核心、現る―(16/19)


『──富~士子すわぁ~ん!!!!』


「「「「!?!?」」」」


うわっ!!

制服姿の熱血さんがガラスにへばりついて堂々と覗き見している!!

いっそ清々しいな!!


「バ、バカハル!?!?」


「キャー!! 何してるのマサハル君っ//!!」


「また来たわねあのストーカー野郎っ!!」


「…………」


あ、露天風呂の竹林の中でマッケンさんがカメラ構えてる。

いつからいたんだろ。


『ビューティフルバディー!!!!』


「あっちへ行きなさい!!」


「犯罪だよマサハル君っ!!!!」


「気持ち悪いわよこのアンポンタン!!」


何を言っても無駄だと思いますよ。

殴り飛ばすくらいしないと消えないと思います。


『──や、やめるんだマサハル君っ!!』


あ、会長さんだ。


「か、会長っ//!?」


「あなたまで覗きですかっ!!」


いや、どう見ても熱血さんを引き取りに来ただけでしょ。


『ち、違うっ!! 僕は何も見てないっ//!!』


今こっち見てますよあなた。


『ヒャッハァ!!!! 会長も一緒にハッスルしようぜい!!!!!!』


『バ、バカなこと言ってないでやめてよマサハル君!! 捕まっちゃうよっ!!』


『法は俺っちの愛で裁いてみせるっ!!!!』


『意味わからないよ!!』


放って置いたらいつまでやっているのだろうか。

気になるけど、誰かなんとかしてください。

守護神さんが怖がって私から離れてくれません。

私がお風呂から上がれません。


「わたくしが射抜きますわ!!」


エラお嬢様!?

タオルを巻いて立ち上がったお嬢様が弓を携えているぞ!?

どこから取り出した!?


「せ、世麗奈ダメだよっ!!」


そうだダメですよ!!

内側から射たらガラスが割れちゃうじゃないですか!!

熱血さんはガラスの向こう側にいるんですよ!?


「安心なさい、なんとかなります」


いやならないから!!


「わたくしに不可能はありませんわ! ふっ!!」


∑パリィィィーンッッ!!!!!!


いや当然の如く割れたぁぁぁ!!!! 危な危な危なっ!!!!


「な、何故割れるのですか!? すり抜けるよう念を込めましたのに!!」


そんなことできんわ!!

っていうかガラスもろすぎ!!

矢の破壊力がスゴいのか!?!?


「──わっ!! わわわわわっ!!」


∑ボチャーンッッ!!!!!!


ゥオイ!!

ガラスの破片を避けようとした会長さんが露天風呂に落ちたぞ!!


「か、会長ぉぉぉぉぉ!!!!!!」


ピーチさんがあたふたしてる!?


「会長は泳げないのにぃ!!!!」


いや、会長さんなら足着くでしょ!

守護神さんじゃあるまいし!


「ゴボボボボ……!」


溺れてる!?!?


「いま助けに行きます会長っ!!!!」


ピーチさんはタオルを巻いてガラス飛び越え、外に出ていきました。


いってら~。


「富~士子すわぁ~んっ!!!!!!」


入れ替わるように熱血さんが中に入ってきた!!

何故無事なんだあやつは!!


「こっちに来るなぁ!!」


「∑グフォ!!」


ナルシーさんは桶でフルスイングしました!

殴られた熱血さんは湯船の中に沈んでいきます……。

……溺死するぞ。




『──大丈夫か我が戦友っ!!!!』


うおっ、ピーラーさんが走ってきた。

熱血さんを引き上げてる……。


「あ、あなたは……//!!」


ん?

今まで平静だったエラお嬢様の顔が赤くなったぞ。

ほらほら、恥ずかしいのならお湯に浸かりなさいな。


「ゴホッゲホッあびろべっ!!!!」


汚っ!!

美人の湯に熱血さんのヘドロが!!

ナルシーさん早くこっちに来たほうがいいですよ!!


「た、助かったぜ金髪っ!!☆」


「困った時はお互い様だ!!☆」


こいつら、覗き仲間だな。


「会長!! 大丈夫ですかっ!!!!」


あ、ピーチさんが会長さんを助けたようだ。


「うっ、げほっげほっ……;;」


「大丈夫ですか!? 生きてますか!? 息してますか!? 怪我していませんかぁ!?!?」


「だ、大丈夫だよ桃子くん……げほっげほっ……あ、ありがとう……;;」


「よ、よかったぁ……!!」


会長さん、いくらなんでも運動音痴すぎですよ。


「……あ」


「?」


「……桃子くんの髪下ろしたところ、初めて見たけど……。似合ってるね、ふふ」


「へっ//!? な、なななな何言ってるんですかっ///!!!!」


ドンッ!!


「∑わっ!!!?」


ボチャーンッ!!!!


「か、会長ぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」


ピーチさんに押されて会長さんがまた落ちたぁぁぁ!!!!!!

何がしたいんだあの二人!!!!


