そして、甦る―(32/34)
「そういえばあの時、桃子ちゃんもいたのよね」
やっぱり気づいていたんですか。
まあ、あんな大声出して血痕まで残していれば……。
「ご、ごめんなさいっ……;;」
好きな人のママにロックオンされちゃいましたね。
「あれは衝撃的な光景でした。保健室でイチャイチャしていたお二人を見て、てっきり恋人同士なのかと」
「い、イチャイチャ……;;」
「あら、嬉しいわね」
会長さんは複雑そうに苦笑し、先生は微笑みます。
「勘違いでよかったですね、副会長さん」
「Σへっ!! あ、ああああああそそそそそそそそ」
ん? 壊れた?
「どうかしましたか?」
「なっ、なななななななんでもないですよっ///!!!」
とてもなんでもないようには見えないのですが。
「……何か隠していますね」
「か、隠していませんっ//!!!! 勘違いで暴走して会長に告白しちゃったとかないですから//!!!! ……──Σアッ!!!!!」
「えっ!? 告白したんですか!?」
「いい今のは違っ……////!!」
へぇー。
ピーチさんって意外とやる人?
それとも今みたいにボロっただけ?
「そうですか……言っちゃったんですか……」
「きゃあぁぁぁ////!!!! ごめんなさぁいっ////!!!!」
ピーチさんは、エラお嬢様の背後に隠れました。
今のは、誰に対する謝罪ですか?
「そんなに恥ずかしがることはないでしょう、桃子」
「だ、だだだだってこんなに人がいっぱいいるし会長のお母様の前だしぃ//!!;;」
ただの保健の先生だと思えばいいんですよ。
「安心して桃子ちゃん。私、王ちゃんの花嫁候補には厳しいから♪」
全然安心できないですね。
「Σひぃぃぃぃっ!!;;」
ピーチさんがドンドン小さくなっていく。
「……で、会長さんは、なんて返事したんですか?」
「え……えっと……保留にしてほしいって……」
え、なにそれ。
男ならバシっと決めないと!
「なら、ママが代わりにお返事してあげるわ」
それはアカン。アカンで。
「僕、恋愛って……まだよくわからないから……もう少し考える時間がほしくて……」
ああ、なるほど……。
でも、考えたところでちゃんと答えが出せるんですかね。
鈍そうな感じがするんですが。
「王ちゃんがそう言うなら、ママは温かく見守ってあげるわ♪」
絶対嘘だ。
「――あ、そういえば、告白で思い出したんですけど……」
「「「「「?」」」」」
ふと過去の思い出が甦った私は、会長さんを見て、薄く微笑みました。
「私が小学生の時、ある男の子に、体育館の裏に呼び出されたことがあるんですよ」
「…………え」
会長さんは、目を見開いて固まりました。
「てっきり、恋愛の意味で告白されるのかなーと思ったんですけど、実際はそうじゃなくて、〝僕と友達になってください〟って言われたんです」
「…………;;」
「ところがどっこい。私は〝もちろんいいですよ〟って答えたんですけど、何故かその後、その男の子から話しかけられることは一度もなかったんです。逆に私から話しかけても会釈を返されるだけでよそよそしい態度をとられたんです。──あれって、どういう意味だったんですかね? 会長さんはどう思います?」
「…………;;」
「……おい王子……お前、まさか……」
カスさんは、会長さんを横目で睨みました。
「え、えっと……あの……;;」
「私、からかわれたのかと思って結構傷ついたんですけど」
「ち、違うんだっ!!;;」
会長さんは、思いっ切り首を横に振りました。
「僕はあの時、本当に! 君と友達になりたかっただけなんだ!! 君なら、僕なんかとも友達になってくれると思ったんだ!!」
「Σえぇっ!!!! 会長が女の子に告白っ///!?!?」
「まさか、王子が俺の知らないところで女にコクったりコクられてたりしていたとはな……」
「Σえっ、そういう告白じゃないよっ!?;;」
ちょっとピーチさんカスさん、口挟まないでくださいよ。
「あの二人は放っておいてください。そして続きをどうぞ」
「あ、う、うん……;; ──それで、君が友達になってくれたから、僕、すごく嬉しくて……家で、父さんと母さんにその話をしたんだけど……そしたら……」
会長さんは、寂しそうに目を伏せました。
「──ダメよ、その子とは仲良くしちゃダメ。って、ママに言われたのよね」
「!」
ママさん、会話に割り込んできました。
「え? どうしてそんなことを……?」
まさか、溺愛する息子を他の女に近づけたくなかったのか!?
