「それはお前が悪い」






ピシャリと言い放つ透に驚き困ったように頭を掻く晴樹。






彼は、




透ならば自分の気持ちを察してくれてあわよくば慰めてくれるだろう、と甘い気持ちでこの場所へと足を向けたのだ。






「亮弥との将来を考えるんなら、ちゃんと長続きするとこを探せ」




「亮弥の親にカミングアウトするならそれなりに社会的環境を整えろ」








そんなことは分かっている。






俺がフラフラしてるせいで亮弥が、




俺との未来が見えない事も知っている。








小言を聞きにここに来たんじゃない。






手にした煙草の先から天井へと流れる紫煙を見据える。


透の顔がまともに見れない。








(…透の顔って、)








(こんな顔だったっけ)








昔の透と今の透が重ならない。




顔立ちも声質も晴樹の良く知る透のものなのに








何かが決定的に違うのだ。








晴樹の頭の中でフラッシュバックするのは、あの夏の暑い日。














(縋るような、迷うような…)








(強い意思を瞳に宿すくせに、脆く簡単に崩れてしまいそうな…)








(…あぁ)










そうして、晴樹は漸く悟る。








透の気持ちがもう自分に向いていないことに。








前を向いて歩き始めている透に。

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