潜日謎々

菱目日野

第1話


             「潜日謎々」



一章:始まりの日に


 今日は聡明高校の初登校日だ。俺の中で複数の感情が渦巻いているのを感じる。期待、不安、緊張。しかしなぜかとても気分は良かった。

空は青く澄んでいて、お日様も顔を出していて、ポカポカした陽気だった。周りの木は花が芽吹き、桜が新たな門出を祝っている。何よりこの出会いと別れの季節が好きだった。そして、この暖かい春風が気持ちが良くない道理はなかった。

 俺こと柳沢誠司は、面倒ごとや無駄なことに極力エネルギーを使わないようにしているため、付き合いが悪いと思われがちで、仲の良いと呼べる友達は少なかった。 

 家を出て学校へ急ぐと、隣の家の幼馴染の松崎春子にあった。彼女は才色兼備で、そして人当たりもいいため、クラスメイトや他学年の学生からもかなり人気があった。彼女と俺には堀部集というもう一人幼馴染がいるが、どうやら今日はまだ寝ているらしい。俺たち三人は幼稚園から一緒で、よくみんなで冒険をしたものだ....。今日から通う学校へ向かって春子と一緒に向かっていると、

 後ろから声をかけられて、振り返るとそこにはさっき話したもう一人の幼馴染の集がいた。彼はいつも飄々としていて本心が見えないやつだ。だが集は冗談好きで、根はいいやつだ。茶髪で楽観的な態度をとっているが、人の本質を見抜くのが得意だ。何より情報収集が趣味であり前の中学では初日にはクラスメイトの名前と担任や担当教科の教師の名前を完全に覚えていた。無愛想に思われがちだった俺と子供のころから常に一緒にいてくれた親友だ。無論、春子も仲の良い親友だが、集とは男同士だからこその、気心の知れた仲だった。そんなことを考えながら、少しずつ歩いていくと、校門の前へ着いた。そこには今日から通う白く新しい校舎が堂々と横たわっていて、そしてその横には昔から使っていたようにうかがえる古びた伝統を感じる木造の別校舎が同じ敷地内にポツンと佇んでいる。体育館の近くには掲示板があって、「新入生は体育館にお集まりください」と貼り出されていた。体育館に入るとまだ人がそんなに集まってはいなかった。閑古鳥が鳴いているとまではいかないが、割とガラッとしていた。ドキドキしながら、俺は指定された席を探して辺りを見渡していた、すると偶然にもちょうど集と春子の隣だった。二人を見てホッとしたことなど、口が裂けても恥ずかしくて言えるわけがないが、しかしまぎれもない事実であった。しばらくすると、生徒が徐々に集まり出して、式の始まりを思わせる。空気が緊張味を帯びてきた。司会の先生が開会式の始まりを告げて、壇上に目を向けると、いかにも厳格そうな雰囲気を醸し出している校長先生のスピーチが始った。最初はワクワクしていたが、校長の話が長い上にめちゃくちゃつまらなかった。そしてこのポカポカした暖かい気温が追い討ちのように眠気を誘う、即ち睡魔との決闘である。今頃になって校長の話というものは退屈であることを思い出したが、物事とはいつものそのような因果関係で動いているのかもしれない。校長の話が終わると、ホッとしたのも、束の間で今度は生徒会長が在校生代表としての挨拶を始まる。

「新入生のみなさん、あなた方は今日より我が聡明高校の生徒であるという自覚を持ち、たくさん学び、スポーツなどの活動に励んでください」という内容の演説をした。やはり演説中も眠気は続く、しかしあと少し、あと少しと自分を奮い立たせ聞いていた。