会長さんにお友達がいなかったのはあなたのせいでは!?
「だって、王ちゃんからその女の子の名前を聞いた時、当然の如く、私にはそれが誰なのかわかっちゃったんだもの。友達としてならいいのよ。でも、その先に進展しない保障なんてないでしょう? だから止めたの」
ん?
「どういう意味ですか?」
「つまり、血の繋がった兄妹の間に恋愛感情が生まれちゃったら、大変なことになっちゃうでしょう?」
ああ、そういえば、キョーダイは結婚できないんでしたっけ。
「か、会長が実の妹と恋愛!?!? ダメですよっ!!!! 早まっちゃダメですよ会長っ!!!! 今ならまだ間に合いますっ!!!!」
ピーチさん、興奮しすぎて頭がバカになっていますよ。
昔の話ですし、結局お友達にすらなれなかったんですから。
「桃子ちゃん、少し頭を冷やしたほうがいいわよ」
「Σひゃっ!?」
ママさんは、ピーチさんの頭の上に氷のうを乗せました。
「……まあ、確かに、可能性としてはあったかもしれませんわね」
「え、ないですよ」
「「「「「え?」」」」」
私はキッパリと言い切りました。
「だって、会長さん、私のタイプじゃないですし」
「Σえぇっ!」
会長さんは硬直しました。
「なんかこう……意志がヒョロヒョロしてそうというか……頼まれたら断れない弱さを持っていそうというか……優しいを通り越して甘いところがちょっと」
Σガーン!!
……そんな音が聞こえた気がした。
「そ、それは……男としてというより……兄としてショックだよ;;」
「気安く兄とか言わないでください」
Σガガーン!!
……また聞こえた。
「おい、それはちょっと言いすぎじゃねぇか?」
「あ、いえ、別に軽蔑しているわけではなく、まだ兄だっていう実感がないので……」
できれば信じたくないんですよね。──っていうのは言わないでおこう。
「まあ、確かに……そうかもしれねぇけど……」
「……? 何か言いたいことでもあるんですかカスさん。いつにも増して会長さんヨリですけど」
「べ、別に……」
「Σハッ!! まさか!! 実は会長さんとデキているのでは!?」
「んなわけねぇだろ//!!」
「照れてる!!」
「照れてねぇよ!!」
「Σえぇっ!!!! か、かかかか会長に彼氏!?!? 会長ってそっち方面の人だったんですかキャアァァァァァァッ//!!!!!!!」
「お前少し寝てろっ!!」
「Σえっ!? 隼人くんって僕の彼氏だったの!?」
「殴るぞテメェ!!!!」
「じょ、冗談だよ;;」
……ああ、ツッコミ大変ですね。
って私のせいか。
「じゃあ、どうして会長さんの味方をするんですか」
「べ、別に味方なんかしてねぇよ……。俺はただ、こいつはこいつなりに頑張ってんだから、真っ向から否定してやらなくても……と思っただけで……」
「「「「「…………」」」」」
「な、なんだよ」
「――やっぱりデキていますね」
「シバくぞ!!」
きゃー、か弱い乙女に暴力を振るうなんてー。
「桃子……もうダメです……人生に疲れました……」
「死ぬなよ!!」
「わたくしは許しませんわ!! それでは玉野グループのお先が真っ暗ですっ!!」
「俺には関係ねぇよ!!」
「は、隼人くんにそんなことを言ってもらえるなんて……感激だよ……!!」
「おいっ、泣くな泣くな!!」
「優しいこと言ってくれるわね、隼人くん。隼人くんのそういうところ、好きよ♪」
「ち、近づかないでください!!;;」
ママさんは、カスさんに抱きつこうと背後から忍び寄りました。
カスさんは自慢の俊足でその場から離れます。
「わっ、カスさんの敬語ってなんか不気味……」
「わ、悪かったな;;」
「私は口の悪い隼人くんのほうが違和感があったわね。いつもは礼儀正しい子だったから」
想像するだけで恐ろしい……。
「でもさすがに、ご両親のことを父上・母上って呼んでいるのを聞いた時は気味が悪かったわ」
Σ時代劇かよ!!
