第13話 穏やかな日々

 ユリアがうちに来て早くも一週間が経ちました。


 初日はボク弄りで調子に乗る二人を見て戸惑っていた彼女でしたが、五日も経った頃には慣れてきたのか緊張もなくなっていましたね。不服です。


 ……ただ翌日の昼に真っ赤な顔でそっとミルクグラタン(彼女の故郷では女性が妊娠した時のお祝いに出すそうです)を出してきた恨みは忘れませんが。ええ忘れません絶対に。


 彼女自身もノリについていけるか心配してたみたいですが……そこら辺はあれ、ご主人さま最強の力のひとつであるお金というか収入というかマネーというかマニーというか。


 それでゴリ押ししました。


「明日のご飯の心配をしなくていいのがこんなに素晴らしいことだったなんて」


 世の中には直接お金で買えないものも沢山あります。だけど大概の問題を解決するための手段なら金で買えるのです。


 感動した声色で満杯の貯蔵庫を覗き、うっとりしている彼女の後ろ姿。


 彼女の苦労を思うと涙を堪え切れなかったです。信頼度を得る効果は抜群でした。明日の暮らしの心配がないってだけで心のゆとりは大分違うのですよ。


 そのおかげか、まだぎこちなくはありますが笑顔もちょっとずつ増えて来ました。


 やっぱり可愛い女の子は笑っているべきなのです、あんな馬鹿男のせいで人生台無しにされるのは間違っているのです。


 そうそう、意外なことに彼女はルルと相性が良かったようです。良くファッションや食べ物の話題で盛り上がってます。


 今までは生活するために忙しすぎてそっち方面にリソースを割けなかったみたいで、凄く興味津々で話してるのを見かけました。


 洋服はおろか化粧品や身繕いのためのお金まで削っていたみたいです。つらいですね。


 ご主人さまからは『可愛い子は綺麗に着飾るべき』なーんて名目で、服飾費を結構な額貰っているのです。程よい寵愛を受けつつ裕福な暮らしが出来る。そんなご主人さまのところはふたりにとって凄く居心地が良いみたいですね。


 男の人とそういう関係になる葛藤は……少なくともルルには見受けられません。好んでいるというより割り切っているという方が近いみたいですけど。


 でも嫌いではないそうです。やっぱエロ猫ですよあいつ。


 ……あれ、よく考えたらこの暮らしで苦労してるのはボクだけのような……。


 い、いえ、いいんです。ボクは男の子ですからね、今はちんちくりんで何も持っていない奴隷かちくでも、日本男児の意地があるのです。可愛い女の子たちのためなら、一肌くらい喜んで脱ぎましょう。


「で、なんで物理的に脱がしてるんですかねこの人は?」

「なんとなく?」


 テーブルを囲んでほのぼのしている二人を眺めているボク、その隣に座っていたご主人さまがするりとブラウスのボタンを外して脱がそうとしてきやがりました。


 借金の負い目で微妙に逃げにくいので、せめて夜まで我慢して欲しいのですがね。


「あ、あの……外しましょうか?」

「おねがいですここにいてください、部屋に人気がなくなるほうがヤバイです」


 気を使おうとするユリアを引き止めます。


 ご主人さまは微妙に空気が読めるのです。まだ手を付けてないユリアの前では無茶はしません。


 ルルはだめです、嬉々として巻き込んできます。むしろ巻き込まれに来ます。


 最初のビクビクはどこへいったのか、あーふたりだけでずるいですよーなんて言いながら乱入してきます。無駄なニューチャレンジャー精神を発揮するのです。


 だからユリアが視界にいてくれる限りイタズラ以上にはならないのですよ。


「あぁ、気にするな、こっちが移動するから」

「しませんよ?」


 ほんとに、だから抱き上げて寝室へ連れて行こうとするのはやめてください、ストップ! フリーズ! ハウス! あれなんか違う。


 というか今日に限って何ですか、発情期ですか!?


「というわけで移動しないのでおろしてください。しませんからね、絶対しませんからね!? しないって言ってるでしょうがぁぁ!」」

「え、えっと……頑張ってくださいお嬢様」

「あっ、せんぱーい!」


 手をふるユリア。同時に騒動を聞きつけたのか庭で土いじりをしていたルルの声が響きます。


「わたしも後でいきますねー!」


 来なくていいのですよ。


 っていうかですね、最近ボクの扱いが雑になってませんかみんな……。



「ひやぁぁ!?」


 昼を過ぎた頃、ベッドの中でうとうとしていると我が家に甲高い悲鳴が響き渡りました。


 びっくりしてしまい、シーツを跳ねあげて起き上がります。ご主人さまは庭の手入れをしに出て行ったはずなのですが、まさかユリアを襲いましたか!?


「何事ですか!?」


 幸いキャミソールだけは着させて行ってくれたので即座に飛び出せます。気が利くのか利かないのかどっちなんですかねあの野郎。


 走ってリビングに行くとユリアが尻餅をついていて、胸元が何かの液体でびっしょりと濡れているようでした。なんだかミルクのような匂いがするのですが。


「あ、お嬢様……大丈夫です。初めてだったのでびっくりしちゃいまして……最近お乳が張っているとは思ってたのですが」


 と苦笑して立ち上がったユリアがタオルで胸元を拭いながら気になることを言います。その胸を濡らしてる液体ってまさか……。


「だ、誰の子ですか!? まさかあのクズ男の!?」

「え、いや……違いますよ!? それにアイツは私には結局一度も手を出して来ませんでしたからね、外の女の子には頻繁にちょっかいかけてた癖に……」


 動揺した結果とはいえなんか地雷を踏み抜いたみたいです、黒いオーラが立ち上ります。


 鬱憤溜まってますねぇ、恋する乙女補正が抜けた影響でしょうか。可愛さ余って憎さ百倍にでもなりましたかねこれは。


「こほん……今にして思えば、あんな最低男と取り返しの付かないことにならなくてよかったと思ってます」


 未練が無いわけではないでしょうけど、前向きになろうと努力してる最中なのでしょうね。良い傾向なのです。このまま逞しく強く生きていくのですよユリア……で、どういう状況なのですかこれは。


「ユリアちゃーん、着替え持ってきたよー。これで立派な成人だね、おめでとう」


 ユリアの着替えをとりに行っていた様子のルルが戻ってくると、気になる事を言いました。成人とは一体?