入学式を終えた瞬間、俺は言いようのない開放感を覚えていた。それはさながら籠の中の世界から、空に羽ばたいていった鳥のようだった。そして全ての生徒が席を立ち、一気に体育館の外へ出ていく、流石に在校生と新入生の数を合わせるとかなりの人数である。こんな大勢が一気に蠢いていると流石に圧巻である。かく言う俺もその大波に巻き込まれていたのである。ようやく外へでると掲示板があり、そこに紙が貼ってあってクラスが発表されていた。しかし、人が多いためなかなか進めないのである。行列の中に入り込み、一歩一歩進んでいった。やっとの事で一番前へ出ると、クラスと生徒の名前が書かれていた。それによると俺と集と春子は二組だった。素直に嬉しく思った。なぜだろうか、初めての環境に知り合いがいるだけでかなり安心できるものだ。校舎に入ろうとすると急に何か黒いものが飛び立つ羽音が聞こえた。上を見ると、漆黒のカラスが空に群がっていた。校舎の中へ入り、階段を登り、教室の前に着くとノブに手をかけてドアを開けた。中へ入ると、机と椅子が綺麗に並べられていた。教室の一番前には黒板があり、黒板にはいくつかの四角が描かれていた。おそらく席の配置なのだろう。そう思い、近づくと、黒板に手紙が貼ってあった。そしてその手紙を取り、開いて見るとまるで紅蓮の血で書かれたかのような字の色だった。「黄昏時にて、この学び舎に、災呼び込まれて、不吉なことをなさん。いかなる事が起ころうとも他言することなかれ。さもなくば、さらなる禍事に見舞われるであろう。」という内容の文面だった。おそらく夕暮れの時に何かが起こるだろうという意味だろう。少し胸騒ぎがしたが、その胸騒ぎの正体はわからない。とりあえず目先のことに注意を向けるのが先決だろう。自分の頭の中は席順がどうなのだろうかという気がかりで支配されていた。席順というのは重要なものである。それによってはその学校生活が天国にも地獄にもなり得る。幸いなことに集が俺の前で横が春子だった。席に座ると、集が話しかけてきた。

「誠司はどう思う、あの手紙?」

「さあな?いたずらかもしれないし、ほんとのことかもしれない。」

そして集が含みのある笑みでこちらを見ていた。そしてそうこう話しながら席で座って待っていると、先生が来た。

「あの先生... いきなりで恐縮ですが、...実は今朝の式の後、この教室に黒い封筒に入った手紙があって、その内容は今日の夕方に学校で恐ろしいことが起こるということを指し示しているようでした。」

「いいよ、気にしなくていいよ....。毎年のことだからこういう悪戯。」と軽く切り返されたが、俺は心のどこかでひっかかっていた。本当にただの悪戯なんだろうかと嫌な予感がしてならなかった。

 学活の最初の時間はクラス内の自己紹介だった。俺のクラスのメンバーはみんな個性的で優しそうだった。紹介が進んでいく中、集が声をかけて来た。

「誠司、今朝のあの怪文書ってなんだったんだろうな。ただのイタズラにしては、手が込んでるよ。」

「まー毎年のことらしいし、それに厄介ごとはごめんだね」

「だから誠司は友達いないんだよー!」

と冗談まじりにいわれた。苦笑いを浮かべながら、

「どういう意味だよ?」

と明るく振る舞った。 しかし、今朝のことを考えまいとすればするほど、考え込んでしまうもので、先生の声が全く聞こえていなかった。そして先生に指されたが反応が遅れて、慌てて、席を立った。

「えっと...俺は、柳原誠司だ。....趣味は読書。」といったが、笑い声と拍手が聞こえた。そして次は集の番だった。しかしいつものことだが奴は冗談好きだからな何をしでかすかわかったものではない。

「俺は、堀部 集だよー。この誠ちゃんの幼馴染です。情報集めが趣味で、冗談も大好きです。」

そして休み時間に入った。多くの生徒がクラスを出入りしたり、トークに花を咲かせていた。俺は、椅子に座り込み、考えにふけっていた。無論、今朝の怪文書についてだ。一体何が起こるのだろうか。一抹の不安が的中しないのを祈るばかりである。いたずらだとしたら何が目的なのだろうか?すると、集が話しかけてきた。

