第48話 歴史に残る一歩


 まだ何か喚いていた糸目騎士を爆発魔法で吹き飛ばし、意識のハッキリしている騎士達を恐怖で震え上がらせつつも心を折ったご主人さま。


 静かになったところで襲撃者を里へと連行する事になりました。


 獣人の戦闘部隊はリアラさんに同行していたようで、今は100人あまりの敵を拘束して連行しているというお話でした。


 人口密度が一気に増えすぎなのです、取りあえずリアラさんとご主人さまで雪と土を固めた氷の牢屋を作ることとなり、代表らしい3人以外はそこへ収納されていきました。凍死していないことを祈ります。


 それから暫く、長の家ではリアラさんと獣人の男衆の代表、ボクとご主人さま。問題の青年と兎耳の女性と、それに付き添っていた避難民の虎耳の女性。


 意識を取り戻してから糸目が最初誰か解らなくて、正体を知ってからはドン引きしておとなしくしている縦ロールと、物理的に大人しくさせられている原型を留めてない糸目。そして……。


「何でお前が交じるの、出てくの」

「お前に采配権はないのです、黙っておとなしくしてるのですよ!」


 あいも変わらず生意気な幼女。いい加減立場をわきまえるべきなのです!


「ふたりともちょっと静かにな」


 ちょっとご主人さま、何でボクまで含めるのですか、これは明らかにあっちが悪いのです。


「黙るのはあいつなのです!」

「そのエルフを黙らせるの!」


 言い募るとご主人さまは呆れたため息を吐きながら、すっと耳元に口を寄せてささやいてきました。


「静かにしないとこの場で剥いて食っちまうぞ」

「っ!!」


 慌てて口を抑えて一歩下がります。何故か幼女も青ざめさせながら「やばいの、あいつマジなの、マジもんなの」と震えています。


「さて、うるさいのが静かになった所で、話を始めよう」


 呆れたような顔をしていたリアラさんが軽く手を叩くと、強張った顔をしている青年に視線を向けました。


「話してもらえるかの?」

「…………」


 眉を顰めた青年を、兎耳と虎耳が心配そうに見つめています。


「……はい」


 そして彼は重々しく口を開くと、昔話を始めました。



 切っ掛けは彼が国王としての教育を受ける傍らで、同じ人の形をしているのに奴隷として酷く扱われている亜人達の姿に疑問を抱き始めた事だったそうです。


 国内の貴族の多くは人間至上主義、奴隷や亜人を物として扱うことに抵抗を持たない人ばかり。


 だけど彼からすれば、姿が少し違うだけで同じ心を持った人間としか思えませんでした。


 ある日それを父に話すと、彼は重々しく同意しながらこう言ったそうです。「間違っていると思うならば、王として国を変えて見せるが良い」と、かくいう先王も息子と同じ疑問を抱いていた人物の働きかけにより、考えを改めたひとりだったそうです。


 しかし王とはいえ国を好き勝手にはできません。貴族たちの反発を抑えながら、人に飼われるという条件を付けて亜人たちの権利や生命だけでも守ろうとした結果が今の奴隷制度なのだとか。


 現状では動物扱いなことには変わりがないと、彼は亜人を国民として迎え入れるために密かに仲間を集めて動き始めたのです。でもそれに勘付いた貴族たちが王太子の思想を危険視して、弟を持ち上げだしました。


 もともと刹那的な快楽に流れる傾向のあった弟は、自分の欲望を満たせる環境になると唆されてあっさりと彼等と迎合。父と兄である彼に弱い毒を少しずつ与えて、病になったと吹聴ししました。


 しかしそれに気付いたのは王城で奴隷として働いていた獣人の侍女たち、つまりそこの兎耳と虎耳のふたり。


 自分たちにも優しく、「いつか君たちや君たちの子供が安心して暮らせる国を作りたい」と語って、実際に動く彼に絆されていた彼女たちはそれを彼に伝えたのですが、父王はもう手遅れになっていました。


 暫くして、兄王子を弱らせることができないことに業を煮やした弟はついに実力行使。


 父の死の直前に手勢を率いて兄を急襲したのですが、兄を慕う騎士や侍女たちの手によって逃され、それからずっと、彼女たちと共に亜人の集落で息を潜めながら、反乱の機会を伺っていたようです。


 長い話を終えた彼は、静かに姿勢を正しました。


「私達のせいで皆さんに大変なご迷惑をお掛けしたこと、申し訳ないと思っています」


 今まで自分の犠牲になって死んだ人たちのことを考えているのか、歯を食いしばりながら頭を下げる彼の閉じられた瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちます。


