狂愛人間、現る―(6/21)


まあ、ともかく、これでまた静かな時間が戻ってきました。

でも掃除をする気が起きません。

散乱した教科書、泥だらけの床、誰かキレイキレイしてください。


私はしばらく、部屋の隅で座禅を組みました。

道場に通っていた頃の習慣です。

困ったらとにかく座禅。

悩んだらとにかく座禅。

といっても、特に何も浮かんでこないのですが。


「……どうしたものか……」


眉間にシワを寄せて思考を巡らせていると――突然!


∑──ドゴーンッ!!!!


という爆発音とともに、部屋全体が揺れました。


「な、何ごと!?」


驚いていると、


∑ドゴーンッ!!!!


∑ダゴーンッ!!!!


と、何度も同じような地響きが続きました。


「ホワットハプニング……!?」


誰だ暴れているのは……私は戦争なんて経験したくないぞ!


∑ダダーンッ!!!!


∑バゴーンッ!!!!


その後も、地震は幾度となく続きます。


「ちょっと……この建物崩れたりしない……!?」


五階まであるから、もし崩壊なんてことになったら潰れちゃうよトロちゃん。


……じゃあ逃げようではないか。


外に出たくない気もするけど、今はここから脱け出したほうがいい気がする。


私は小走りで玄関へ向かいました。


すると──。


∑ドカーンッ!!!!


扉が吹き飛んできました。


「危なっ!!」


私は寸でのところで避けました。


「トロちゃん助けてぇぇぇ!!!!」


扉をぶち破って入ってきたのは、両手いっぱいにお菓子を抱えたナルシーさんでした。


あーあ、扉の金具がぶっ飛んでる。

後で怒られますね。


「死んじゃうぅぅぅぅっ!!!!」


「ナルシーサン、落チ着イテクダサーイ」


「無理よぉ!!!!」


無理って……。


「富士子まだ死にたくない!! あれもこれもまだ食べてないんだから!! ねぇ助けてよトロちゃん!! 助けて助けてぇ!!」


カスさんもナルシーさんも、何故私に救援を求めるんだろ。

私、なんの力もないのに。


「トニカク、外ヘ行キマショー」


「そ、そうね! トロちゃんなんでこんなところにいるのよ!! 危ないじゃない!! 富士子まで潰されて死んだらどうするのよっ!!」


え、悪いの私!?


とりあえず、私とナルシーさんは部屋から出て、一階まで下りました。

私達以外の生徒も何人かグラウンドへ避難していますが、全員ではないようです。

皆さんマイペースですね。


「──あっ、ピーラー!」


グラウンドへ向かう途中、ナルシーさんは男子寮のほうを指差しました。

が、私はその指先をたどった瞬間、思わず吹き出してしまいました。


そこには、ウエストの位置が高いジーパンにシャツをINし、その上に袖なしのGジャンを着て、腹部にウェストポーチを装着し、ポスターがささったリュックを背負って、黒ブチ眼鏡とバンダナを装備した、そんな金髪の人がいました。

手には、あのセーラーマーズのフィギュアが握られています。

服装そのものが面白いのではなく、普段とのギャップに笑いが止まりませんでした。


そんな不良いねぇよバカ野郎!


っていうかよくわかりましたね、ナルシーさん!


「ど、どうしたのトロちゃん……鳥みたいにクッククック鳴いて……」


そんなふうに鳴く鳥見たことないです。


「イ、イエ……ナンデモナイデース……ククッ」


私が笑いをこらえていると、ピーラーさんがこちらにやってきました。


「おいお前ら!! こいつはなんの騒ぎだっ!?」


私が聞きたいですよ。


「知らないわよ!! でもとにかく逃げないと死んじゃうわ!!」


「そうだな!! 僕はまだ死んでも死にきれねぇ!!」


近くで見るとこれまた……ウククッ。


「ト、トロちゃん大丈夫!? 気分悪いの!? 吐きそう!?」


吐かねぇよ!


「死にそう!?」


死なねぇよ!


「ホント……ナンデモナイデスカラ……」


ナルシーさん、なんでピーラーさんにツッコまないんだろ。


「きっと地響きのせいで酔ったんだわ! 早く向こうに逃げましょ!!」


「おう!!」


二人はグラウンドのほうへ走っていきました。

私も仕方なく着いていきます。


建物が崩れた時のことを考えたら、確かに広いグラウンドに逃げるのが妥当だと思うのですが、どうも胸騒ぎがするんですよね。


だって、肝心の爆発音がグラウンドのほうからするんですもの……。


∑ドゴォォォーンッ!!!!!!


やっぱりかい。


到着したグラウンドには、直径2メートルほどの穴がたくさん開いていました。


そして、その中を駆け巡る二人の生徒。

そう、あの二人です。


「待ってぇ今田くぅ~ん!!♪」


「来るんじゃねぇ怪物ゴリラ!!!」


やれやれ、部屋から追い出せば被害を被ることはないと思っていたのに……。


「──そこの二人!! いい加減にしなさーい!!」


「夕食抜きにしますよー!!」


寮母さん達が怒鳴っています。

ちなみに、休日は学校の先生はほぼいません。

私達の面倒をみてくださるのは寮母さんです。


「なら誰か助けろよぉ!!」


……ん?