「誠司 もう入る部活決めたか?」

「いや...まだだよ。というか入るかどうかもわからないし。」

「じゃあさ、下の部活の掲示板見に行こうぜ。」といってきたので。このまま考えてもキリがないので、気分転換することにした。

「いいね〜私も行く〜」と春子も話に入ってきた。三人で行くことになったが掲示板には人だかりができていた。人混みの中へ入ろうと近くによると、様々な部活の紹介がされていた。この学校では生徒の多くが部活に入って、汗水を流したりしている。中には大会にでる部もあるが、文化系にとっては文化祭が最も盛り上がる。それ故、入学の初日から、部の勧誘が盛んである。だからこそ、数多くの部が新入生を獲得しようと勧誘する。いわゆる「勧誘戦争」である。そんな中、人混みをかき分けて進んでいき、やっとの事で掲示板の前にたどり着けたが、気を抜けば押し返されそうだった。文化系の部には、読書(古典)部、演劇部、クイズ研究会、謎研究会などがあった。スポーツ系の部活には、バレーボール部、バスケットボール部、野球部、卓球部、テニス部、サッカー部などがある。音楽系の部活には、コーラス部、軽音部、吹奏楽部などがある。

「誠司、どうする?予想してたけど、たくさん部活があって迷うなー。」

「そうだなー。でもスポーツとか音楽得意じゃないし、入るとしても文化系かな。」というと、春子が頷いて、

「そーだねー。人にもよるけど、やっぱり一番充実しそうなのがいいんじゃないかな。」

というと、今度は集が

「俺はさー、読書部入ろうかなって思ってる。」などのたわいのない話をしていた。今朝起こったことを忘れているぐらいだ。いやもしかしたらそう思いたかったのかもしれない。

そうこう話していると、あっという間に時間がすぎてもうお昼を食べないとオリエンテーションに遅刻しそうだった。走りながら食堂へ行くと、人がたくさんいた。今がちょうど混む時間帯なのだろう。昼食を終え、階段を上がり、急いで教室へ戻ると、もうほとんどクラスメイトが揃っていた。席につくと、ちょうどチャイムが鳴った。今朝の手紙あるいは怪文章について考えていた。本来このようなただの悪戯は取るに足らないのだが、不思議と嫌な予感がした。しかし、その想いとは裏腹に平凡な日常が過ぎていった。勿論起こらないのに越したことはないのだが。やはり杞憂か。先生も単なるいたずらだっていっていたし。そんなことを心の中で考えていると。「柳原、ここの文読んでください」と先生言われたが、俺は完全に上の空で、全く気付いていなかったため、返事に困った。

「えーと....すいません話聞いてませんでした。」

「じゃあ、福辺、お前が読んでみろ」

「はい」

と集は答え、読み始めた。読み終わると、椅子に座り、こっちを見てきた。なにも言ってこないが、明らかにバカにしている顔でこっちを見ていた。その顔はおっちょくってる顔で思わず殴りそうになったが、どう考えても聞いていなかった俺が悪いからやめた。次は学校案内の時間だった。先生が校内を案内している最中も今朝の手紙に対する謎の不安感、いや不信感が膨らむばかりだ。校舎内は外とは対照的にどこか暗くて不気味だった。しかし今度こそ授業に集中することにした。あれはただの悪戯だ、気にすることはないと自分に言い聞かせた。案内は順調だった、何ごともなく正常に進んだ。変わったことは何もなかった。最後のホームルームも連絡事項などの話も終え、全てつつがなく進行していた。しかし、終業のチャイムが鳴った後も、特に変わった光景や物音は何もなかった。ただただ校舎が沈黙に満たされていくだけように思える。俺はなぜだか、初日を終えて、安堵してスッキリするはずなのだが、予告の時間が刻々と迫ってきているからか、緊張感が増してきた。

「夕方までだいぶ時間あるしさー部活見学いこうぜ?」と能天気に集が提案をしてきたが、実際夕方まではかなり時間が空く上に、ずっと緊張感を持ち、警戒するのは疲れるから気分転換にいってみることにした。

「しゃーないな、このまま悩んでてもこの状況がどうにかなるわけじゃないからな。」と俺が答えると、

「そーだよ!悩んだってしょうがないからいこうよ!」と春子も同意を示した。

まずは集が興味を持っていた、読書部(古典部)へいくことにした。

一階まで降りると、様々な文化系とスポーツ系の新入生の勧誘が繰り広げられていた。やはりスポーツ系の部員の声はひときわ大きくて、迫力があり、インパクトがすごかった。吹奏楽部は学部で、とても綺麗な音色で心が安らいだ。しかし、まずは文化系から見ると決めていたので、その場を後にした。そしてまずは集が行きたがっていた読書部を周り、演劇部、そして最後に端から奇妙で謎であった。謎研究部、すなわち謎研にいくことにした。

