それは白く、ただ白く。
結局、その日の夕食は遅くなった。
「ただいま」
葵くんと俺の声が、重なって響く。ふたりだけの幸せな空間に、笑みが溢れてしまう。
「ご飯どうする?」
葵くんにそう訊かれて、思わず「ふっ」と笑ってしまった。怪訝な顔で見つめる彼。
「……何、ニヤニヤしてんだよ。御影」
葵くんが俺の顔を覗き込んで、頬を膨らませる。不意に下半身が引き締まるような感覚を覚えて、溜息と共に項垂れた。
「可愛すぎて無理」
「は?」
葵くんは本当に、無自覚なんだから。
溢れ出る色気を武器にするでもなく、あくまで自然に使いこなしてしまう。彼が見せてくれる表情をひとつも見逃したくはないし、彼の全てを愛したい。
この感情を、何と呼ぶんだろう。
俺は、弱い。困らせて、この関係が崩れるのが怖い。始まりたての同居生活だっていつ強制的に終わらされるか分からないのに、葵くんの気持ちまで振り回す訳にはいかない。
だから、分からない振りをする。
「あと、エロすぎて、無理」
「は? え? ちょ、ちょっと待って」
でも、俺はあの人とは違う。卑怯な手で彼を手に入れようだなんて思わない。俺はあの人に勝ちたい、絶対に。
葵くんに、あの人より上だと言われたい。
葵くんの睫毛が上下するのを見ていると、不思議と世界が白く静まり返ったような気持ちになる。それは白く、ただ白く。世界に彼と自分しかいなくなったように感じる。
──触れたい、触れたい。
目的のためなら何だってする。彼を悲しませるもの、傷付けるもの、全てを許さない。だって、彼はもう十分に傷付いているんだから。誰も、彼も、気が付かない間に。だからこれからは俺が彼を守る。
葵くんを、愛しているんだから。
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