「ですが、死ぬわけには行かなかったのです。私が捕まれば、助けてくれた者達の、死んだ者達の生命が無駄になってしまう!」


 ともすれば、とても傲慢な考え方です。リアラさんが能面のような冷たい表情を貼り付けながら青年を見ます。


「今回の件、一歩間違えば里の者が皆死んでおった。今の、敗北者のおぬしにそれだけの価値があるのか。われら全員の命と引換えにしなければならぬほどの価値が」


 冷たい物言いに彼の従者であるふたりの女性がリアラさんを非難するように見ますが、青年は決意したようにまっすぐに見つめ返しました。


「ありません、だからこそ死ぬわけには行かなかったんです。ここで死んでしまえば、私は本当に無価値な人間で終わってしまう」

「実に王族らしい傲慢さじゃな。今まで何も知らずに巻き込まれ、家族や友を失った者達がおぬしを許すとでも?」

「許されるはずもなければ、許しを請うつもりもありません。たとえ後の歴史に大罪人と記されようとも、成し遂げたいと決めたのです」


 かなりキツめの詰問でした。それでも青年はリアラさんから目をそらそうとはしません。詭弁でも虚勢でもここで引いてはいけないことを知っているのでしょう。


「…………ならば、やってみるが良い。成し遂げたのならば多少は彼等の慰めにもなろう」


 リアラさんは納得したと言うより、確かめ終わったという様子で気配をほどきました。緊迫した空気が終わり、誰かが息を漏らす音が聞こえます。


「さて、そこな騎士よ。今回の目的はこの男の殺害、国は居場所を把握してるということでよいのか?」

「……えぇ、そうですわ。国王の勅命で私達3人が部隊を率いて、少数精鋭で全てを終わらせるつもりでした」

「エルフが居る事は可能性として考えてはいたけど、まさか現実に同じ地点にいるなんて思ってなかったの」


 偶然というのは恐ろしいものですね……。それにしても把握されているのは不味いですね、彼等を全員殺してしまえばここに何かあると知らせるようなものです、そうなれば今度は正式に大軍を送り込んでくるでしょう。


 ご主人さまとリアラさんなら軍を相手にしても何とか出来るでしょうが、ボクたちは無理ですし、チート級の戦力はこちらは3人しかいません。


 それぞれ身体がひとつしかない以上、分散して責められたら対応できなくなってしまいます。


「ふむ、どうするかの、シュウヤ」

「丁度いい機会だと思います、ここに国を作ることを大々的に宣言しましょう」

「ほう?」


 話を向けられたご主人さまが、気負った様子もなく言いました。


 ご主人さまが語った計画はこうです、まずは建国宣言と同時に王太子の亡命を受け入れ、彼を擁立することで政治的な発言力を獲得します。それから堂々とあちらの王位を奪い取り、フォーリッツの王としてこの国の後ろ盾になってもらうというもの。


 このご時世、大事なのは後ろ盾という名の権力です。勝手に国を名乗っているなら馬鹿にされるだけですが、それなりに歴史のある国の王が"国として認める"発言をすれば、諸外国もきちんと対応せざるを得なくなりますから。


「だから、お前たちには証人として生きて帰って貰う」


 そう考えれば、一度捕虜にした彼等を殺してしまうと、色々面倒な事態が起こる可能性もあります。兄側につくか迷っている人間の心象も大事ですからね、今後も国を治めてもらうことを考えれば極力悪いイメージのつく行動は取らないほうが良いでしょう。


「甘いですわね、敵を生かして返すなんて」


 とはいえ、鼻で笑った縦ロールのような捉え方をされてなめられる可能性もあるにはあるのですが。


「ほぉ、じゃあまた俺と戦うか?」


 威圧感を出したご主人さま、縦ロールは一瞬答えに詰まると隣で見る影もなく小刻みに震えている元イケメンを見たあと、少し青ざめて小さく首を横に振りました。


 やっぱり彼はこの中で一番強かったのでしょうね、それがこのザマではそりゃ戦意も喪失するでしょうよ。


「それは……」

「正直、この程度なら何人来ても問題にはならないんだよ」


 きっぱり言うご主人さまどころか、それに準ずる戦力である葛西さんに負かされた縦ロールもしょんぼりした様子でうつむきました。


 そういえば話を勝手に進めてしまいましたが、本人たちはどうなんでしょうか。


「いまさらですが、王子さま的にはご主人さまの提案に乗っていいのですか?」

「え、あぁ、驚きはしたけれど、そこのストルムは王国でも最強の名を冠する騎士の一角なんだ。それを一方的に倒せる彼の協力は願ってもない」


 置いてけぼりにされて少し面食らってましたが、スムーズに答えたあたり異論はないようです。ご主人さまの黒い表情からして拒否権を与えるつもりはなかったのでしょうけどね。何だかんだで巻き込まれた事は怒ってるようですし。


