そして、甦る―(31/34)


「──そんななかで、私は出産の時を迎えたの。私は検診の時、お腹の子の性別はずっと聞かないでいたから、私も、夫も、あの二人も、楽しみにその時を待ったわ」


王子様誕生の瞬間ですね。


「生まれたのは、体重3145gの元気な男の子。男の子でも女の子でも、健康に生まれてきてくれればそれだけで十分だったわ。……まあ、私は歳下の男の子が好きだから、そういう意味で言えば特別嬉しかったけど」


それはなんか違う気が。

息子も苦笑していますよ。


「元気な子が産めて、安心したわ。──でも、それは本当に、束の間の一安心にしか過ぎなかった」


「「「「「?」」」」」


どういう意味……?


「王ちゃんを無事に産んだ後なのに……。私の陣痛は収まらなかったの」


「「「「「!?」」」」」


え? だから……どういう意味……?


「ま、まさかっ……」


カスさんは驚愕に顔を引き攣らせました。



「──そう。私は、双子を妊娠していたの」



「「「「「…………」」」」」











「――エェェェェエエエエェェェェェェェッ!?!?!?!?!?」


会長さんは、今まで聞いたことのないような大声で叫びました。


「え……なんで会長さんが驚くんですか?」


「な、ななななんでって! 僕は一人っ子なんだよ!? 双子だなんて聞いたことないよ!!」


えっ、まさかの生き別れ!?


「かかかか、会長がもう一人!? そ、そそそんなハレンチな//!!」


ピーチさんは一体何を想像しているんだ。


「残念だけど、そのもう一人は女の子よ。王ちゃんにはあまり似ていないんじゃないかしら……」


「あっ、そ、そうなんですか……」


残念がるな。


「母さんっ、どうしてそのことを僕に……!」


「ごめんなさい……機会があれば言おうと思っていたのだけど、その機会が今日までなかったから……」


まあ……何かそれなりの事情があったんでしょうね。


──ん? ちょっと待てよ。


なんで今日がその機会の日なんだ?

先生が話していたのは、私の両親の話であって、会長さんの出生秘話を暴露するような機会ではないと思うんですけど……。


……い、いや……。


ま・さ・か、ね……。


「まさか……僕に妹がいたなんて……」


妹……。


イモウト……。


い・も・う・と……。


「それで、僕の妹は今どこに……!? まさか、亡くなったなんてこと──」


「いいえ、別に死産や病死したわけではないわ。しばらくは私が授乳していたし……。でも、その後に……」


いや……いやいやいや……。


まさかそんな……。


「今、話したでしょう? ママの友人が、子供をほしがっていたって……」


そ、そそそそんなこと……そんなこと……!


「……ま、まさか……」


あ、あああああるはずが……。


「私はその二人に、あなたの妹を養子として引き渡したの。――王ちゃんと凛ちゃん。あなた達は、血の繋がった双子の兄妹よ」


Σあったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!




「「エェェェェエエエエェェェェェェェェェェェェェッ!?!?!?!?!?」」」




嘘だぁぁぁぁ!!!!!!


「会長さんが私の兄!? 弟じゃなくて!?」


「ツッコむところはそこかい!?」


「だって!! こんな天然お坊ちゃまが兄だなんて嫌ですもん!!」


「そ、そんなっ……;;」


頼りなさすぎだ!!


「まさか……俺がずっと捜してた奴が……王子の妹だったなんてっ……!!」


「ねぇ知ってる? つぶあんとこしあんって双子なのよ」


「その兄妹フラグには気づかなかったぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


「ですからクローンを作れば双子どころでは……」


「真理のお兄ちゃんとお姉ちゃんが……本当にお兄ちゃんとお姉ちゃん!?!?!?」


「か、かかかか会長のいいいいいいいいいいいいいいい……!!」


「ありえませんわ!! わたくしは信じません!!」


「俺っちは感動したっ!!!!!!!」


あっ、もしかして、おじいちゃんが会長さんのことを片割れ坊主って呼んでたのは、そういうわけ……!?


「ごめんなさい、凛ちゃん。私があなたを二人に預けたばかりに、あなたは寂しい思いを……」


「…………」


え~……。

この人が、私の産みの親……。

こんなエロティックな人が……!


「私は二人を信じたかった。変わるって、約束してくれたから……。思いやりの気持ちが持てる普通の人間になりたいって、言ってくれたから……」


変わる……約束……。


「でも、私は二人のことを理解しきれていなかった。自分にはヘンテコ人間の気持ちが理解できるだなんて思っていたけど、まったくの見当違いだった……」


ヘンテコ人間の気持ち……。

そんなの、ヘンテコ人間にしかわかりっこないですよ……。

だって、ヘンテコなんですから……。


「えっと……じゃあ、一つ聞いてもいいですか?」


「……?」


「私が捨てられた後、どうしておじいちゃんが引き取ったんですか? あなたは引き取る気がなかったんですか?」


「それは違うぞ、凛。百合花はお前を引き取りたいと申し出た。じゃが、ワシがそれを許さんかったんじゃ」


「え?」


おじいちゃんが許さなかった……?