文化系の部活のブースを周り、謎研を探すが、一向に見つからない。

「謎部どこだろうね?」と俺と集と春子が話し合っていた。

「とりあえずまわりの先輩に聞いてみないか?」と俺がいうと、2人もそれに賛同した。

「あのーすみませんが?謎研ってどこにあるか知っていませんか?」と近くのクイズ研究会の人に聞いてみると、

「いやー謎研?そんなのあったかな?ごめんねわからないや」と言われたので、校舎全体を端から端へと回ってみたが、一向に見つかる気配がない。なので、校舎を出て校庭を探してみることにした。校庭の隅は木で覆われ光が遮断されている。旧校舎は夕暮れ前なのに、まるで夜のような不気味さを漂わせている。その屋根には漆黒の鴉が数多鳴いていた。まさかここはないよな?と思いつつ、恐る恐る旧校舎へ入っていくと、廊下の板が老朽化していて歩くたびに床が軋む音がした。そしてその軋む音はまるで人のうなり声のようだった。そしてしばらく歩いていくと、そこには謎研の部室があった。ドアを開けると、部員が四人いた。しかしこんな不気味な場所を部室にしている人たちだ。普通であるはずがないと少し身構えた。

「やあ!そこの一年君。どうしたんだい。こんなところまで来て?」

「えーと.....実は、今日が初日で、この学校にはたくさんの部活があると聞いたので、見て回っていたんですよ。」

「ああ、なるほどね、それでこの謎研にも見に来たんだね。」

「ちなみにどんな活動をされているのですか?」

「それはね学校の不可思議な謎を解決してるよ!」

「あーそういえば、今日実は少し不思議な出来事があって...。」

「なんだい?その不思議な出来事って?」

「実は今朝教室に変な手紙が貼ってあって。」

「ああその手紙ね....。」

「えっなんか知ってますか?」

「いや、噂を耳にしただけさ。」

「どんな噂ですか?」

「なんでも一年の各教室に奇妙な手紙が貼ってあったっていう噂だよ。」

「なるほど。」と言いながら妙な違和感を感じながらその場を後にした。



今になっても尚、まだ何も起こっていないということは、それはつまり今朝のあの手紙が悪戯であったということになる。もはや何も起こる様子がないので俺と集と春子の3人で話しながら帰ることにして、教室へ向かった。


俺たちは荷物を持ち、教室のドアから出て、階段へ向かうと、どこからか「キャアアアアアー!!!!!」と悲鳴が聞こえた。悲鳴のする方へ急いで駆けつけると、三階の角の教室の前に2年の先輩が困惑の表情を浮かべて座り込んでいた。声をかけてみると、その顔は青ざめていて、教室の扉の方を指差して「あ...あの教室に3年の先輩が....」俺は悪い予感がした。急いで恐る恐る扉に近づいてドアの窓から中を見ると、そこにあるのは3年生の先輩が縄で首を吊っている姿だった。その先輩の横には梯子が立っていた。そのあまりにも凄惨な様は俺の思考が現実から非現実の世界へと迷い込んでしまったようだった。集と小春も驚愕の表情を浮かべていた。そしてかく言う俺も突然の非現実に戸惑いを隠せないでいた。その場を後ずさって、ウアアアアと叫び校舎から飛び出した。校舎から出ると、今までのことが嘘のように平和だった。そしてさっきの光景が目に焼き付いて離れず、「なぜだ?」「なぜこうなってしまったんだ」「なんでこんなことしたんだ?」と言う思いが拭えず、やっとの思いで帰路へついた。気がつけば自分の部屋のベットに横たわっていた。無理もない、なぜなら本来起こりえないはずのない現場に遭遇するなど誰が想像できただろうか。しかも初日にだ、狼狽えるなという方が無理である。