よく見ると、逃げ続けているカスさんが、エリザベスさんに何かを投げつけています。

そして、それをエリザベスさんが手で叩き返し、その瞬間に爆発が起きています。

なんだあれは……。


「あれは……小型水素爆弾です……」


∑うぉ!!

出たなロッカーのゾンビ!


「「「小型水素爆弾?」」」


「はい……火薬玉みたいなものです……。導火線がついていて……着火すると……玉に引火して……中の液体水素が化学反応を起こして……爆発します……」


「マッケンサン作?」


「はい……」


そんなもん作るな!!


「すごいわねマッケン!!」


「やっぱ天才だな!!」


すごいけど褒めるところじゃないです。


「何故、ソレヲカスサンニ?」


「頼まれたからです……ゴリラ退治に役立つものを作ってくれと……」


ということは、爆弾のチョイスはマッケンさんの意思なんですね。

相変わらず何を考えているのだか。


「おいマッケン!! ブツがなくなったぞぉぉぉ!!!!」


「もうありませんよー……!」


「なんだとぉぉぉ!?!?」


無駄にグラウンド荒らしましたね。


──と、そこへ、正生徒会の方々がやってきました。


「こ、これは一体……!?」


「グラウンドが穴ぼこだらけ!?」


「うひょ~! また派手にやりやがったな!!」


「酷い有り様ですわ!」


「……滅……」


あ、守護神様もいらっしゃる。

よく見ると結構小柄なんですね。


ちなみに、正生徒会の方々は私達と同じく住み込みですが、外出は自由らしいです。


「お前ら楽しく見てんじゃねぇよぉぉぉ!!!!!!」


誰も笑っていませんが。

止まることなく走り続けているなんて、お二人とも強靭的な体力ですね。


「今田くぅ~ん!!♪ オープンマイハート!!♪」


エリザベスさんよだれダラダラだ!!


「燃えよ!! ファイヤァァァスティィィックッ!!!!!」


カスさん、マッチの束を擦って後ろに投げつけます!


「マッチ一本火事のもと♪ パクッ」


∑食べた!!

燃えてるマッチ食べたよあの人!!


「お、俺の戦友がぁぁぁ!!!!!!」


カスさん、ショックでその場に泣き崩れちゃった!

戦友って……たかがマッチじゃないですか!


「ペッ! いま抱きしめてあげるわ今田くぅん!!♪」


∑汚っ!

食べたマッチ吐き捨てやがった!

もうこのグラウンド使いたくないよ!

どのみち使えないけど。


「い、今田くんっ!!」


会長さんが青白い顔で叫びました。

このままではカスさんが悪魔に食べられてしまう!


「世麗奈くん! お願いだよ! 彼を助けてあげて!」


「し、仕方ありませんわねっ」


会計の江良世麗奈さんは、背に携えていた矢筒から矢を一本抜き取り、弓につがえて放ちます。

矢は真っ直ぐに翔ぶと、今にもカスさんを捕らえようとしていたエリザベスさんの制服の袖を射抜き、そのまま彼女を傍の木に貼りつけました。


「∑!? な、何よこれ!? 動けないじゃない!! このっこのっ!!」


「ブラボーデ~ス」


「ありがとう世麗奈くん!」


「足を狙ったつもりでしたのに……まあ、結果オーライですわ」


足!?

位置が全然違うじゃん!

この人、まさか初心者!?


「カスー! 今のうちに逃げろよー!!」


ピーラーさんがレイちゃんのフィギュアを握りしめたまま叫びます。


「俺の……俺様の戦友が……!」


いつも使い終わったマッチはその辺に捨ててるのに、何故今回はそんなに落ち込むんですか。


「アメリカ製だったのに……!」


ああ、だからギザ10でも燃えるんですね。


「ちょっと聞いてんのー!? こらカスー!!」


ナルシーさんはお菓子をボリボリ食べたまま怒鳴っています。

器用ですね。


「小型水素爆弾120個分の代金は0が1、2、3、4、5、6フフフ……」


マッケンさんはなんか黒い笑みを浮かべています……。怖いです……。


「少年!! 君は助けてもらった恩を水の泡にする気かーい!? 女に負けちゃあ男が廃るぜ!! 魂燃やせやぁ!!!!」


熱い!

熱いぜ熱血書記さん!


「立て! 立つんだ今田くん!! 君はそんなところで諦めちゃいけないんだ!!」


会長さんも影響受けてる!


「このクソ矢がぁ!!!! オラオラオラァ!!!!」


∑バキッ!

あっ、矢が折れた!

っていうか、今までよく耐えてたな!


「アイラブダーリン今ダーリン!! 今すぐアタシを抱き締めてぇ!!♪」


ヤバい、ヤバいぞ!!

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