第55話 戦場の悪魔
「くっ! お嬢様、私の後ろに!」
「ひゃあああ、ちょ、たんま、ストップ!?」
「はわわわ」
凄まじい勢いで飛んでくる闇色の剣やら槍やらをユリアに弾いてもらいながら、足元に張られているご主人さまの結界を確認します。
うぅん? 機能はしているのですが、どうやらあの幼女の魔法だけはすり抜けてくるようです、なんという欠陥。
「あははは、その結界のことはもうわかったしたの! 破るのは無理でもお前を傷つけないように条件を絞ればすり抜けるのは出来るの!」
敵は意外と優秀だったようです、幼女のくせに! まな板のくせに!! というか傷つけないようにってただの嫌がらせじゃないですか、そんなことのためになんて無駄に高度な技術を!
「覚悟するの、この場で剥いてその貧相な身体を白日のもとに晒してやるの! それから全身に卑猥な言葉を書き込んでやるのよ!!」
「そこは殺してやるとかじゃないんですか?」
逆にえぐいですが、あれほど殺気を振りまいておいて随分と平和的、いえ平和的ではないですが、殺そうとはしてこないのがちょっぴり違和感です。
「お前を殺したらあの鬼畜が黙ってないの、それは怖いの!!」
「あ、なんかすいません……」
彼女なりにご主人さまの逆鱗に触れないギリギリを目指して頑張っているようでした。それなら仕方ありませんね。
「安心するの、それに触れても怪我はしないの、動けない程度に体力を奪うだけなの、だから大人しくするの、私の味わった屈辱をお前にも味あわせてやるのよ!!」
「やめてください! 身体に卑猥ならくがきしてくるような変態はご主人さまだけで十分です!」
思わず反論すると、何故か敵味方問わず全ての視線が、敵の騎士相手に無双していたご主人さまに集まります。
「ふはははは、蛮族に相応しい趣味だな!」
「黙れ!」
ご主人さまの顔がちょっと赤いです。エロゲばかりやってるから影響受けてこんな目に合うんですよ。反省して下さい。
「……お前も苦労してるの」
「朝起きて太ももに書かれた正の字を確認した時は本気でしにたくなりました……」
その後、無表情でぽろぽろ泣いてたら流石にやりすぎたと思ったのか必死で謝ってきて、以降それは完全封印してくれましたが。
精神的なダメージが地味に半端無いのですよあれ。そんなことを
「一応言っとくけど最初にやったのはお前なの、これは正統な復讐なの」
「ボクがやるのはいいんですよ、でもお前がやるのはダメなのです。そんな事も解らないからお前は幼女なのです、やーい、一生幼女ー! 生涯つるぺたー!」
「解ったの、お望み通り身体中に卑猥な言葉書きまくってやるの!!」
幼女からの攻撃が激しくなり、盾になってくれているユリアに半眼で睨まれました。
「お願いですから挑発は控えて下さい!」
「ごめんなさい、あの黒幼女を見ると馬鹿にしたい衝動が抑えきれないのです!」
きっと根本的に相性が悪いのです。もしくは前世で何かの因縁があったのです。
「ぶー」
そしてこのお魚さんは何で頬を膨らませてるんですかね。
「ソラは会長と私のなんだからね!」
何で所有権を黒幼女に向かって主張するのですかね。ていうか何度も言いますがボクはボクのものですから、いつから君たちの所有物になったのか。そんなジャイアニズム絶対認めねぇのです。
「男だけじゃなく女までいけるとか、引くの……」
「誤解です! 素で引かないでください!? フェレも何言い出すんですか!」
「ソラはびっちだから心配なんだもん!!」
「
ボクはビッチじゃないのですよ! というかご主人さまにせよ猫にせよ牛にせよ魚にせよ、一方的にそっちが襲ってくるんじゃないですか!
