第5節【恋焦がれ】
核心、現る―(1/19)
〝我が孫 凛へ〟
お前が突然いなくなって、ジジイは心底驚いたぞ。
稽古が厳しかったのか?
ジジイとの二人暮らしが嫌になったのか?
何にしろ、黙って出ていかなくてもよかったであろう。
もう少しで警察に捜索依頼を出すところだった。
お前がその学校に入学したことは、ある知人に聞いた。
お前が自分から学校に行こうとするとは思ってもみなかったが、ジジイは嬉しいぞ。
それにしても、変な学校を選んだものだな。
授業は楽しいか? ちゃんと馴染めているか?
一応、道場のやつらとは仲良くやっていけていただろうから、人間関係を築くことに困ったりはしないだろうが、集団生活には慣れていないからな。
周りに迷惑をかけないように気をつけるんだぞ。
──それで、本題だが、
今回お前に手紙を書いたのは、ジジイが今まで秘密にしていたことを話さなければならないと思ったからだ。
今のお前なら、冷静に受け止められると思う。
まず最初に、
〝私はお前の本当の祖父ではない〟。
つまり、血は繋がっていない。
お前の両親は、私の昔の教え子達だった。
その関係で、お前の両親がいなくなった後、私が代わりに育てていたんだ。
次にもう一つ。
その両親のことだが、
父は事故、母は病気で亡くなったと教えていたが、あれも嘘だ。
お前の両親は、お前が3歳の時に突然姿を消した。
お前を捨てたんだ。
そして最後に、
お前は交通事故で記憶喪失になったと話したが、それも定かではない。
傷だらけだったお前を保護した人は、何も語らぬまま病院を立ち去ったそうだ。
そのため、実際はお前の身に何があったのかはわからない。
ただ言えることは、
私は、お前が記憶障害であることを利用して、他にも多くの嘘をついていた。
本当に申し訳ない。
だが、過去を気にするなとは言わんが、思い出せない記憶に縛られる必要はない。
無責任なことばかり言ってすまないが、お前は今を楽しんでいれば、それでいいと感じる。
怪我なく、健康に、笑顔で、悔いのないよう生きるんだぞ。
また気が向いたら、いつでも帰ってくるがよい。
“ジジイより”
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