人は、変わる―(14/21)
次の日から、宣言通りの挨拶運動は実施したけど、同じことを考えていたのか、猛反対勢力の人達もいて、挨拶運動というより演説合戦みたいなものが日々勃発した。
登校してくる生徒は半分面白がって半分迷惑がり、噂を聞きつけた他校の生徒まで見に来る始末。
先生から聞いた話だと、取材の電話も複数かかってきたらしい。
丁重にお断りしたそうだけど。
校長が(そして理事長が)許可を出した以上、先生達は止められないようで、浅田とすずめが度を越した騒ぎを起こさないかただただ見張っているだけだった。
そんな活動の成果(?)なのか、二週間前に集計された途中経過ではわずかに票が多く、勝っていた。
おそらく、面白半分で投票した一年生が多かったから。
──って、思っていたのに……。
『最終結果を発表します。生徒会支持率47%、正生徒会支持率51%、無投票2%。以上の結果により、今年度の生徒会は、正生徒会に決定いたしました』
勝ってしまった。
まさかの逃げ切り。
「イェェェェェェェェェェェーイッ!!!!!!」
ステージ上の校長先生の言葉を聞き、浅田とすずめはジンジャエールのボトルを振り回し始めた。
全校生徒の注目を浴び、ジュースを浴び、びしょ濡れになりながらクラスメイト達とハグをする。
「やったネ!! やったよ百合花!!」
「わかったから抱きつかないで」
本当に嬉しそうに笑うすずめを見て、よかったと思った。
私にとってはどちらでもいいことだったけど、すずめ達にとっては、今日のこの瞬間はとても大事な一歩だったんだ。
自分達の力で勝利を勝ち取った。周りから認められた。
すごく嬉しいはず。
……今日だけは褒めてあげようかしら。
「玉野くんおめでとぉ~!」
「生徒会長頑張ってね!」
「うん……ありがとう」
浅田が校長先生に抱きつきにいっているなか、女子グループに囲まれていた優はいつも通り笑っていた。
──それなのに、誰よりも嬉しくなさそうに見えた。
考えてみれば、彼はもともと、友達を作るよりも親と一緒にいる時間を大切にするほど内気で、小心者で、泣き虫。
彼がいつも人に囲まれていたのは、彼が望んで引き寄せたからじゃない。自然と集まってきただけ。
それでも彼は言うだろう、〝嬉しい〟と。
流れで押しつけてしまったけど、本当に嫌だったのかもしれない。
生徒会長は、彼には重荷だったのかもしれない……。
「玉野くんなら絶対にいい学校にしてくれるよね♪」
「他の三人に主導権握られちゃダメだよ~」
そう気づいたところで、見ていることしかできなかった。
本人が嫌でも、周りからの信頼が厚ければなんとかなる。きっと大丈夫。
……そう思った時、私はある感覚に陥った。
私に拒絶されて別のクラスメイトのところへ行ってしまったすずめ。
先生達に怒られながらも抱きついて回る浅田。
女子達に囲まれて笑顔を振りまく優。
──みんなが、遠く感じた。
あの頃と同じ。一人でいた時と同じ。
全校生徒が集まった体育館の中でも、周りに誰もいないかのようにスースーする。
自分から距離を詰めることもなければ、誰かから歩み寄られることもない。
クラスメイトとは仲良くなれていたと思っていたけど、あの三人がいないと、私は求められるような人間じゃないのかもしれない。
……仕方ない。
それが、今まで選んできた道の景色なんだから……。
私は、酷く冷たくなっていく視線で改めて三人の姿を見てから、静かにその場をあとにした。
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