二章:憂いに満ちた朝に


次の日の朝になり、二人と落ち合い重い足取りで学校へ向かった。しかし昨日のあの光景は常に脳裏にフラッシュバックしていた。そして、いまだに昨日の出来事が夢か幻のようで現実味がなかった。教室へ着くと、昨日と同じように黒板に手紙が貼り付けられていた。その手紙を目にした時、殊更にあの出来事が現実であることを否応なく突きつけられる。

「まさか手紙が来るとはな...」

「そうだな...もう起こらないと思ってたよ」恐る恐る俺は集と春子が見守る中手紙を開けると血のようなインクで「汝、いずれかが真相に辿り着かねば、第弐、参の命譲り給う。」と書かれていた。その手紙を読み、思わず驚愕した。そして俺の戸惑いを嘲るように現実をつきつけられた。俺は血の気が引いたような気がして、後ろの二人の顔色を伺った。すると二人もやはりかなり動揺しているようだった。そしていっときの沈黙の間が流れて、お互いあまりの事で発する言葉がわからず三人はお互いの顔を見つめあった。


三章:決意そして解決へ


夕闇に包まれた頃の教室には生徒がほとんどいなくなっていた。三人は何か話すこともなく時が止まったかのように只々その場に立ち尽くしていた。

「....ちょっといいか?みんな戸惑ってるのわかるけどさ、俺もそうだ全く現実感がなくてどうしていいのかわからないよ...。でもさ...このままじゃ...さらなる被害者が出るかもしれない。もしかしたら今度は俺たちかもしれない。」と沈黙を破り、重い口を開けた。そして二人は肩を震わせながら答えた。

「そ...そうだよね... まだすごい怖いし。足だってガクガク震えてるけど。でもそれでも受け入れるしかないよね。」

「そんな肩震わせながら言われても説得力ないけど。そうだよね...すごい怖いけど向きわなきゃだよね。もうこんな思いはしたくない...」

三人は迷いながらも、どんなに怖くても恐ろしくても、立ち向かうと決めた。そして例の現場へ向かうべく、自分を奮い立たすように勇んで踏み出した。しかし向かう途中でもやはりまだ受け入れるのは難しかった。

 俺たちは未だに衝撃のあまり現実である気がしていなかった。いやむしろ昨日のことが夢であると信じたかったのかもしれない。そしてもしあの例の現場に行ったら何も残されていない。全てが嘘だったという希望に縋るような思いで前進んでいた。

「うわっっっ」と思わず三人は声をあげてしまった。

そしてあの場所には昨日の凄惨な状況そのままであった。それによりもはやこれが現実であると認識をせざるを得なくなった。そこには依然としてそのあまりにも現実離れした事実に対して数多くの感情や戸惑いが頭の中になだれ込んでくる。整理が追いつかずにショートして目眩がした。そして現実逃避をするように座り込み空を仰いだ。その肩は情けなくも震えていた。無言で逃げるようにすぐその場を俺は後にしようとした。すると、

「どこに行くんだい誠司?」

「どこに行くの誠ちゃん?」と2人に問いかけられた。

「...えっ...家に帰るんだけど?」ととぼけたように返すと、

「本当に....そう思ってるのか?前のお前なら迷わず事件を解こうとしてただろ?」いつものおちゃらけた雰囲気はそこにはなくその顔は真剣そのものだった。

「そうだよ!誠ちゃんは困ってる人がいたらいつも助けてたよね?」と優しい笑顔で語りかけてきた。しかし春子のその声と表情はどこか物悲しそうだった。あの時、もう二度と二人のそんな顔にしないって決めてたのに。その思いとは裏腹に

「そりゃーそうだろう?もう昔のことだ、人間は時間が経てば変わるもんだよ。」と思ってもないことを口走っていた。

「...誠ちゃん!俺たちはいつもでもお前の味方だ!俺たちへの後ろめたさがあるんだろう?でもなまたあの事件みたいなことになろうと、俺たちはお前はお前のままでいてほしかっただ。誰も責めてなどいないよ。」と二人に言われた。