「えっと、お嬢様、ホルスタウロスの体質って知ってます?」

「存じていませんね」


 そういえば何か特殊体質で大人気みたいな話は聞きましたけど、それと関係があるのでしょうか、あるのでしょうねこの流れからして。


「私達の一族の女性はですね、成人すると妊娠してなくても栄養価の高い母乳が出るようになるんですよ、そのせいで人間から狙われるようになって……人の来ない場所へ移り住んだらしいです。私の両親は変わり者で、故郷の村では普通の村人に混じって生活してたんですけどね」


 妊娠してなくても母乳が出るとか……なんというトンデモ種族なのでしょうか。そりゃ男達も群がるはずですね、恐ろしい力です。


「それにしても、いくつで成人なのですか? てっきりユリアはとっくに成人してるものだと思ってたのです」

「あ、その、成人自体は15歳で、私は17なんですが……、何というか、条件があるというか、えっと……」


 あれ、何で急に顔を真っ赤にしてもじもじしはじめたのでしょうか。


「精神的に女として成熟……発情を覚えること、だっけ? シュウヤ様、防音魔法かけ忘れてたみたいで、ここまでせんぱいの声聞こえててさ、ユリアちゃんずっともじもじしてたもんね。そのせいじゃないかなぁ」

「「――――」」


 一気に顔が熱くなりました、ユリアも顔がゆでダコみたいですね牛なのに。


 で、あの野郎わざとじゃないでしょうね、。わざとだったら噛みちぎってやるのですよ。どこをとは言いません、全てをです。


 別に変な声なんてちっとも出してませんけどね、えぇ全く全然出してなかったはずなんですけどね。きっと得意の魔法でそんな声を合成して流したのでしょう。卑劣な男です。


「何の騒ぎだ?」


 土の付着した野良着姿のご主人さまがリビングに入ってきたのはその時でした。顔を真赤にしているボクとユリアを見て首を傾げてます、のんきな態度がむかつくのです。


「ユリアちゃんが成人したんですよ、後でみんなでお祝いしましょう! シュウヤさまお願いします」

「おぉ、めでたいな、じゃあ今夜は何か美味いものでも買って来よう」


 赤飯代わりですか、まぁめでたいのは確かです。でもご主人さまは許しません!


「それはいいんですけど、ご主人さま、防音魔法かけ忘れてたってどういうことですか!?」


 いや別に変な声なんてだしてないんで別にかけてなくても問題ないんですけどね、でもプライバシー的な問題でそういうのは気にするべきだと思うのです。


「…………あ」


 あ、じゃねーですこのひとでなし! 純情なユリアが変な影響受けたらどうするのですか、ご主人さまのせいで母乳まで出るようになったんですよ、なんてことをしてくれるんです!


「……天誅です!」


 タッパが足りないので飛び上がりながら顎を狙って回し蹴りを放ちます。


「おっと!? あー落ち着け、俺が悪かったから」


 割と本気で蹴ったのにあっさり避けられて腑に落ちないのです。家の中限定で色々運動して鍛えているはずなのに。所詮付け焼刃ということなのでしょうか。


「せんぱいー、家の中であんまり暴れちゃ駄目ですよー?」


 最近どんどんマイペース度が上がってますね後輩……一度躾しなきゃダメなんでしょうかこの駄猫さんは……。


「ユリアからも言ってやってください! 今後おなじ事が続いたらお互い嫌な思いをすることになってしまいますよ!?」


 せめて味方を得ようとユリアの方を向いてみると、なぜか顔を真赤にしてボクの足元を見て固まっていました。


 このリアクションは予想外ですね、いったい何があったのでしょうか。ボクも視線を自分の下半身へと移しました。


「あーほら、暴れるから……カーペットの染みになったらどうするんですか」


 ルルがぶつくさ言いながらタオルで人の足元を拭いてます。ユリアは顔を真赤にした顔を伏せてしまいました。


 ボクも顔を伏せてそのまま地面に埋まりたくなりました。


 取り敢えず、ボクが取るべき次の行動は一つでしょう。洗い場へ猛ダッシュです。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!! ご主人さまのばかぁぁぁぁぁぁ!!」

「今のは俺が悪いのか……?」


 他に誰が悪いっていうんですか!!






◇◆ADVENTURE RESULT◆◇

【EXP】

MAX Combo 3

BATTLE TOTAL 3

◆【ソラ Lv.14】+3

◆【ルル Lv.6】+1

◆【ユリア Lv.0】

◇―

================

ソラLv.14[143]→[146]

ルルLv.6[62]→[63]

ユリアLv.0[0]

【RECORD】

[MAX COMBO]>>21

[MAX HIT]>>21

【PARTY】

[シュウヤ][Lv32]HP440/440 MP720/720[正常]

[ソラ][Lv14]HP30/30 MP110/110[動揺]

[ルル][Lv6]HP352/352 MP24/24[正常]

[ユリア][Lv.0]HP400/400 MP32/32[正常]

================

【Comment】

「……もうお婿にいけないのです」

「今更過ぎませんか、せんぱい」

「(……婿?)」

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