正生徒会、現る―(11/11)


「──なるほど、そういうことだったんだね」


カスさんを見送ったあと。

壁の隙間から誰かが出てきました。


「……会長サン」


よくそんな細い隙間に入っていましたね。

しかもまだ制服なんだ。


「盗み聞きが悪いことだというのはわかっているよ。でも、直接聞いたら答えてくれなさそうだったからね」


何を?


「まさか君が、あの今田くんを従えていたとは」


従えてはいない。


「……正生徒会ノ皆サンハ、非力ソウダッタノデ~」


嫌味言ってやる。


「ははは……確かに僕達は彼を見誤っていたよ。でもね、僕達が本気を出せば、抑え込めていたと思う」


「怪我人ヲ出シテオイテ、ヨクソンナコトガ言エマスネ~」


「そうだね……それも誤算だった。それは僕の責任だよ、準備不足だった僕のね」


準備するものなんてあるのだろうか。


「チナミニ、会長サンノ特技ハ何デスカ?」


「ぼ、僕? 僕は……………………………………………………」


沈黙長っ!

ないんならないって正直に言いなさいな。


「ぼ、僕はいわゆる軍師だからね。計算高い策略で相手を貶めて──」


あーはいはい、インテリ男なんですね。


「会長サンッポイ特技デスネ」


一番貧弱な特技ですね。


「ま、まあ、そうなのかな……。一応、勉強は得意なほうだから」


「一応、逃ゲルノハ得意ナホウダカラ?」


「え?」


「ン?」


「…………」


「…………」


あは、つい悪乗りが。


「ま、まあ、そういうことだから、次は負けないよ」


会長さん、あなたの今回の敗因は黒板消しに引っかかったことですよ。

カスさんはまったく関係ないんですよ。


「私ニハ、関係アリマセンケドネ~」


「ふふ、そんなこと言わないでほしいな。君には、今田くん達の抑止力になってほしいんだよ」


無理、4対1は無理。


「ゴ自分達デドーゾ。私ハ傍観者デ~ス」


「冷たいなぁ」


だって、私はまだ死にたくありましぇ~ん!


「まあ、今はそれでもいいのかな。クラスメイトというのが前提だからね」


はぁ……。


「それじゃあ、僕は失礼するよ。まだやらなくちゃいけないことがあるからね」


「ア、ハイ……」


お風呂入りに来たんじゃないんだ……。

っていうか、脱走者を捕まえなくてもいいのか?


会長さんが去っていった後、私は自室に戻ろうと歩き始めました。


──が、しかし、またまた、どこからか刺すような視線を感じて足を止めました。


「……ソコデ何ヲシテイルンデスカ~?」


やれやれ、お次はどなたですか……。


「な、なんでわかったんですか!?」


一人の女の子が、観葉植物の影からひょこっと顔を出しました。

ああ、副会長さんか。


「ナントナク、気配ガシタノデ」


可愛いツインが見えていましたし。


「只者じゃないですね……」


「私ハ、ケダ者デース!」


「∑はっ!?」


「冗談デース」


リアクションが面白い。


「も、もぉ……そういうのはやめてくださいよ……;;」


大したことしてませんが。


「私ニ何カ、ゴ用デスカ~?」


「えっ、べ、別にっ……!」


いやいやそんなわけないでしょう。


「用モナイノニ隠レテ見テイタデスカ~。変態デスネ~」


「ち、違いますよっ!! そんなわけないじゃないですか!!」


「デハ何ヲシテイタノデスカ~?」


「そ、それはっ……」


ハハハ、実はわかっていますとも。

でもそのくらい自分で言えなきゃダメです。


「その……」


はい。


「あの……」


はい。


「だから……」


はい。


「かくかく……」


はい。


「しかじかで……」


はい。


「まるまる……」


はい。


「うまうまで……」


はい。


「だからっ……」


はい。


「そうなんです!!」


わからんがな。


「スミマセーン、マッタク、ワカリマセーン」


「なんで!?」


なんでって……あなたがちゃんと喋らないからでしょう。


「モシカシテ、会長サント何ヲ話シテイタノカ、聞キタイノデスカ~?」


しょうがないから言ってあげました。


「ち、違いますよっ//!!」


違うんかい!


「私はただ……会長が……なんであなたと話していたのかが、知りたくて……」


ほぼ正解じゃん。

そんなもん会長さんに直接聞いてくださいよ。


「なんでかな!?」


知らんわ!


「本人ニ直接聞イテミテハ?」


「それができないからここにいるんですよ!!」


そんなこと言われても。


「じゃあ、会長と何話してたんですか!?」


結局聞くんだそれ。


「……ウーン……イロイロ……」


「いろいろじゃわかりません!」


注文多いなぁ。


「……大人ノ話トカ……」


「Σお、大人の話///!?!?!?」


めちゃくちゃ動揺してるよ。嘘なのに。


「会長サン、勉強ノ一環トシテ、大人ノ体ノ作リニツイテ~詳シク知リタインデスッテ~」


「ぶはっ!!」


あっ、鼻血噴いて倒れた!! また鼻血か!!


「副会長サン!? 大丈夫デスカ!?」


「か、かかか会長がっ……大人っ……大人のっ……//!!」


「嘘デスヨ! ジョークデスヨ! アメリカンジョークデース!」


「会長っ、会長がっ……──ガクッ」


気絶した!?

そんなにショックだったの!?


「──も、桃子!?」


うわ、なんかめんどくさそうな人が来た。


「あなた、桃子に何をしましたの!!」


正生徒会会計のエラお嬢様です。

あ、書記の熱血さんも来た。


「どうしたんだ桃っちゃん!! 鼻血ブーじゃないかぁ!!!!」


モモっちゃんって呼ぶんだ。


「チョットシタ、アメリカンジョークデ~ス。……コノ人ニハ通ジマセンデシタガ」


「おふざけが過ぎますわ!! 桃子に何かあったらどうしますの!!」


大丈夫ですよ、多分。


「マサハル、桃子を医務室へ!」


「了解だ世麗奈っち!!」


セレナっち……。


熱血さんは副会長さんをお姫様抱っこして、全速力ダッシュしていきました。


「このことは先生方にも言いつけますわ! 覚悟してなさい!」


会計さんも走り去っていきました。


会長さんに続いて、副会長さんも手にかけてしまった。

私も問題児化しているような気がするのは、私だけだろうか……。




その後、私は自室へ戻る帰り道でマッケンさんに会いました。

マッケンさんは相変わらずの顔色でしたが、いたって元気そうでした。

持っていた特製の薬を飲んだらしく、もう痛みも何もないそうです。

自分で薬を調合できるなんて、すごいですが……ちょっと怖いデース。


しかもマッケンさんと別れた後、ふと思い出したのですが、私とマッケンさんが出会った場所は既に女子寮の敷地内です。

盗聴・盗撮・盗難。

女子寮で一体何をしていたのでしょうか……本当に怖いデース……。


ともあれ、今日も騒がしい一日がようやく幕を閉じます。

目まぐるしい一日でした。

とても気疲れしました。


正生徒会の人達とは、今後長いお付き合いになりそうです。

面倒です。

安眠したいです。

観ている分には楽しいのですが、加害者になるのは遠慮したいです。

私がもっと平常心でいればいいのかな。

これでも感情の起伏はちゃんと抑えているんですが。


まあとにかく、できるだけその場の空気になって気配を消すことが第一だと思います。

気持ちだけでもね。


それでは、そろそろおいとまします。

自分でも誰に言っているのかわかりませんが、皆さん、お疲れ様でした~!


グッドナイト☆


おやすみなさ~い......zzZ

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