"笹原誠司"








それがその人の名前。






二度もセックスしたのに、後になってから漸くお互いに自己紹介をして。








それが可笑しくて透は口許を緩める。








携帯の番号とアドレスを交換して。








時間が合えば二人で飲みに行ったり、ドライブに行ったり。








そして、そのまま朝まで過ごすそんな時間が








今は透の総てで大切な時間になりつつあった。








『おはよう』




『おやすみ』






たったそれだけの言葉のやり取りでさえも嬉しくて、幸せに思えて来る。






『好き』




だなんて言葉は要らない。








透にとってそれは遠い、遠い言葉でしかない。








(…晴樹は、晴樹は自分に言い聞かせるように、俺を抱く度にそう無理矢理に呟いて…)






(でもその言葉は俺にじゃなかった)








今更になって漸く気付く。




晴樹は透ではなく亮弥しか見ていなかった事に。


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