「──チッ、何やってんだよ」


あ、カスさんだ。

天敵であるはずの会長さんを助けたぞ。

意外と優しいではないか。


「げほっげほっ……──い、今田くんっ……!」


でもなんかよく見たら、旅に出るような格好してる……。

次は何をやらかすつもりなんだろ。


「……引っ込んでろよ」


「は、早いんだね……」


ん……?

なんか変な会話……。

っていうか、カスさんこっちに近づいてきてるんですけど。


「……来るな……」


守護神さん怖がっちゃってるし。

なんだなんだなんだ。


「…………」


目の前で立ち止まったぞ。

こっちを見下げるな!

なんか腹立つ!

私のほうは見てないけど。


「…………あのよ……」


見つめられた守護神さんは、蛇に睨まれたカエルのように固まっています。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」



──バサッ!



「「「「「「「∑!?」」」」」」」


な、なんだ!?

カスさんがいきなり土下座をしたぞ!?


「申し訳ありませんでした!!!!!」


「「「「「「「────」」」」」」」


え……?

ど、どうしたんだ……?


「すべて俺のせいです!!!! 俺が悪いんです!!!! あなたが傷ついたのは、全部俺のせいなんですっ!!!!」


「「「「「「「────」」」」」」」


……は……?


「あの日あの場にいたのは俺なんですっ!!!! 巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでしたっ!!!!!!」


「「「「「「「────」」」」」」」


皆さん、呆けています……。

ピーチさんも、エラお嬢様も、熱血さんも、ナルシーさんも、ピーラーさんも、私も、そして──守護神さんも……。


「あなたが怖い目に遭って、男性恐怖症になってしまったことは聞きました!! 俺のせいです!! 俺はあなたの人生を狂わせてしまいました!! だから許してくれとは言いませんっ!! 許してほしいとも思っていませんっ!! だけど謝らせてください!!!! 申し訳ございませんでしたっ!!!!!!」



なんだろ……私には全く関係無い話だっていうことはわかるけど、この場にいるほとんどの人間が、そして、謝られている張本人の守護神さんまでもが、状況を把握できていないような顔をしている……。



「俺はもう二度とあなたの前には現れませんっ!! 完全に消え去りますっ!! 不服だとは思いますが!! 俺にはもうそんなことしかできません!!!! 申し訳ございませんっ!!!!!!」



「「「「「「「────」」」」」」」











「…………は?」



〝は?〟


いま守護神さん、


〝は?〟って言った?


〝は?〟って言った?


∑って!!

メンチ切ってる!?


「……理解……不能……」


「……え?」


あ、カスさんが顔上げた。


「……意味……不明…………貴様……気持ち悪い…………」


「……──へ?」


え、なんなの。


なんなのこれ。


何がどうなっているんだ?


なんの話をしているんだ?


誰か説明して。


「──ね、ねぇ、カス……。富士子が口を挟む雰囲気じゃないかもしれないけど……なんの話してるの……? カスって、貧乏神のお父さんだったの?」


「は? 貧乏神のお父さん……?」


カスさんまで困惑の表情になった。

今この場にいる全員の頭の上にクエスチョンマークが浮いています。


「そうですわ。話の流れ的に、そういう話をしていたのではありませんの?」


「は? 何言ってんだお前ら?」


いや、こっちが聞きたいわ!

なんか話が噛み合ってなくないですか!?


「……ま、まさか……」


いち早くコトに気づいたのは、会長さんのようです。

びしょ濡れですけど、大丈夫ですか?

夏でも風邪は引きますよ。


「加美くん、聞きづらいことなんだけど……。君のトラウマを握っているのは、実の父親なのかい……?」


「…………」








「……so……」



「「えぇっ!?!?」」


ん?


カスさんと会長さんが同時にのけ反ったぞ。


∑ボチャーンッ!!!!!!


そしてまた落ちたぞ会長さん!!!!