「そういう訳だ、国に帰って王に伝えろ……その玉座をアラキス殿下が貰い受けると」


 誰かと思えばアラキスって名前だったんですね……。縦ロールが神妙な顔で頷いたことで話は終わりました。


 後で聞いたところ獣人達は前々からご主人さまと葛西さんと訓練している際にある程度の話、彼等が安心して暮らせる国を作ろうとしている事、その為に認めない者達との戦いが起きる可能性がある事などを知らされ、同時に一緒に戦ってくれる仲間になってほしいとお願いされていたようです。


 今回の件もある程度は納得済みだったので特に反対意見は出なかったようでした。むしろあのクソ王を正々堂々と叩き潰せるチャンスとばかりに、フォーリッツで酷い目にあった人たちが黒いオーラを噴出させていました。怖い。


 取り敢えず殺気立つ人達が怖いのでさっさと家に戻り、ユリアに髪の毛を整えてもらうことにします。まぁ鬱陶しくはあったのでばっさり行ってもらえて楽になりました。


 ……なのに、ちょっと悲しいのは何ででしょうね。



 翌日、凍死寸前で凍えている騎士たちを連れて森の外まで行くと、順番に馬車に詰め込んでから動けるものに御者をさせて国へと追い返す事になりました。


「はぁ……戦争になりますわね、出来ればもう貴方たちと戦いたくないですわ」


 馬車の前、拘束を解かれた縦ロールが苦笑しています。彼女は元からあんまり偏見はなく、そもそも今回の任務は乗り気ではなかったようで、こちらが勝った後の実家の売り込みをアラキスさんにしているレベルでした。騎士のくせに姑息なのです。


 因みに糸目さんは自分の荷物のコートやら暖房道具を凍える部下たちに奪われて簀巻き状態のまま荷物置場に放り投げられてました。ひょっとして仲間からも嫌われてますこの人?


「戦場で会った時がお前の命運の尽きる時なの……絶対に八つ裂きにしてやるの……」


 そしてこちらでは口周りに泥棒ヒゲ、眉毛は二倍の太さに、額に"ロリコン王のばーか"と書かれたおもしろフェイスな負け犬ようじょが何やらキャンキャンと吠えていました。


 ご主人さま謹製の魔法のペンなので城に帰り着いて馬鹿王に見られるまでは絶対に消えないのです。


「ふふん、そういうセリフはご主人さまを倒してから言うのですよ!」


 ご主人さまに抱き上げられながら、ちっこい身体を見下ろしてドヤ顔で言ってやります。全く惨めな姿なのですよー。ご主人さまの力はすなわちボクの力、ボクを倒したいのならご主人さまを倒してからにするのです。


「虎の威を借りすぎだろう……」

「代金は払ってますから!!」


 何しろお仕置き分と返済分と虎の威分は夜に支払い済みですからね、堂々としますよそれは。悔し涙を目尻に浮かべながら馬車に乗り込んでいった負け犬ようじょが、最後にこちらを振り向いて叫びました。


「この変態えろふ!! ばーかばーか!!」

「見て下さいご主人さま、あれが負け犬ですよ! きゃんきゃん吠えてかわいいですねぇー!」





◇◆ADVENTURE RESULT◆◇

【EXP】

BATTLE TOTAL 40 << New Record!!

MAX Combo 40 << New Record!!

◆【ソラ Lv.88】+40

◆【ルル Lv.36】

◆【ユリア Lv.35】

◇―

================

ソラLv.88[887]→Lv.92[927] <<LevelUp!!

ルルLv.36[366]

ユリアLv.35[351]

【RECORD】

[MAX COMBO]>>40

[MAX BATTLE]>>40

【PARTY-1(Main)】

[シュウヤ][Lv95]HP2100/2100 MP3460/3460[正常]

[ソラ][Lv92]HP12/63 MP1253/1253[絶望]

[ルル][Lv36]HP320/835 MP40/40[治療中]

[ユリア][Lv34]HP1840/1840 MP89/89[正常]

[フェレ][Lv30]HP282/282 MP1030/1030[正常]

【PARTY-2(Sub)】

[マコト][Lv66]HP3450/3450 MP150/150[正常]

[クリス][Lv13]HP200/200 MP20/20[正常]

================

【一言】

「さて、終わったしお仕置きの続きな」

「」

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