「でも....俺はお前たちをあの事件に巻き込んでしまった。結果的にお前らにけがをさせてしまった...」と俯向きながら言うと、

「あのな...誠司?別にお前一人が全部責任を持つ必要はないんだよ。お前も俺も春子もみんな一緒の不安を共有しているんだから。俺たちを頼れ、一緒に乗り越えようよ。不安な時、悩んでる時は、一緒にいて支えてやる。お前は一人じゃない。」そして漸く気が付いた。俺は逃げていたんだ現実からも自分からも、俺にはこんな俺をいつまでも待ってくれるそんな二人がいるのに...。

「わかった...もう迷わねー!!俺は一人じゃない、辛い時には仲間がいる。」と決意を新たに捜査を開始することにした。先立ってまずは、現状把握が必要だと結論を出した。まずは現場に入るために集に鍵を取ってきてもらうことにした。職員室は一階にあって、階段を降りてすぐの曲がり角にある。集が取りに行ってもらってる間に状況を2年の先輩に話を聞いて見ることにした

まずは事件現場に手がかりを探しに足を運び扉の前で中を訝しげに見た。するとどこから怪し視線を感じたのでゆっくり後ろを見ると、あの事件の日に見た2年の先輩がこちらをちらちら伺っていた。

「ねえ...君たち。昨日もいたけど、ここで何をしてるの?」

「えっと...実はあの事件の捜査をしていて。」





「あの〜 大変言いにくいのですが....あの方とはどのような関係ですか?」と言いにくそうに聞くと、動揺しながらも話してくれた。

「私は、あの三年の先輩と同じ部活の先輩後輩で、今日の放課後に全員集合と聞いてこの部屋に来て中を覗き込んだら先輩が首吊られて殺されていたの。だから悲鳴をあげてしまったの」

「最後にお聞きしたいのですが、それは何時のことですか?」

「すいません、あなたも傷ついているはずなのに、協力してくれて...」

「えっと...あれは確か授業が終わってからすぐに3時30分ぐらいに教室を出ようと思ったんだけど、友達と話し始めたら止まらなくなっちゃった。急いでこの教室に来たんだけど、呼び出した先輩も他の部員もいなかったから一旦他のメンバーを探しに行ったのよ。そして戻って来たら現場を目撃したの。」すると誰かが、勢いよく階段を上ってくる音が聞こえた。階段の方を見ると、集と先生がこの部屋に向かっていた。鍵を受け取り、急いで錠を開けたが、中にはやはり誰の姿もなく、そこには変わり果てて吊るされた先輩の姿だった。しかしそこにあるはずのものが忽然と消えていたそんな感覚を感じた。中へ入ろうとすると、三年の先輩と思われる男がドアの前に来て

「おい... この状況はなんだ?」と訪ねて来たので、

「えっと 実は悲鳴を聞いて駆けつけると、あそこの三年の先輩が首を吊っていてたんです。」と答えると。

「なんだと...そんなことが起こっていたのか...」と言った後、彼は中を覗き見ると、驚きの顔をあらわにしていた。本来であれば、教室に誰かが首を吊るされていたら、昨日目撃にしていないにしても、噂ぐらいであれば聞いているのが自然だ。なのに彼の反応はまるで今知ったかのような反応だった。首をつられて死んでもなお、つられているのはあまりにも居た堪れないので先輩を下ろしてあげようと部屋の中へ入っていった。駆け寄り手を伸ばすが、やはり天井が高く手は届かなかった。何か踏み台はないか周辺を探して見たがどこにも梯子らしきものは見当たらなかった。今思えば昨日の事件現場には梯子らしきものが現場にあったことを思い出した。現場は完全に外から隔離された密室で、しかも天井は高く梯子などを使わなければ到底届かない。しかし現場には誰もいなくて、なおかつ梯子も消えている。あの手紙の主はわざわざあんな手紙を用意し挑戦を叩きつけて来た。普通に考えれば、梯子があり人が首を吊って死んでいるとなれば自殺という線が濃厚だが、しかしならなぜ梯子が消えたのだろうか?もし仮に自殺であるならば梯子が消えるはずも理由も見当たらないのだ。しかしこれが殺人で梯子を使い自殺へ誘導しているのだとすれば、証拠である梯子をどこかに隠したのだとしても辻褄があう

