ご主人さまとエルフさん
とりまる ひよこ。
奴隷暮らしも楽じゃないのです
第1話 これがボクのご主人さま
「あの……ご主人さま?」
雲ひとつ無い空を太陽が泳ぐ昼下がり。窓から吹き込む穏やかな風を感じながら、何をするでもなくソファーに腰掛けてこちらを見ている黒髪の青年。
ボクの主である所の"彼"に向かってボクは声を掛けました。
「ん、どうしたソラ」
整った顔立ちで微笑む姿は堂に入っていて、腹立たしさが募ります。
そんな彼に言いたいことは山ほどあるのですが、今尋ねるべきことはひとつだけです。
「このメイド服、凄く裾が短いんですけど……」
彼は何も答えずにそっと、ひらひらの可愛らしいミニスカートメイド服を着たボクをソファーへと招き寄せたのでした。
◇
彼の名前は『如月 秋夜(きさらぎ しゅうや)』。
元は日本の高校生で、ある日トラックに跳ねられ、神様を名乗る老人からチート能力をもらってこの世界へやってきた男です。
本人曰く非リア充でモテていなかったそうですが、日本人的な美的感覚からいっても結構カッコイイ顔立ちで面倒見も良く、それなりにモテていただろうと思ってます。
対するボクの名前は『天成 空(あまなり そら)』。同じく元は日本の高校生な。
こちらは道を歩いている途中で突然飛んできた人間にぶつかり、衝撃で吹き飛ばされて川に落ちてそのまま意識を失って……気づけば異世界に居たのです。
神様は現れずチートもありません。しかも元はしっかりとした男だったのに、幼いエルフの少女の姿。
森の中でひとり目を覚ましたボクは、そのままふらついていた所を奴隷商人にゲットだぜされました。そこから商品として陳列され、俺は男だー人間だーと主張しても返事は鞭。
これでもね、昔は結構男っぽい口調だったのですよ?
ですがそんな態度許してもらえず、挙句の果てに面白がった調教師によって今の変な口調に矯正させられました。今でもかんたんには抜けてくれません、痛いのはもう嫌です。
……後で知ったことですが、尖った耳から商人たちはボクをゴブリンと人間のハーフと勘違いしていたようでした。
そんな訳でいきなり奴隷として売られるっていうハードなスタートを切ったところ、『チート主人公が金を貯めたらまず演るべきことをする為』に奴隷商へと来ていたご主人様に買われたのです。
ボクの方は金髪蒼眼なエルフ姿でしたけど、彼はそのままだったので一目で日本人だとわかりましたね。自己紹介の時に日本語で「中身は日本人だよ!」と必死でアピールしまくりました。
得体のしれないオッサンや変態に買われるより、同じ日本人のほうがマシだと思ったのですよ。
ほら、マナーとモラルを叩き込まれた現代の日本人なら、下心満載で買ってもヘタれた挙句に奴隷に一切手を出さず好待遇に処すことが多い……と前世のネット小説などで学んでいたのです。
結果としては、賭けに勝ちました。
ご主人様は日本に居た頃からエルフ好きだったのです。
こちらの世界のエルフは愛玩用にと乱獲されもう大分前に絶滅してしまったようで、それを聞いて絶望していたご主人さま。そこは諦めつつも、でも人外系の奴隷は欲しい! なんて行った商館で森鬼(ゴブリン)のハーフとして紹介されたのがボクでした。
薄汚れていても金髪蒼眼なのがわかり、更には鑑定でもってステータスを見やればそこに燦然と輝く【種族:エルフ】の文字!