あーもう落ち着くのですボク、あの黒幼女は確か発言の真実を見極める能力があるはず、その力があるかぎり、あらぬ誤解を抱くことはないのです。
「……ごめんなの、同性は無理なの」
「その能力は飾りですかこのすっとこどっこい!!」
もうだめです、視線が集まってきます。これで味方にまでビッチ扱いされることになってしまいました。もう自室に引きこもって出てこないようにしましょう、そうしましょう。
「所詮は畜生か、お前の連れのエルフは大層な尻軽のようだな!」
「ふん、そのうち俺だけしか見えないようするから問題ない」
問題しかないんですけど。
◇
さて、ご主人さまが一人ずつ制圧していく一方で。ルル対縦ロールの方は状況があまり良くなさそうです。
その細剣が振るわれる度にルルの身体につけられる細かい傷がどんどん増えていきます、このまま戦っていては出血での体力低下は免れないでしょう。
因みに虎耳さん達はここを他の騎士たちに任せてアラキスさんの護衛へと戻ったようです。中にも多少なり侵入されているようでしたので、妥当な判断でしょう。
そしてボクはといえば、ユリアの背中に隠れて膝を抱えて丸くなっていました。
「大丈夫だよ、ソラはびっちだけど可愛いよ!」
「ありがとうフェレ、帰ったら絶対刺身にしてやります」
竜田揚げでもいいですよ、もう何も怖くないのです。海のシェパードだろうと緑のピースだろうとボクを妨げる事はかないません。立ちはだかる全てを打ち砕いて進みましょう。
「え、私ソラにたべられちゃうの?」
やーんとシナを作るフェレ、こいつも怖いもの知らずでしたか。
「ていうかお嬢様、流石にこれ以上は持ちませんよ、どうするんですか!?」
さっきから全ての魔法を防いでくれていたユリアも限界のようです。かくなる上は覚悟を決めるしか無いのです。まぁ流石に命の危険がくればご主人さまも自重を捨てて瞬殺して助けてはくれるんでしょうけど。
「仕方ありません、イチかバチかにかけます」
「お嬢様、一体何を……」
チャンスは一度きり、ガチャで手に入れた時に散々からかわれた悪夢を振り切り、覚悟を決めます。
本当なら一生封印していたかった"スキル"ですが、これ以上仲間に負担を掛けるわけにも行かないでしょう。
「ソラ……」
「大丈夫です、ボクは勝ちます」
というか、あの黒幼女にやられっぱなしは気に喰わないのです。ボクのほうが戦闘力でも上だと言うことを思いしらせてやるのです。
「――黒幼女、わかりました、ボクの負けです、好きにするといいのです!」
声を張り上げると、ご主人さまを含めた獣人達が驚いたようにこちらを見ます。黒幼女までなんで驚いているのか。
「ふん、良い心がけなの」
警戒はにじませながらも攻撃は止まり、どこからか墨筆のようなものを取り出しやがりました。
あいつ本気でやる気ですか。他の騎士たちは丁度戦闘が忙しくてこっちには気を向けていません、黒幼女は無遠慮に結界まで近づいて来ると、創りだした黒いロープでユリアとフェレを拘束しはじめました。
これ最初から使われていたらやばかったんじゃないでしょうか。いえふたりとも驚きで反応が遅れただけで、臨戦態勢だったら対応して避けられたでしょうし、一度タネが解れば後は普通に防げるでしょう。
「さぁ、出てくるのよ、他の連中には手を出させないから安心するの」
「お嬢様!」
「ソラ!?」
邪魔するものがなくなったとばかりに結界に肉薄した黒幼女がニヤニヤと笑いながら手招きをします。ここを出れば宣言通り、裸に剥かれてらくがきされるのでしょうね。
「ソラ!」
「手を出さないで下さい!」
ボクは"覚悟"を決めて、こっちに来ようとするご主人さまにこいつはボクの獲物だと視線で語ります。
目があってしばらく見つめ合うと、アイコンタクトをわかってくれたのか渋々足を止めて、ご主人さまは他の騎士たちの制圧へと移りました。こいつにはボクの、ボク自身の力で勝たないとダメだと、そんな気がするのです。
準備が整った所で、黒幼女を睨みながら一歩踏み出します。
そのやりとりに気づいた黒幼女ですが、すぐにボクの動きに気づいて舐められたとでも思ったのか不機嫌そうな顔をしました。
普通に攻撃してもボクの動きでは彼女を捉える事は出来ないので、返り討ち確定でしょう。
そう――――普通に攻撃しても。
勢い良く結界から飛び出して、「やっぱり」と声をだす黒幼女に向かって抱きつきます。殴られる蹴られる逃げられるは想定していても、抱きつこうとしてくるのは予想の埒外だったのでしょう。
一瞬反応が遅れた黒幼女の唇に、自分の唇を押し付けました。
「んぅぅぅ!?」
「あぁぁぁぁ!!」
フェレの悲鳴が聞こえて、黒幼女が目を白黒させます。ですがもう遅いのです、途端に目を見開き、頬を紅潮させた黒幼女が慌ててボクを引き剥がそうとしますが離しません。
強引に唇を開かせて舌を侵入させます。抵抗は激しかったですが何か言おうとしたのか、口を開いた瞬間を狙って無理矢理ねじこみました。
これで"スキル"の発動条件は満たされました。さぁ、思い知るがいいのです、神のもたらした"絶対的な力"の恐ろしさを……!!