「ワシはもともと、凛をあやつらの養子にすることに強く反対しておったんじゃ。絶対に途中で投げ出すと思っておったからの」


さすがおじいちゃん……。


「じゃが、百合花は渡しよった。それは百合花が、跡取り息子が一人いれば十分だと考えていたからだと思うてな。そんな奴に、親の資格はないと言ったんじゃ」


ああ……なるほど……。

おじいちゃんも冷静じゃなかったのかな……。


「そんなこと、決して考えてはいなかったけど、師匠に一喝されて、私はその時に初めて自分の過ちに気づいたの。それまでは、ずっと正しいことをしたと思っていた……」


私と……同じだ……。

自分の過ちって……何かを失った時の代償として気づかされる……。


「本当に……ごめんなさい……。謝っても謝りきれないけど、これだけは言わせて。私は、安易な考えで手放したわけじゃないの。あなたのことは、今でも心から愛してる……」


「…………」


愛してる……。

なんか……むずがゆい響き……。

家族愛っていう言葉はあるけど……今のがそうなのかな……。


「……えっと……」


な、なんて……言い返せばいいんだろ……。


「……あの……」


さっきから急展開ばっかりで……頭の中の整理が追いつかない……。


「……その……」


いっそのこと、もう一度記憶喪失になってしまえば──っていうのは嫌だけど。


「無理に言葉を返さなくてもいいのよ。わかってるから……」


「あ、いえ、そうではなくて……」


うーん……やっぱりわからない……。

私を捨てた育ての親が悪いのに、なんで産みの親である先生が謝ってるんだろ……。

先生のどこが悪い……?

私を養子に出したこと……?

でもそれは先生がその二人を信じていたからであって、過った行いではない気が……。

騙すより騙されろっていうし……。

え? 違う? 関係ない?

そうですか。


「……あ、あのー……。私、バカなのでうまく言えないんですが……。先生に謝られても困るといいますか……謝られる意味がわからないといいますか……」


「え……?」


「とりあえず、そのヘンテコ人間二人が、手に負えないほどとんでもなくヘンテコでバカで厄介でめんどくさくて迷惑千万だということはわかったのですが……」


「違うわ。二人は悪くないの。あれでも努力していたのだから……。判断を誤った私が悪いのよ」


「でも、先生は二人を信じてしたことなんですよね? 他人を信じることはいけないことなんですか? おじいちゃんはそんなこと言ってませんでしたよ」


「それは……」


まあ、おじいちゃんの言うことがすべて正しいかなんてわかりませんが、私はおじいちゃんの言うことを信じます。

あれでも無駄に歳だけはとっていますからね。


「誰が悪いかなんて決めなくてもいいと思いますが、あえてあぶり出すなら、飽きっぽいそのヘンテコ人間だと思います。だって、先生は信じただけじゃないですか。今だってそうですよ。ヘンテコ人間は変われると信じて、この学校を建てたんじゃないんですか? ここの生徒達の将来を考えてしたことじゃないんですか? 先生がしたこと、私は悪いことだとは思いません。信じた人が悪いだなんて言ってたら、この世から信用とか信頼とか、大切なものがなくなっちゃいますよ」


――期待されない人間は脆く、疑ってばかりの人生は虚しい。


もちろん、おじいちゃんの受け売り。


「先生は悪い人じゃないです。まだ少ししか話したことないですけど、それはわかります。ヘンテコな生徒一人一人に真剣に向き合ったりとか……心が優しい人にしかできないことです。……お仕置きは怖いですけどね」


私は苦笑しました。

先生は、ヘンテコな幼なじみに裏切られた過去があったからかもしれないけど、単純に子供が好きだとか、そういう理由だけではこんな学校を建てたりなんてできないと思う。

そう簡単には踏み込めないことだと思う。


「凛ちゃん……」


私の目の前まで近づいてきた先生は、軽く屈んで目線を合わせました。


「ありがとう……。私は、親らしいことなんて何一つしてあげられなかったけど、イイ子に育ったのね」


「おじいちゃんの、おかげです」


私がそう言うと、老いぼれさんは自慢げにエッヘンと胸を反らしました。


「当然じゃ♪」


調子に乗るなよ。今は許すけど。


「ふふ。……でも、そんなことを言われたら、私、言い返す言葉がなくなっちゃったわ」


「無理に……言葉を返さなくてもいいですよ。わかっていますから」


私は、先ほど言われた台詞をマネて言い返しました。


「あら、私を困らせるなんて悪い子ね。──そんな悪い子には、お仕置きしてあげる」


先生はそう言って、顔を近づけてきました。


──チュッ。


「Σわ……」


私のおでこに、優しいお仕置きが落とされました。


「このお仕置きは、怖くないでしょう?」


「え、あ、は、はい……」


びっくりしたー……!

怖くはないけど、なんか恥ずかしい……!


「……今の……会長さんにもしてましたよね……?」


「えぇ。だって、愛しい人への贈り物だもの。王ちゃんには、今まで数え切れないほどしてるわ」


「か、母さんっ……//!」


わー、会長さんが赤くなってる赤くなってるー。


「って、ちょっと待って。この間ってことは……まさかっ……君もあの時……!?」


「私も、ってことは、副会長さんが覗いてたことご存知だったんですか?」


「え、えっと……まあ……その……」


「キャー///!!!!! その話はしないでくださぁぁぁいっ////!!!!!!」


Σえっ、いきなりどうしたんですかピーチさん!?


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