「もしこの仮説が合っているのなら、もしかしたらこれは自殺じゃないのかもしれない...。」

「どうだろうね、とりあえず梯子の行方を捜すべきじゃないか?」

「そうだよとりあえず事件だとして捜査してみたら?考えているだけより動いてみれば何か見えてくるかもしれないわよ。」それにはまず梯子の行方を探す必要があった。

「どこかに梯子か踏み台はありますか?」と先生に尋ねると、

「あっ...それなら職員室にあるはずだよ..」と教えてもらったので、顔も知らないとはいえあまりにも不便だと感じていたので、早く下ろしてあげるためにもさらなる犠牲者が出る前に事件を解決するためにも、急いで一階まで降りた。廊下をしばらく歩くと職員室と書いてある札が見えた。ドアに駆け寄りなく覗きこむと多くの先生方がいてどの先生に話を聞けばいいのかがわからなかった。

「あのーすいませんが、梯子はここに置いてありますか?」と聞いてみると、

「あー....梯子ならねー、さっき及川くんに貸し出したんだけど、まだ帰ってきてないんだよね。」と先生が言ったので、

「それは何時のことですか?」と聞いた。すると、

「確か3時40分くらいだったよ」と言われてある一つの仮説にたどり着いた、犯人は梯子を隠した。つまり何か降ろされるまずいことでもあるのかもしれない。次に最後に借りていたという及川先輩を探して話を聞く必要がある。その前に一旦現場に戻ることにした。俺は証拠を見つけるために、周辺を見回したが、しかし痕跡らしい痕跡は見当たらなかった。あるとすれば窓の縁には埃がかぶっていて、何かが通った形跡がなかった、ということは犯人は誰にも気付かれずドアから出入りしたことになる。まずは先んじて事件の関係者に話を聞くことにした。最初は、第一発見者の笹倉美波先輩に聞いてみることにした。

「すいません先輩。今しがた知人がなくなって、それどころではないと思うのですが....一刻も早く犯人を捕まえるためにご協力いただけないでしょうか?」と尋ねた。

彼女の顔には明らかな動揺の色があったが、

「わかりました。ご協力しましょう....」と答えてくれた。

「まず、被害者の名前とクラスとそしてあなたと被害者の方はどのような関係ですか?」と聞いた。すると、

「私と彼は謎研究会の部員で。彼は斎藤忠臣と言って三年生です。彼が部長で、私は部員でした。」と答えた。

「ありがとうございます。彼はどのような人物だったのでしょうか?....誰かに恨まれて居たりとか?部の中で口論になったりは?」と尋ねると、彼女は、

「彼は気さくないい人で、特に恨まれるような人じゃないと思うけど。あっ....でも謎研の活動の最中にどのミステリーが一番かという題材で白熱して、口論になっていたわ...。」という答えが返って来た。

「では、最後に斎藤先輩が首をつっていた日、授業の終わりから発見までの間、何をしてましたか?事件発見までの経緯もお願いします。」と聞いた。

「私は、授業が終わって....しばらく友達と話をしていたんだけど。今日は謎研の定例会議の日だってことを思い出したの。だから私は部室へ向かったて、それで着いて見ると、先に来ているはずの部長の姿がなくて、電気も着いて居なかったの。だから妙な胸騒ぎがしたからドアについてる窓に近づいた。恐る恐る...ドアの窓から中の様子を覗き見ると。部屋の真ん中に、何かが吊るされているのが見えた。何だろうと不思議に思い、中を覗き込むと、そこには、変わり果てた部長の無残な姿があった....」

「ありがとうございます。お辛いでしょうが....何としても事件を解決してみせるので。」まだ、まだ情報が足りないので被害者の関係者にもっと話しを聞くことにした。

その後は、被害者の担任の先生に話を聞いて見ることにした。

「あれでも、誰だっけ3ーDの先生って?」とふと疑問を口にすると。春子も知らないようで顔をきょとんとさせて

「えー...誰だっけわからないや。」と言うと。待ってましたと言わんばかりに、集が得意げな顔で

「あーそれなら田口先生だよ」と言った。その顔は言うまでもなくムカついたが、今はそれどころではない、話を聞くために職員室へ向かおうとすると、春子と俺たち三人は引き続き職員室へ向かった。しばらく歩いていくと、職員室らしい部屋を見つけた。中へ入ると、たくさんの先生方がいたので、名前を呼んで話を聞くことにした。

