良くて……その時だと思う、俺が汚れたのは」
御影は悲痛な目をして俺の言葉を待つ。
「毎日、兄さんに犯され続けた。でも抵抗しなかった……好きだったから。兄さんから俺に向けられる独占欲と性欲を、愛だと勘違いして……俺も大概だ」
心の底で、何か蠢いているのを感じる。これはきっと、過去の自分だ。暴露されて、嗤われて、心の臓まで犯されるのが怖い過去の自分だ。
もう、その手には動じない。俺はこの人を受け入れたい、受け容れたいんだ。
「でも1回だけ……兄さんに別の人を重ねてセックスしたんだ、この俺がだよ。自然と頭に浮かんでしまって、その人が俺のことを抱き締めていたら、どれだけいいだろう……俺にだけ優しくして、俺にだけ気持ち良くなって、俺にだけ好きをぶつけてくれたら」
御影は唇をわなわなと震わせている。俺の言わんとしていることは、しっかりと伝わっている。それが堪らなく嬉しくて、自分の中身が洪水のように流れ出して、止まらない。
「だからっ……だからっ、嫌じゃないんだ。こうやってデリカシーの欠片もなく俺の家に上がってきて、いきなり告白じみた言葉だけ吐いて、会社でも子供な対応しかできないくせに、俺に対する言葉はいつだってどこか飛び抜けて大人で……もうダメだ、」
言い淀むと御影は俺に唇を合わせるだけのキスをした。俺の言葉を、待っている。
俺は逃げたんだ、兄さんを好きであることを免罪符にして。
本当はもう自分の気持ちに気付いていたのに、逃げたんだ。
好きに蓋をして、好きだと言い聞かせて今まで生きてきたから。
いや、こんな言葉は何にもなりやしない。今、俺が御影に伝えたいのは──
「……好きだ……」
世界から色彩が失われて
行き交う人が全て
霞んで見えなくなっても
必ず、君を見つけられる。
だって君の色は、
あまりにも綺麗な紅茶色だから。
紅茶色の髪の毛から、ふわりと漂う芳しい香り。手入れされた爪の先から足の先まで、愛しても、いいのだろうか。こんなに汚れた傷だらけの悪魔が──
御影は俺の髪の毛を指で梳かした。
「もう泣かないで」
愛しさに潤んだ瞳が、まるで「君は綺麗だ」と言ってくれているように感じる。
とても綺麗な白だ、と。
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