第49話 動き出す世界
おバカさんたちを追い返してから一ヶ月ほどの時間が流れました。
ダイエットも成功して元通りの体型になりましたし、幸いにも天候はそこまで荒れず、実に平和な時間でしたね。
そして最近になってまた獣人等が流入してくるようにもなっていました。
どうやら彼等達の間で森の国、『ムーンフォレスト王国』の噂が広まっているようです。最後の希望としてここに庇護を求めに来ているのだそうな。人が増えれば食料や住む家は必要、でも冬場では動けません。
しょうがないのでご主人さまが緊急で天候対策の魔道具を創り出し、里の人たちと一緒に集落の拡張に励んでいる現状です。
同時に武器の製造も始めたことで本格的にチートが始まったようです。今のところフォーリッツからのリアクションはありません。しかしどこか病んでる気配を感じる風から届いた噂では、軍がこそこそ動いているそうで……恐らく春頃に本格的な戦争が始まるのでしょう。
殺し合いはさすがに滅入るのですよ……。
「少なくともこっちの人員を死なせるつもりはない」
とご主人さまが豪語していたので、そこまで心配していないのですが。
◇
「我らも殿下と共に戦いたく思います」
「ありがとう、君たちの助力を得られるなら百人力だ」
里から少し離れたところ。結界を隔てた場所にある屋敷の中。
ご主人さま曰く"大使館"では最近の流民に混ざって集まり始めた兄王子アラキスの支持者たちと、主要メンバーの面通しが行われていました。
最初はみんな若い国王であるご主人さまを訝しむのですが、たまたま襲ってきた大型の魔物を一瞬で消し飛ばしたところ遠い目をして失礼な態度はしなくなりました。砲艦外交って大事なのですね。
ルルがまだ怪我の療養中なので、ボクとユリアはメイドさんルックでご主人さまの背後についてお手伝いです。……療養とは言っても数日前にはリアラさんに完治宣告されているので、訛った身体のリハビリが主な仕事のようですが。
そんなわけで、順調にこちら側の戦力も整ってきているのです。まぁフォーリッツ側の人間を信用する訳にはいきませんけど、今のところ問題のありそうな人は紛れ込んでいないみたいです。
「シュウヤ陛下、我々へ対する数々の支援に感謝致します。これからも何卒ご協力をお願い出来ますれば」
「ええ、共に王国を取り戻しましょう」
最後に今回訪れた団体の代表らしきおじさんとご主人さまとの挨拶が終わり一段落。支持者の皆さんを見送った後は里に戻り、武具製造施設の視察と忙しいのです。
「それでは殿下、私共は里へ視察へ行くので」
「解りました」
ボクはアラキスさんに頭を下げてからマントを翻したご主人さまについて大使館(仮)を後にして、3人揃って身体を解しながら雪道を歩きます。
「堅苦しいのは疲れるのです……」
「本当ですね……」
「後は気楽でいいから、頑張れ」
ぽんっと頭を撫でられて、ユリアは少し元気が出たようですがボクの方は全然です。甘いものと休息を要求します、身体がだらけることに飢えているのです。怠けさせろー!!
なんて内心で叫びながらも身体はおとなしく同道し、里の一角に作られた冬でも暑い工房へたどり着きました。丁度ドワーフのおじさんが試作品らしき鉄の筒を持って出てきます。
「おぉ、シュウ坊じゃねぇか、待ってたぜ」
仮にもコレは国王なのですが、まぁ格式ばった国じゃないので気安いのは良いことでしょう。それよりも彼が手に持っているものが気になります、ボクの思い違いでなければあれは……。
「親父さん、ついに出来たか?」
「おう、連射速度そのままで耐久性も問題なしだ、苦労したぜ」
ご主人さまが手ずから受け取ったそれは完全にライフルですね、本当にありがとうございました。
……なんでボクは心の中でお礼を言ってるんでしょう。
「なんつーものを……」
「お嬢様、何ですかあれ?」
流石にモノホンのライフル機構を持ち込んではいないのでしょうけど。オーバーテクノロジーにも程があります、こっち側に死者を出さないの言葉が信憑性を帯びてきました。
「たぶん、銃っていう武器だと思いますが」
「正確には魔法銃だな、魔法を込めた弾丸を装填する事で魔力を使わずその魔法を連射できる。銃弾自体は普通の魔法使いでも出来るように調整中だが、基本的には俺とリアラさんで作る」
魔法と科学の融合ですね、流出したら世界の戦力バランスが一変しそうです。
「シュウ坊の言ってた"みにがん"? だったか、それも試作品ができてるぜ」
「流石だ親父さん、完璧だ」
うふふ、殺る気マックスですねご主人さまったら。一応獲る予定の国の民ですから必要以上に殺さないようにして欲しいのです。精神衛生的にも。
「"みにがん"ってなんか可愛い名前ですね」
「そうですね、名前は可愛い感じですね、名前は」
地球版のは可愛いだけじゃなくて敵に痛みを感じさせないとっても優しい武器ですよ。
