第2話 秘密の部屋

 ボクがご主人さまに自分の立場を理解らせられてしばらく、ご主人さまは今のところは順調にテンプレイベントを消化しているようです。


 先日身分証を作るために、ローブで顔を隠して一緒にギルドに行ったのですが、受付のお姉さんにボクの存在を警戒されまくっていたのでおそらくフラグが立っているのでしょう。


 ご主人さまは鈍感系で気づいていないのかと思ってつついたら、「人間は好みじゃない」と一蹴された事で戦慄することになりましたが。


 今更ながらボクは恐ろしい人に貰われてしまったようです。


 顔を隠した理由ですが、エルフなのがバレると結構やばい事になるみたいなのでその対策ですね。人様の奴隷は売買出来ないようになってるので、そこまでではないんですが、世の中にはどうしても欲しがる人が居るみたいですね。


 まぁ中古品なので価値は落ちると思いますけどね。あはは……はぁ。



「甘いモノがたべたいです……」


 最近のボクは甘味に飢えています、こちらの世界にも甘いモノは結構あるのですが、庶民が口に出来る最高ランクはハチミツだったのです。


 個人的にはクリーム系が好みですが、正直はちみつでも嬉しいのですよ。でも欲しいと言えばあの変態鬼畜ロリコンご主人さまの事です。やりそうな事はだいたい予想できます。


 ボクは断固として奴の思い通りに事を運ばせる訳にはいかないのです。自分の力で枷から解き放たれた野獣から身を守らないといけません。墓穴を掘るような真似は。


 とはいえ、諸事情でお留守番が基本的なお仕事となっている現在、娯楽が全くありません。甘いモノを忘れるために何かやろうにも、精々がソファーやカーペットの上でごろごろするしかないのです。


 あ、ベッドでごろごろは絶対に無理です、あそこはダメです、特級危険地帯です。


 うとうとして眠って目が覚めたら手遅れだった……という悲劇はもう二度と繰り返してはいけないのです。……あいつは本気で一度股間に大怪我を負うべきだと思います。


 そんな鬼畜外道こと。ご主人さまは今日は森に出たという変異種っぽいゴブリン退治にいっております。きっと予想外のモンスターが出たり、同行者の女性冒険者にフラグを立てたりと忙しいはずですから、今日は帰ってこないと見るべきでしょう。


 程よく怪我をして、しばらく動けなくなってくれてるとありがたいのですが……死なれるとボクが困ってしまうので無事を祈っておきましょう。それにしても、暇なのです。仕方ありませんね、家探しを決行しましょう。



 冒険者生活三ヶ月目にして奴隷を買えるだけの財力を持つご主人さまは、流石チートというべきか、郊外に庭付きの二階建ての一軒家を持っていました。家に来た翌日にこっそりと教えてくれたキッチンから行ける地下室、そこに設置されている魔法チートを駆使して作ったという冷蔵庫の中から花の蜜のカップケーキを取り出します。ほんのりと甘いおやつです。


 たまにこういうのを隠しているから侮れません。


 ……それにしても、来る度に思っていたのですが、家の規模にしては随分と狭い地下室ですねここ。あんまりひと目に触れさせたくないという理由で冷蔵庫はここに置いたそうなのですが、何というか不自然に狭く感じるのです。


 まさか更に隠し部屋があったりしてーなんて思いつつ、耳を壁に当てて手で叩いてみます。……あれ、随分と奥行きがありそうな気配? 壁が薄い訳ではないのですが、明らかに向こうに空間があるような音の響き方です。気になりますね。


 えーっと、間取りで行けばキッチンからリビング側に向かって階段を斜めに降りてきたので……今はリビングの手前くらいでしょうか、そして壁がある方向は……ご主人さまの寝室?


