正生徒会、現る―(5/11)


その後、教室へ向かった私は、新しい担任の先生にこっぴどく叱られ、「初っぱなからサボってんじゃねぇぞトロトロ!!」とか言ってきたカスさんに殺意を覚えました。


新担任の先生は、角刈りの先生でした。

額のイボがお地蔵さんを連想させます。

そのせいか、カスさんが先生に喧嘩を売ることは終始ありませんでした。


午前中の授業は主にミーティングで、今後の授業日程や、学校・寮の施設利用についての説明がありました。

学校敷地内からの外出は基本禁止であるという説明がされた時は、無口だった皆さんがざわついていました。

私は別にどっちでもいいですけどね。

特に出かけたい欲もありませんし。


──ともあれ、無事にミーティングが終わった後は昼食です。


昼食はバイキング形式だったので早食い競争はありませんでしたが、カスさんとナルシーさんは食べる量を競っていました。

勝者、富士盛りのナルシー。

正直、一生勝てないと思います。


昼食が終わり、昼休みになると、皆さんは散り散りになりました。

カスさんはバスケットをしに体育館へ、

ナルシーさんは残飯処理をするために食堂に居座り、

ピーラーさんは昼寝をするために屋上へ、

マッケンさんはよくわかりませんが、技術室へ向かったようです。


私は学校見学も兼ねて、その辺をブラブラすることにしました。

ちなみに、この学校は5階建てです。

一階には、A組教室、保健室、美術室、食堂、生徒ホール、化学室など。

二階には、B組教室、音楽室、購買室、図書室など。

三階には、C組教室、職員室、校長室、パソコン室、物理室など。

四階には、D組教室、書道室、映像室、技術室など。

五階には、E組教室、正生徒会室、会議室、生物室、相談室などがあります。


各階には空き教室が多くあり、使用目的が未定なのだと思います。

部活動で使うつもりなのかな?

っていうか、部活動は存在するのか?


特にめぼしいものもなかったので、私は教室に戻ることにしました。

五階から階段で下ります。


──すると。


「あ、あなたは……!」


正生徒会室から、副会長の盛利桃子さんが出てきました。


「ハロ~コンニチハ、デース」


「は、はろー、こんにちは……」


素直だな。


「私達の偵察にでも来たんですか!?」


いや、いくら暇でもそんなことしませんよ。

私は喧嘩売る気ありませんし。


「…………」


でも、答えずに、意味深な目を以て無言で見つめ返しました。

副会長さん明らかに警戒してるし、正直に言ってもどうせ信じてくれないでしょう。


「ちょ、ちょっと、人の質問には答えなきゃダメですよ!!」


「…………」


「それが礼儀です!!」


「…………」


「そんなことも知らないんですか!?」


「…………」


「そんなんじゃ社会に出られませんよ!!」


「…………」


「聞いてます!?」


「…………」


「聞こえていますよね!?」


「…………」


「真面目に聞いてくださいよ!!」


「…………」


「ねぇ!!」


「…………」










「……orz」










フッ、勝ったぜ。


って、そんなことはどうでもいい。

副会長さんは置いといて、さっさと下りましょう。


そういえば、マッケンさんは四階の技術室にいるんでしたかね。

ちょっと覗いてみましょうか。

私は(気分だけ)気配を消して、技術室の扉をそっと開けて中を覗いてみました。


「……これで正生徒会は潰れるでしょう……フフ、フフフフ……」


──怖っ!!

なにしてんのあの人!?

爆弾でも作ってるのか!!!?


私は猛ダッシュでその場から逃げます!

見てはいけないものとはこういうものなんですね!


階段を駆け下りていると、下からざわめきが聞こえてきました。


「今田くん!! 廊下で遊んじゃダメだよ!!」


「熱いな少年!! だがバスケットボールは体育館でのみ使用可能だぁぁぁぁ!!」


「大人しくわたくしに射抜かれなさい!!」


「ハッハァ!!!! 俺様のドリブルが見切れるかぁ!!!!」


…………。

これは触れてはいけないものですね。

早いとこ逃げましょう。


私は教室に戻る前に、図書室に寄ることにしました。

別に読書が好きというわけではありませんが、休み時間はそれくらいしかやることがないと思うので。


図書室の中はとても静かで、ひんやりとしていました。

ひと気がありません。


本はあまり数多くありませんでしたが、私が読みそうな小説は一通り揃っていたので不憫には感じませんでした。


適当に本を一冊選んで、カウンターに行きます。

普通なら貸出カードがあったりパソコンで貸出処理をしたりすると思うのですが、この学校ではどうするのでしょうか……。

司書の方もいなさそうですし。


「スミマセーン」


一応呼んでみました。

奥のほうにいるかもしれないので。


「誰カイマセンカ~」


誰か出てきてください。

この本盗んじゃいますよ。


「…………ガタッ」


∑──!

カウンターの内側から物音が!


「……はい……」


あ、あなたは!

正生徒会の守護神様!!


「ア、アノ、本ヲ借リタイノデスガ」


この子がここの管理人なのでしょうか……。


「……どうぞ……」


え?


「手続キハ、イイノデスカ?」


「……わたし……記憶した……もういい……」


この子の脳が貸出カード!?

そんなんでいいの!?


「……ソ、ソウデスカ……アリガトーゴザイマス」


今気づいたんですが、私、普通に目を合わせながら話していますね。

大丈夫なのかな?


「……わたし……女の人……弱い……」


え?


「女の人……迷惑かけない……かけたくない……だから……安心……」


女同士だから大丈夫ってこと?

それって、今は力が制御できてるってことですよね。

タイミング良くてよかった。

っていうか、私の心読みました?


「……あなた……わたしに……似ていない……こともない……」


つまり似ている気がするってことですか?


「エット……ドコガデスカ?」


「……髪……」


髪?

確かに黒くて長さも同じくらいですが……。


「……顔……」


いや、私そんなに童顔じゃないです。


「……表情……」


今は無表情しかするリアクションがないです。


「……以上……」


左様ですか……。

でも決定的な違いとしては服装がありますよね。

何故制服を着ていないのでしょうか?


「アノ……ドーシテ制服ジャナインデスカ~?」


気になることはパパッと聞きましょう。


「…………」







「本日は閉店しますしゃようなら」


∑おい!!

閉店ってなんだよ!!

ここあなたの店!?

しかも〝しゃようなら〟って、明らかに噛みましたよね!?


「もう来ないでくだちゃいちゃようなら」


舌足らずぅ!

あ、引き出しの中に消えた!

来ないでくださいって……本返しに来なくちゃいけないから最低一回は来ますよ……。


謎は残りましたが、仕方がないのでそのまま退室して教室へ向かいました。


変な子。

絶対普通の人間じゃないよあの子。

私の逆で、正常人間を装ってるヘンテコ人間なのかな。

その可能性大です。

ま、別にどっちでもいいですが。

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