奴隷商がボクがエルフだと悟られないように、必死で知らない振りをしながら買い取ったそうです。ご主人様いわく『見た目はロリだけど最高クラスという』話です。
もしもエルフ認定されてたら城が建つ値段で取引され、ええ趣味してる金持ちのおっさん達に可愛がられる事になっていた……とか言われて背筋が寒くなりましたね。
エルフだなんて主張してなくてよかったのです。森を歩いて汚れていたのも功を奏しました。
ちなみにボクのお値段、金貨3枚。日本円だと大雑把に言って30万くらいだったそうです。チートさえあればあのガマガエルぶん殴ってやるのですよ……。人間なんて滅べばいいのに……。
何はともあれそこまでエルフが好きなら無下には扱わないでしょう、同じ日本人で懐かしい話も出来る相手、余計なことさえしなければむしろ高待遇が期待できると笑みが止まりませんでした。
実際に魔法で鞭の傷痕もきれいに直してもらって、毎日ごはんもお腹一杯食べれて割と幸せな日々でした。最初の数カ月はひとりで寝ると奴隷時代の夢を見るので無理言って一緒に寝てもらったりしました。
何というか人のぬくもりって安心するんですよね。手を繋いでもらうだけでも怖い夢を見ないというのは発見でした。
そんなこんなで約半年、すっかり落ち着いたボクはご主人さまのもとで心穏やかに暮らしていたのです。
……いたのですよ。ここ最近なーんかこそこそしてるなぁと思っていたら、ご主人さまがどこからか随分と可愛らしいデザインのメイド服を持ってきたのです。
正直抵抗はありました。しかし養ってもらっている身の上、このくらいのコスプレで良ければ喜んでやりましょうと着てみたのですが……何というか思ったよりも裾が短い……ちょっと動けば白いものが見えてしまいそうなくらいです。
それに関して抗議をしようと思ったら、この有様なわけですが。
「あの、ご主人さま?」
「気に入ってくれたか? そろそろ……いい加減限界なんだよな……」
どういう意味なのでしょうか、取り敢えず太腿を触るのをやめてほしいのですが。
「な、なにが、です?」
何故か首元に顔を寄せながら、逃がさないように腹を抱きしめてきます。割と本気で力の差があるので怖くて泣きそうです。振り解ける気がしません。
「一応、ソラのことは性奴隷のつもりで買ったんだよ」
「…………」
やばいですね! 正直抱き寄せられた時から察してましたけどやばいです。"女になった"葛藤とか心の変化とかすっ飛ばしすぎですって! 過程をすっ飛ばして結果を求めるせっかちさんは嫌われるのですよ。
日本人の草食っぷりどうしたのですか、異世界デビューではっちゃけでガンガン行こうぜですか。
このままだとボクはちっぽけな男のプライドを砕かれつつ貞操を刺し貫かれるでしょう。尊厳のためにそれだけは阻止しなければいけません。
「ご、ごしゅじんさま! あの、あの、まだ、明るいですから!」
「すぐ夜になるから」
あ、なんか察しました。やる気が溢れてますね変態野郎、ガンガン行こうぜは良くないと思います。気遣いって言葉を辞書で引いてしっかりと蛍光ペンでマーキングしてきてほしいです今すぐ、その間に逃げますから。
「というかソラ、わかってるのか? 俺はエルフ大好きだって言ってるだろ、毎日毎日可愛らしい笑みで無邪気に、無防備に接してきて……半年近く我慢した自分を褒めてやりたい気持ちで一杯なんだが?」
うん、少しでも印象を良くしようと媚びを売ったのが裏目にでましたか……!!
ってひいい!? 硬いものが、なんか硬いものがお尻にあたってるのです!! ピンチです絶体絶命ですマジヤバです。かくなる上は最後の手段を使わなければいけないのでしょうか。
「あ、あの、さ」
「ん?」
放逐されることを恐れて今日まで隠し通してきたボクの秘密。……そう、彼にはボクが『前世は日本人で、死んだと思って気付いたらエルフになって、奴隷商に捕まった』としか話していないのです。
ただのボクっ娘だと思っている彼には悪かったのですが、ボクだって奴隷に戻るのは怖かったのですよ、今度外に出たらどんな目に合うか分かりませんから。
「じ、実は俺、男なんだよ、今はこんなだけどさ」
「ふぅん?」
久しぶりの男口調なのでちょっとぎこちないですね、普段から練習しておくべきでしたでしょうか。ですがこれで彼は凶行を止めてくれるはず。
よそよそしくされるかもしれませんが……このままトゥギャザーされるよりはマシです。売られそうになったら泣いて土下座して情に訴えましょう。
「騙して悪かったけど、ボ、俺もあのガマガエルの所に戻るのが怖かったからさ、も、元男を抱くなんて、き、きもちわるいだろ?」
「…………」
引いているのか反応がありませんね、これは行けるかふにゃぁぁ!?
「みゃぅうぅ!?」
い、いきなり、耳はむって! あぁぁぁぁだめ、だめです、噛まないで、敏感なんです神経集まってるんですひぃぃい!?
「まぁ多分本当なんだろうけど……、正直、俺はソラの前の姿とか知らないし。今でも男口調の美少女にしか見えないんだよな」
ひえええ、耳に息はやめてください、くすぐったいってレベルじゃないんですぅぅ! なんで、どうして? ボクの最終手段が効かないとでも言うんですか!?
一体どんな性癖してやがるんですか!
「それに、自分が男だと思ってる子をさ……。自分好みの女の子に染め上げるのって、楽しそうじゃん?」
「 」
だ、ダメですこいつガチです本気と書いてガチです、このままでは勝ち目はありません、腕力でも知力でも経済力でも勝てる気がしません。
養われている異常、今この状況から逃げ出せる気もしま……あれ、詰んでる?
「さ、ベッドへ行こうか」
「うわああああぁぁぁぁぁん!! ろりこんへんたいきちくげどうぺどほーけーたんしょぉぉぉぉ!」
か、体は好きに出来ても心まで好きには出来ないんですからね!!
◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
【EXP】
◆【ソラ Lv.0】+3
◇―
◇―
◇―
================
ソラLv.0[0]→Lv.1[3] <<LevelUp!!>>
【Comment】
「ぐすん、ぐすん……」
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