「んぅいぅぅぅ!?」
「あーーーーーー!!」
スキルが発動すると同時に、黒幼女が悲鳴らしきものをあげて暴れはじめました。逃さないように押さえつけてスキルを使い続けます。
ボクの体を叩いていた手は次第に衣服をしっかりと握りしめるようになり、丸まっていた身体は何度も背筋を伸ばすようにピンっと張り詰められては、激しく痙攣しています。
そうしたまま五分ほど、完全に抵抗がなくなったのを確認してから唇を離すと……黒幼女は顔をリンゴのように真っ赤にしながら虚空を見つめて身体を痙攣させていました。
身体を離して見下ろしてみると、ローブのお尻のあたりから地面に向かって液体がしみだしているようでした。
彼女は身体を震わせながらも立ち上がる気配がありません。つまり完全な戦意喪失、そう、ボクの――勝ちです!
◇
種明かしとしては本当に簡単なもので、新しく手に入ったスキル『|悪魔の口吻(ディープキス)』によるものです。
これはただ触れていればいい『|天使の口吻(プリティキッス)』と違い、舌による粘膜接触が必要となるエクストラスキル。効能について詳しくは語りませんが、時間をかければボクでも相手に対して深刻なダメージを与えることが出来るのです。
やろうと思えばご主人さますらもノックアウト出来るのですが、絶対条件としてその名の通りディープキスを必要とするのが最大の難点であり、封印することを決めた最大の理由でした。
でもこれで格付けは完了なのです。手に入れたスキルを駆使してで強敵に完勝する、これぞ異世界ものの主人公ってやつですね。
「ふふ、ふ、愚かなり黒幼女、相手を侮るから、こういう目に遭うのです!!」
涙目になって口元をごしごしと拭いながら結界の中へ戻り、黒幼女を指さします。なんか周りからの視線が痛いですが気にしません。
もう気にしないのです。これでボクも名実ともに撃墜数一なのです、参ったか。
「うぅぅー! 私もー!」
「ウェイト! シット! ハウス!」
飛びついてきたフェレを地面に抑えつけてから、ふたりに巻きつけられた壊れかけた闇色のロープを解いていきます。本人が制御を手放したせいかえらくあっさりと解除出来ました。
「お嬢様……そこまでして勝ちたかったんですか」
「勝利に犠牲は、強い力に代償は付き物です……」
なんか憐れみの視線を向けてくるユリアから目をそらして、滲む視界を手の甲で擦りながらご主人さまへと目を向けます。
何やら微妙な顔でボクを睨みながらも、バシバシと敵を叩き伏せてます、ちょっと不機嫌ですかね……後が怖そうです。
「集団での戦い方は要検証だな……」
何やらぼやきも聞こえます、思った以上に立ち回りが大変だったみたいです。今までは全力を出す必要がありませんでしたからね、舐めプの影響は大きかったのです。
そして一度傾いた態勢はもはやひっくり返ることはなく、その場に居た敵側の騎士たちは次々と制圧されていきました。
「これで、勝負ありだな」
大体の戦闘が終わったことを確認してから、奥にいる指揮官に向かって剣を突きつけ宣言したご主人さま。しかし敵の指揮官は何を思ったのかニヤリと笑い。
「――やはり、甘いな」
その言葉が聞こえると共に、地面が一定の周期で振動しはじめました。感覚の鋭い獣人達が未知の感覚に動揺しています。
「何? 何!?」
「……地震、じゃなさそうです」
なれない地面の揺れで怯えてしがみついてくるフェレをなだめながら、何が起こっているのかと周囲を見回します。
「何をした……?」
「くくく、俺は何もしておらん」
振動はどんどん大きくなっていき、そして木々を越えて見える森の外の空に、ソレは現れました。目算で全長200mはありそうな鉄の巨人。
「見よ、あれこそ我がフォーリッツの誇る護国の兵器! 最強のゴーレム、
こ、ここに来て巨大ゴーレムですか……?
◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
NO BATTLE
◆【ソラ Lv.105】
◆【ルル Lv.43】
◆【ユリア Lv.46】
◇―
================
ソラLv.105[1057]
ルルLv.43[431]
ユリアLv.46[461]
【RECORD】
[MAX COMBO]>>40
[MAX BATTLE]>>40
【PARTY-1(Main)】
[シュウヤ][Lv125]HP3700/3700 MP3950/4560[正常]
[ソラ][Lv105]HP70/70 MP1185/1685[正常]
[ルル][Lv43]HP950/950 MP22/42[正常]
[ユリア][Lv46]HP2540/2540 MP51/91[正常]
[フェレ][Lv40]HP445/445 MP1250/1450[正常]
[マコト][Lv85]HP5500/5500 MP100/170[正常]
================
「そら、やっぱビッチじゃん」
「お嬢様……」
「ぜんぶ黒まな板を倒すためなのです、仕方なかったのです」
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