第31話 楽園を探して


 ボク達の新天地を探す長く苦しい旅がはじまり……ませんでした。ご主人さま謹製のゴーレム馬車、いつの間にか作っていたこれは超高性能で、旅路は悠々自適なものとなりましたから。


 葛西さんも同行してたので変態ますたーも大人しかったですし、かつてない気楽さです。


 時折我慢しきれなかったのか、野営の最中に何人か連れ出される事はありましたけどね。時折現れる、王国の兵士らしき人たちが派手にふっとばされる以外の波乱はなく、暫くして目的地に辿り着きました。


 それにしても人が花火のように空中へと打ち上げられる様はファンタジーでしたね。そこまでやってひとりも死者を出してないあたりがさすがのチート野郎なのです。


 殺さないのは温情と言うより、もっとえぐい理由です。中途半端に文明的なこの国では死人に口なしですが、生きていれば一応対処しないといけません。治せる怪我なら尚更です。


 失敗したなら殺しちゃえーなんてやってたら、誰も言うこと聞かなくなります。国王の布告を本気で信じてる兵士なんて、少なくとも挑んできた人の中にはいませんでした。


 変に恨みを買ってこっちに憎悪を燃やされるよりは、怪我人抱えさせてあっちの懐にダメージを与える方が良いとご主人さまが言ってました。……色々理由はつけてますが、ご主人さまだって好き好んでジェノサイドしたくないのですね。


 血に餓えてるよりはよっぽどマシです。


 ……そんなこんなで一ヶ月ほどの旅を経て辿り着いた未開の地、そこは盆地の中に出来た鬱蒼とした森の中。まさしく陸の孤島と呼ぶべき場所でした。


「なんか毒蛇の待ち受ける謎の洞窟があったり、ピカピカの白骨が転がってたりしそうな地形なのですよ、隊長」

「誰が隊長だ。というかよく知ってるなそれ」


 親が録画してたのですよ。


 とにもかくにも秘境。ご主人さまに背負われながら森のなかを進みます、甘えてる訳じゃないのです。モンスターの多い地域が一週間近く続いて気を抜けず、到着前夜に色々限界を超えたご主人さまに歩けなくされただけなのです。


 ご主人さまに責任取って運搬してもらわないと困ります。


 ユリアとルル? 実戦訓練ということでむしろ魔物相手に嬉々として戦ってます。


 ……戦力は十分なので、たまに出てくる魔物をサブメンバーがどうにかしつつ探索は進みます。時折ご主人さまが上位の魔物を蹴散らしてますけど、ボクを背負いながら問題なく戦えるとか、人外っぷりが上がってきてますね。


 森を突き進んでしばらく、大きめの湖が見つかりました。うちには肉食魚が居座る予定なので、出来れば安全な湖と隣接した場所に設営したいものです。


 魔法で水中の探索をはじめたご主人さまを見守りながら、残りの人員で野営の準備です。足腰に力の入らないボクは、大人しく座って眺めているだけなのですがね。


「ソラ、おみずいる?」

「けっこうです」


 …………陸上では同じく役に立たない肉食魚に抱きつかれながら。



「ご主人さまー、どうですかー?」


 一緒に歌おうとニコニコする変態海豚イルカの額を鷲掴みにして遠ざけながら、片膝をついて水中に手を入れているご主人さまに声をかけます。ちらりとこちらを見て、何を思ったのかすぐに切り上げて戻ってきました。


「怪しい魚影はないし、別の場所に繋がってるような大きな穴は無い、水質も良好、濾過すれば飲むことも出来るだろうな」


 戻ってきたご主人さまの説明を聞く限りでは、立地条件としては悪く無いみたいです。ある程度の範囲に魔物除けの結界を張って、建物の中に水を引き込む形にすれば安全も確保できるでしょう。


「この辺をキャンプ地にして周囲を本格的に探索してみるか……、まぁそれは置いとくとして、これは俺のだからな?」

「あー!」


 肉食魚を素足で押して距離を開けていたボクを、ご主人さまが背後から抱き上げます。やっぱりボクはモノ扱いなんですね……まぁいいです。


 役に立つ猫や牛と違って、ボクの仕事はご主人さま用の抱き枕です。けっ。


 何だかんだで狩りとか、獲物捌くのとか、料理とか、色々仕事があるユリアとルルに代わって、ご主人さまを慰めるためだけの存在ですから。


「……ソラは何で黄昏てるんだ?」

「生きる意味について考えてました」


 ボクはこのまま一生、ご主人さまのロリエルフかっこ夜用かっことじ……なのでしょうか。将来のことを考えると涙も枯れそうです。


「哲学的だな」


 人間は考える葦といいます、エルフは何なんでしょうね。というかボクは何なんでしょうね、考えるこんにゃく? 超ヘルシーですね。


「……鉄?」


 おとぼけな肉食魚をスルーしながらご主人さまの顔を見上げます、目があった瞬間近づいてくる顔、慌てて自分の口元を抑えて拒否の意を伝えます。


「景観もいいですし、出来れば湖の畔のお家がいい,ですっ、ねっ!!」

「そうだな、ここの安全が確保できたら家を建てようか」


 拒否の意が伝わってなかったみたいですね、両手首を掴まれてこじ開けられそうになってるんですけど。いやほんとに勘弁してほしいんですけど、ほら葛西さんとか簡易コテージを作りながらちらちら見てますよ。


 彼も若い男なんですから! 馬車の中で夜中にもぞもぞしてるのを女性陣で相談して一切気づかない振りをしてあげようとか! 決めた程度には若い男なんですから! 気を使ってあげてくださいよ!