「う、う、う、嘘だろぉ!?!?!?」


「げほっげほっ……! せ、世麗奈くん達は知っていたのかい!?」


あ、今度は自力で這い上がってきたぞドジっ子氏。


「い、いえ……知っていたというより、わたくしが以前加美から聞いた話をもとに、予想立てをしていただけですが……」


良いのか悪いのか、当たっていましたね。


「「…………;;」」


カスさんと会長さんが視線を合わせています。

……前から思っていましたが、この二人って、なんかただの天敵っぽくないんですよね。


「……ど、どうかしたんですか、会長……?」


「い、いや……なんでもないよ;;」


変なの。

さっぱりわからん。


「……そ、そうか…………ち、違ったの、か……」


カスさんは会長さんより歯切れが悪そうにしています。


「……な、なんだよっ……違ったのかよ……!」


憤りながらも、どこかホッとしているような、器用な顔をしています。


「で、結局なんなの? 何がどうなってんのよカス」


「な、なんでもねぇよっ!!;;」


なんでもなくないです。

私達は気になっているのです。


「パシャパシャパシャパシャパシャ……」


いつまで隠し撮っているんですかマッケンさん。

っていうか気づいてくださいよタオラーのお嬢さん方。


「お、お前らっ!! 今見たもの聞いたものは全部忘れろ!!!! 全部だぞ全部!!!!」


いや無理ですけど。


「忘れろと言われても……難しいですわ」


「そうですよ! 逆に忘れられません!」


「俺っちは感動したぁぁぁ!!!! 一生の思い出だぁぁぁ!!!!!!」


「ジュース奢ってくれたら忘れてもいいわよ♪」


「僕にはどうでもいいことだな」


「記憶からは消しますが……記録には残しておきますよフフフ……」


これが普通の人間とヘンテコ人間の差か。


「……………zzZ………」


守護神さんは寝てるし。


「お、お願いだよみんな!!;; 極力思い出してくれなければいいんだ!;;」


必死ですね会長さん。


「か、会長がそうおっしゃるのであれば……//」


「仕方がありませんわね」


「俺っちにはやっぱり野球との思い出が一番だぁぁぁ!!!!!!!!」


…………。


──というわけで、今回の件については、私の記憶とマッケンさんのカメラに強く根づくだけに終わりましたとさ。


めでたしめでたし。多分。






「ところで……あなた達」


「「「「「?」」」」」


エラお嬢様は静かに弓矢を構えました。


「いつまでこの場にいるつもりですかっ!!!! 今すぐ出ていきなさぁぁぁいっ!!!!!!!!」


ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!!!


「「「「「──!!」」」」」


無数に飛び交う矢。

その軌道は敵味方関係ありません。

野郎どもは慌てて逃げ出します。


「∑ウワッ!」


こっちにも飛んできたし!!

私は刺さりそうになった矢を寸でのところで掴み取りました。


──って!!

この矢、鉄でできてる!?

だからガラスも破壊できたのか!!


「……ヨ~シ」


これでマッケンさんを追い払おう。

私は、竹林の中でカメラを構えているマッケンさんに向かって矢を投げ飛ばしました。


「……甘いです……」


が、マッケンさんは華麗に避け、そのままどこかへ去っていきました。

……あやつ、忍者だな。




「か、会長、大丈夫ですか!?;;」


「あ、うん……;; コンタクトが取れて、よく見えないだけだから;;」


会長さんがおぼつかない足取りで男湯のほうへ向かおうとしています。

会長さん、コンタクトしてたんだ。


「た、大変じゃないですか!! 私が探します!!」


ピーチさんは露天風呂の中に飛び込みました。


「い、いや、悪いからいいよ桃子くんっ」


「で、でもっ……!」


「どのみち、買い替える予定だったからいいんだ。部屋に戻れば、眼鏡もあるし……」


「め、眼鏡……!?」


ん?

ピーチさんの目が光ったぞ。


「だから、ね。大丈夫だから。──みんな、風邪を引かないように気をつけるんだよ。じゃあ……」


会長さんは目を凝らしながら、とぼとぼと男湯のほうへ消えていきました。


「……会長のお眼鏡姿……見てみたい//!!」


そういうことかよ。




──その後、私達はお風呂から上がり、管理人さんにお風呂場の掃除を頼んでからロビーへ行きました。


人は10人ほどいましたが、やつらの姿は見受けられませんでした。


「それで……どうするんですか?;;」


「どうするも何も、わたくしは反対です」


「私モ反対デスヨ~?」


「でも、加美さんが……;;」


ピーチさんは、ナルシーさんと仲良く牛乳の飲み比べをしている守護神さんを横目で盗み見しました。


「富士子が最近ハマってるのはキウイ牛乳よ。美味しいでしょ♪」


「……美味……」


──実は、守護神さんが、今晩は私の部屋で寝たいと言い出したのです。

今は、当然の如く反対しているエラお嬢様達と相談するために、ロビーのソファに座っています。

そうでもなければ、私はこんなところには来ません。


「理解できません。あなた、加美に何をしましたの?」


「別ニ何モ」


いやホント、私は何もしていませんよ。

無実です。


「意味がわかりませんわ。加美に聞いても何も答えてくれませんし。やはり、何か裏があるのでは? 昼間の姉妹疑惑のような」


「ウーン……」


そんなことを言われても……。


「──あっ、じゃあ……今晩、加美さんと一緒に過ごしてみて、加美さんが心を開いた時に、さりげなく聞いてみるっていうのは……?」


「はい?」


エラお嬢様は、キツネのような鋭い目つきでピーチさんを睨みました。


「あなた、加美がこの者の部屋に泊まることを許すというのですか? ヘンテコ人間は何を仕出かすかわかりませんのよ」


自分で言うのもなんですが、私は熱血さんよりはマシな人間だと思います。


「だって……加美さんがあそこまで頑なに言うもんだから……なんか協力してあげたいなって思って……」


ピーチさんはお優しいですね。

だがしかし、当の私は反対なんですよ。

だって守護神さんと二人きりになっても、ただただ空気が気まずくなるだけの気がしますもん。


「わたくしだって、できれば叶えてあげたいです。しかし……」


だからこっちを見るなお嬢。

何かされるのは私のほうかもしれないんだぞ。


「……ん、まあ、大丈夫……な、気がしなくもないですわね…………えぇ、わかりましたわ。今回だけは加美の意見を尊重しましょう」


「私ノ意見ハ?」


「これは正生徒会からの命令です」


権力の鬼め。


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