 気になりますね、気になりますね。何を隠しているのでしょうか。好奇心猫を殺すといいますが、本当に娯楽がないのです。むしろ暇がエルフを殺す勢いです。


 暇つぶしを見付けたボクは、カップケーキをぱぱっと平らげてご主人さまの寝室へと向かいます。勝手知ったる他人の部屋こと、ご主人さまの寝室にはキングサイズのとっても寝心地の良い、ふかふかのベッドがででんと置かれてます。


 実はボクも部屋は貰ってるんですが、ソファだけでベッド無いんですよね、一週間前に撤去されてしまったので。それからはずっとご主人さまの部屋で寝ています。……えぇ、察して下さい。


 さて、何度も掃除にも入っていますし、その時は怪しい部分はなかったはずなのですが……はてはて。


 こうなったら普段触っていない場所をガンガン調べていきましょう、というかクローゼット一択です。普段着用の衣類箪笥は、洗濯物を入れる時にボクが触ってますし、ほかも掃除の時に触りますから。唯一ハッキリ「触るな」と言われてるここくらいしか怪しい場所はないのです。


 ふふふ、弱みを握ればボクにも反撃の目があるかもしれません。今日こそ下克上の時なのです。オープンザドア!


 …………うーん、普通のクローゼットでしたか。これはちょっと残念な感じって、あれ? なんか微妙に風を感じますね、ひょっとして服の後ろに隠し扉とかが……あれ、ほんとに隠し扉があった!?


 クローゼットの奥にあった扉を開けてみると、地下へ続く階段が現れました。益々持って怪しい気配です。灯りの魔法を使って視界を確保してから、どんどん階段を降って行きます。ボクにもこのくらいの魔法は使えるのですよ、エルフなのは見た目だけではないのです。


 ぐいぐい降りた階段の下には、何やら重厚な扉が待ち受けていました。鍵がかかっているようですが甘いのです、ボクは攻撃魔法の才能はからっきしですが、解錠とかトラップ解除とか小手先の魔法は得意なのですよ! というのもご主人さまに買われてから判明した事実なので、活用出来る場面はなかったのですが。


 とにかく! ついにご主人さまの秘密が明らかになって下克上の時が来たのです、エロ本とか隠してたら日頃の仕返しに散々からかってやるのですよぉぉぉ。さぁ、鍵は外れました、おーぷんざどあーです!


 ………………。


 えーっと、見なかったことにしたいと思います。そっと扉を閉めて早足で階段を上がります。やばいです、あの部屋はマジヤバです。こう、何というかお仕置きする気満々というか、調な教をする気が全開というか。


 あのド外道、鬼畜だドSだは思ってましたがここまでとは予想外です、復讐に駆られて彼我の戦力差を見誤りました。これはあかんです、全て忘れて大人しくしていましょう。そうすれば彼はとても優しいのです。


 灯りを消してクローゼットの奥の扉を閉めて、クローゼットそのままの扉を閉めて。これで全てを忘れれば何も無かったことになるでしょう。危なかったです。


「この家ってさ、前は貴族が別荘に使ってたんだと」

「そうだったんですか」


 ふむふむなるほど、それであんな奇妙な仕掛けがあったのですね。その貴族さんとやらも大層な変態だったのでしょう。ご主人さまと良い勝負です。


「買ってきた奴隷なんかをあそこに閉じ込めて、結構酷いことしてたみたいでね」

「ひどい話もあるものですね」

「まぁ、その御蔭で訳あり物件として格安で手に入ったんだけどさ、


 除霊にはちょっと手間取ったけど」


 屋敷と呼べるほどではないにせよ、ご主人さまが大きな街のそこそこの土地にこの規模の家をもててる理由がそれだったのですね。納得です。


「その方たちも安らかに眠れるといいですね……」

「そうだな」


 チート持ちの仕事ですからきっと跡形もないのでしょう、なので怖くありません。ボクは犠牲者さん達が心安らかに眠れるそうに静かに祈るのでした。


「ところでご主人さま」

「ん?」

「いつお戻りに?」

「ついさっきだ、ギルドの方で手違いあったみたいでな、出発は明日になったんだよ」


 ありゃりゃ、ギルドもそういう事やらかしちゃうんですねぇ、ちょっと意外ですね。


「そうですか、ギルドの方もおっちょこちょいですね」

「全くだな、勘弁して欲しい」

「ふふふふ」

「ははは」





◇◆ADVENTURE RESULT◆◇

【EXP】

MAX Combo 6 <<new record!!

BATTLE TOTAL 6

◆【ソラ Lv.2】+6

◇―

◇―

◇―

================

ソラLv.2[13]→Lv.2[19]


【Comment】

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいちがうのですちがうのです……」

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