「うぅ、いいなぁ、わたしもソラとうたいたい……」

「シュウヤさまー、ちちくりあってないでちょっとこっち手伝って下さい!」

「旦那様、ちょっとお嬢様をお借りしたいのでよろしいですか?」


 あと少しで食われるといったところで、うちの女性メンバーからの助けが間に合いました。肉食魚は本気でちょっと黙っててください。というかなんで歌をそんな感じで扱ってるんですか。


「チッ……仕方ない、後でな」


 露骨に態度悪くなっても無駄なのですよ、ユリアに抱きかかえられて木陰へと連れて行かれます。我が家の牛娘はボクを適当な岩に座らせると、ポケットから小さな壺を取り出しました。てっきり搾乳の事かと思ったのですが、どうやら違ったみたいです。


 開かれた壺の中身は白いクリーム……軟膏っぽいですが何でしょうか。


「デーナで旅の薬屋さんから買ったすごく効く軟膏です。敏感な場所の腫れや痛みを抑える効果があります。結構無茶されたみたいですから、辛いでしょう?」

「……ありがとうございます」


 あぁ、なるほど。確かにちょっとヒリヒリしてるので助かると言えば助かりますね、有難く頂戴しましょう。ところが壺を受け取ろうと伸ばした手にはユリアは特に反応しませんでした。


「あー……最初はちょっと沁みるので、私が塗ってあげますから、あんよ開いて下さいね」


 何ですか"あんよ"って、いくら何でもそこまで小さくありません。誰が見ても二桁は行ってるはずです。だから薬を塗るくらい一人で出来るのですよ、だいたい沁みるって言ったって……そのくらいでぎゃーぎゃー騒ぐほど子供じゃないのです!


 だからそんな押さえつけて無理やり塗ろうとしなくても、薬さえ貰えればじぶんで……


「ぎゃあああああああ!?」

「はーい、すぐ治りますからねー」


 痛い痛い沁みる沁みるめっっっっっっちゃ沁みる!?



「予想のせんばいくらいでした」

「でもすぐに治まったでしょう?」


 ユリアにお姫様抱っこされながら戻ると、簡易テント群と魔物除けの結界が完成してました。


 ちなみに染みたのは最初に塗った時だけで、すぐに痛みは治まり今はヒリヒリする感じも消えています。ほんとに良く効いたのです。


 この抱っこは痛みで疲れたのと、腰が抜けたのまでは戻らなかっただけです。


「取り敢えず俺とマコトで探索に向かうから、お前たちはここで食事の準備を頼む……ソラは大丈夫か?」

「おおよそてめぇが原因なのですよ、変態野郎まいますたー

「お、おう……」


 そもそもてめぇが旅先でやんちゃしたせいなのですよ。お月さまが見てるのですとか、虫さんたちに聞かれちゃうのですとか、意味わかんねーこと喋らせやがって。そのまじかるなんとかを垢擦りで削ったあとあの薬塗り込んでやりましょうか。


「がるるるる……」

「お嬢様は休んでいて下さいね、旦那様も今日はダメですよ?」

「……流石にわかった」


 ほんとですかね……? そのままユリアに連れて行かれたテントの中には既に絨毯が敷かれ、簡易ながらも柔らかいベッドが置かれてました。


 旅の途中で何度も使われたものです、持ち運びできる割に結構寝心地良いんですよね。ユリアはボクをベッドにそっと寝かせると、シーツをかけてくれました。


「じゃあ俺は行ってくるから。ユリア、ソラを頼む」

「いってらっしゃいなのです」

「お任せ下さい」


 ご主人さまを見送りながら、柔らかいクッションに身体を沈めます。枕元に置かれている枕を抱き寄せると、ようやく一息つけました。動けない代わりに一日ごろごろしていられるのはラッキーですね。どうせ落ち着いたら寝かせて貰えない日々でしょうし、今くらいはゆっくりさせてもらうのです。


「さて、私は外でお洗濯してますので、何かあったら呼んでくださいね」

「解りました、お願いするのです」


 ユリアも仕事をするために出て行ってしまいました。馬車の旅をしながらご主人さまの相手をするのはかなり身体に堪えました、明日から頑張ると言い聞かせて、目を閉じます。


 平気なつもりでも結構疲れていたのか、すぐに意識が沈んでいきました。


 どのくらい続いたか解らない夢現(ゆめうつつ)の時間の中、奇妙な感触に目を開けます。隣を見ると何故か同じベッドの中で桃色の髪の肉食魚がボクに抱きついて寝息を立てていました。


 歳相応に無邪気な寝顔は誰が見ても可愛らしいと思えるでしょう。全くいつの間に忍び込んだのですかね。


 思わず口元を緩めて、小さく息を吸い込みます。


「ご主人さまぁぁぁ! 魔物除けが機能してませんー!!」





◇◆ADVENTURE RESULT◆◇

【EXP】

NO BATTLE

――時間経過分の経験値を加算

◆【ソラ Lv.55】+200

◆【ルル Lv.22】+80

◆【ユリア Lv.20】+80

◇―

================

ソラLv.55[553]→Lv.75[753]

ルルLv.22[220]→Lv.30[300]

ユリアLv.20[202]→Lv28[282]

【RECORD】

[MAX COMBO]>>33

[MAX BATTLE]>>33

【PARTY-1(Main)】

[シュウヤ][Lv77]HP1432/1432 MP2530/2530[正常]

[ソラ][Lv75]HP15/60 MP733/733[疲労]

[ルル][Lv30]HP735/735 MP36/36[正常]

[ユリア][Lv28]HP1540/1540 MP88/88[正常]

【PARTY-2(Sub)】

[フェレ][Lv18]HP182/182 MP530/530[正常]

【PARTY-3(Sub)】

[マコト][Lv30]HP850/850 MP120/120[正常]

================

【Comment】

「水棲妖怪怖いのです……」

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