「それは気持ち悪いですね」
「いくら英才教育といっても、やりすぎだと思うわ。やっぱりパパ・ママが一番よ」
それは年齢的にどうなんだろ。
「あ、もしかして、会長さんって、裏ではママって呼んでるんですか?」
「Σよ、呼んでないよ!!;」
ふむ、さすがに男の子にはキツいか。
「でも、中学に入るまでは呼んでいたわよね」
「そ、それは……;」
まあ、会長さんならあり得る。
そして違和感がない。
「やっぱり、中学生になると恥じらいが出てきちゃうのよね」
「しまった! 凛にワシのことをパパと呼ばせればよかった!」
「投げ飛ばすぞジジイ」
そんなことをしてたら、今頃あなたは生きていない。
「えっ……僕、恥ずかしいから呼び方を変えたわけじゃないよ」
「「「「「え?」」」」」
「父さんに注意されたんだ。もう子供じゃないんだから、やめたほうがいいって」
「「「「「…………」」」」」
じゃあ、注意されなかったら、会長さんは今でも……。
「あら、そうだったの? ママ知らなかったわ。後でパパにお説教しないとね♪」
あー怖い。
笑顔が怖い。
「パパとかママって……そんなに魅力的な呼び名なんですか?」
「親にとって、子供はいくつになっても子供だもの。口では自立しろだのなんだの言っても、やっぱり可愛らしく甘えてほしいものよ」
「へー……」
そう思ってるのはあなただけではないだろうか。
「だから王ちゃん。ママのことはママって呼んでいいのよ♪」
「Σさ、さすがに今となっては抵抗が……;;」
まあ、高校生ですし……生徒会長ですし……。
いや、生徒会長だからこそ実はマザコンだったという設定が映えるのでは……!
「恥ずかしがらなくてもいいのに……ママ寂しいわ」
「ご、ごめんなさい……」
優しいママさんなんですから、たまには呼んであげてくださいね。
「……凛、ワシが言うのもなんじゃが……」
「?」
立ち上がって元気にラジオ体操をしていたおじいちゃんは、私の肩をポンポンと叩いてきました。
「気が向いたらでいい。気が向いたら、百合花のことを、母と呼んでやってはくれぬか」
「え……?」
「百合花は、お前のことをずっと心配しておった。それを引き離していたのはワシじゃ。百合花は何も悪くないんじゃよ」
…………。
それは、わかってる……。
先生は何も悪くない……先生に責任なんか何もない……。
……でも……。
「…………」
なんかこう、恥ずかしいじゃん!
今まで、お父さんともお母さんとも呼べる人がいなかったし、おじいちゃんはなんか違うし、育て親がいた時は呼んでいたかもしれないけど憶えてないし……!
急にそんなことを言われても、心の準備が……。
「……え、えっと……」
まあ、親が欲しいと思ったことはあったから……別にいいんだけど……。
「……た、たまになら、いいですよ」
「……え?」
意外だと思ったのか、先生の顔に張りついていた笑みが取れかけました。
「いいの……? 私なんかを……」
「〝私なんか〟って……。他に母と呼べる人はいないと思うのですが……」
まさか、私を捨てた育て親を母と呼べというのか!?
それは酷というものではないか!?
「凛ちゃん……」
先生は、泣きそうな顔で抱きついてきました。
「ありがとう……」
「い、いえ……」
なんか、会長さんやカスさんが恥ずかしがる理由がわかった気がする……。
「美人なママで、よかったです」
エロティックな一面が似ちゃったらどうしよう。
真理ちゃんの教育に悪いよー。
「本当にありがとう……。こんなに嬉しいのは、あなた達を産んだ時以来だわ……」
「ちょっと会長さん、ちゃんと親孝行しないとダメじゃないですか」
「Σえっ!?」
私が会長さんを睨むと、ママさんは私から離れて笑みを浮かべました。
「王ちゃんに〝ママ〟って呼んでもらえたら、もっと嬉しくなるわ♪」
「そ、それは……;;」
会長さん、焦っています。
今ならわかりますよ。
それがどのくらい恥ずかしいことなのか。
「こ、ここでは……ちょっと;; みんなもいるから……;;」
おお、言いましたね。
ということは、二人きりになったら呼ばなきゃダメなんですよ。
「あら、それならあとでデートしましょうね♪」
「Σえっ;;」
親子でデートって……さすがママさん。
まあ、学校がこんな状態では、そんな暇ないと思いますが。
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