「ちょっと試し撃ちしてくれねぇか?」
「あぁ、任せろ」
微妙にテンションの上がったご主人さまに連れられて工房の裏手に行くと、すでにある程度の準備は終わっているようでした。
用意された鎧型の的に向かってライフルを構えると、バーンと空気を振動させるような炸裂音を立てて光が飛んでいきます。
どうやら引き金を引いた時に込められた炸裂式の魔法が発動し、弾丸の魔法を込めた魔石を発射する仕組みになっているみたいです。
視認出来ない速度で飛んでいった魔石が的に当たると光が弾けて、その場で爆風が巻き起こりました。鎧がひしゃげて飛んでいき、地面にクレーターが出来上がります。火が出てないので風の魔法ですよね多分。
「精度は問題ないが、少し威力が高すぎるか」
「みたいだな、調整しておこう」
呆気にとられているユリアをよそに、今度は台座に乗せられた"鉄の筒を円状に配置した巨大な砲台"が出てきました。
言ってしまえばガトリング砲らしきものですね。セットされた砲台が適当な大岩の方へと向きます。
「全員音に気を付けろ!」
離れて耳をふさいだところで砲身に魔法陣が浮かび、カラカラと音を立てて回転しはじめました。同時に3層の魔法陣がターゲットサイトのように前へ伸びると、連続した炸裂音を響かせながら火を吹きます。
耳をふさいでいても鼓膜が破れそうなんですけど。
雨あられと吐き出された魔法弾は、岩を粉微塵に砕きながら背後にある木々まで吹き飛ばし、地面を掘り返し土を巻き上げます。
射撃が止まってしばらく、ようやく土埃が晴れた後にはまるで竜巻でも通ったかのような痕が数百メートルに渡って残されていました。
その場に集まったドワーフや獣人達が唖然と口を開いたまま固まっています。誰も喋りません。
「ご主人さま、これは一体何と戦うことを想定して作ったんですか?」
何だか気まずそうな顔をしているご主人さまに問いかけると、頬をかきながらバツが悪そうに答えました。
「重鎧を来た……人間?」
「間違いなくミンチよりひどいことになるのですよ!!」
痛みを感じないとかそんなレベルじゃありません、粉微塵です!
「いくら何でも虐殺はドン引きですよ」
「俺もそう思う」
示威行為にも限度ってあると思います。
これは実質侵略者の撃退ではありますが形式上は"王位争奪戦の助っ人"なのです。一隊まとめて鎧ごとミンチは流石にやりすぎです、後を引きすぎます。
肩を落として自重すると言ったご主人さまと共に工房を出た頃、遠い目をしていたユリアがぽつりと「……全然可愛くありませんでした」とつぶやいていました。
他にも魔法剣やら何やら、ご主人さまと工房の職人たちがノリにのって作りまくっていたようです。
やりすぎの方を心配しなきゃいけないみたいですねこれ。
◇
……それからも人が増え着々と準備は進み、やがて雪が溶けて冬が終わりを告げる時がやってきます。フォーリッツ王国が本格的に動き始めたのは、丁度その頃でした。
◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
【EXP】
――時間経過による経験値を加算
◆【ソラ Lv.88】+30
◆【ルル Lv.36】+5
◆【ユリア Lv.35】+40
◇―
================
ソラLv.92[927]→Lv.95[957] <<LevelUp!!
ルルLv.36[366]→Lv.37[371] <<LevelUp!!
ユリアLv.35[351]→Lv.39[391] <<LevelUp!!
【RECORD】
[MAX COMBO]>>40
[MAX BATTLE]>>40
【PARTY-1(Main)】
[シュウヤ][Lv105]HP2700/2700 MP3560/3560[正常]
[ソラ][Lv95]HP65/65 MP1655/1655[正常]
[ルル][Lv37]HP800/835 MP40/40[正常]
[ユリア][Lv39]HP2040/2040 MP90/90[正常]
[フェレ][Lv32]HP292/292 MP1050/1050[正常]
【PARTY-2(Sub)】
[マコト][Lv75]HP4500/4500 MP160/160[正常]
[クリス][Lv15]HP210/210 MP20/20[正常]
【Party-3(Sub)】
[リアラ][Lv130]HP850/850 MP3200/3200
================
【一言】
「敵が可哀想です」
「ほんとシュウヤさまが味方で良かった」
「自信喪失してたんですけど、男性を見る目に少しだけ自信がもてそうです」
「「(言葉が重い)」」
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