「田口先生はいらっしゃいますか?」と呼びかけてみると、部屋の奥から

「君たちは何しに来たのかね?」と質問されたので、

「単刀直入に言いますと、あなたが担任をしている3ーDの生徒である、斎藤忠臣という生徒が、吊るされて殺されたんです。なので、状況を整理するために、彼が教室を出た時の状況をお聞きしたいのです。よろしいでしょうか?」

「 わかった...他ならぬ私の生徒が巻き込まれたんだ、協力しよう。」と答えが返ってきた。

すかさず、俺は聞いた

「彼は授業を終えた後の様子はどうでしたか?」

「彼は最後の授業を終えたあと、何分間か友達と話し込んでいたな。でもなんかその後急用があるみたいで走って教室を出たよ。確か...3:40分くらいだったはずだよ。」

「そうですか。では、最近の斎藤先輩やその周辺で変わったことはありませんでしたか?口論になったりとか、誰かに恨まれていたりなどの心当たりありませんか?小さいことでもいいので。」と訪ねた。

「うーん。彼は人当たりのいい生徒だったからなー。あっ....でもそう言えば熊本くんが推理小説のことをバカにして、口論になってたなー。私は、彼が部長を務めてる、謎部の顧問でもあるんだけど、どの推理小説が一番かで話し合いをしていたらしいのだけど、全員結局最後まで譲らなくて最終的に殴り合いにまで発展したんだよ。」もしかして犯行動機はそれか?....いやそれぐらいの理由でこんな危ないかけはしないだろう。そして話を聞くにつれてこの事件が誰かの犯行である線がかなり濃厚になってきた。そしてそれも用意周到に計算された犯行だ。


「わかりました... ありがとうございました。何か思い出したら、教えてくださいね。」と礼を言った。どうやら謎研内で何らかの問題が起こっていて、それによってできた歪で犯行に及んだらしい。だから謎部の部員全員に話を聞くとにした。集と春子にも相談したが、全員同意してくれた。全く持つものは親友である。

まずは副部長の小鳥遊悠という生徒のところへ行くことにした。

「えっと...あの日は授業が終わった後、クラスメートと話し込んでしまって、話を終えて、部室へ向かうと、騒ぎを聞きつけたんだ。」と言った。

「えーとそれは何時くらいのことですか?」と尋ねると、

「あれは確か、3時40分くらいまで話し込んで、騒ぎに気付いて事件現場についたのが、3時50分だったよ。」つまり事件後十分に俺たちの前に着いたことになる。

次に他の謎研の部員に話を聞いてみた。謎部には会長と副会長そして、第一発見者と後もう一人部員がいるらしい。

最後の一人は、及川大智と言って2年らしいが、居場所がわからないので、2年の先生に聞くと授業が終わると急いで部屋を走って出てったとのことだったが、どこへ言ったのかわからなかった。しかしこのままでは、及川先輩だけアリバイがないが、どこにいたのかは不明だった。だから断定はできない。しかし現状で一番犯人に近いと言える。


今のところ及川先輩を探す方法がないので、とりあえずもう一度現場検証に再度赴くことにした。

「及川先輩、どこ行ったんだろう?姿を眩ませたら犯人だと真っ先に疑われるのにね」と鋭い主張を言ってきたので、

「そう!まさにその通りなんだ。ここまで用意周到に計画にを立ててきたのに、ここにきてまるで自分が犯人だと言ってるようなもんだよ....」と話し合っていると、

「考えすぎじゃない?」と春子が言い出した。

現場に着くと、今までの情報を整理することにした。まずは、犯行時刻は3時40分に彼が教室を出て、笹倉先輩が3時50分に事件現場を発見して、俺が現場に急行するのに10分ぐらいかかった。そしてついた時には犯人はもういなくて、ドアは鍵が閉まっていたため、脱出するには窓を使うしかないが、入った時には、窓は閉まっている。つまり、部屋は密室であり、脱出経路は窓かドアだが、被害者と俺がついた時には鍵がしまっているため、いかに犯人は他の人に気付かれずに脱出したかがキーになるわけだが、明確な証拠はまだ出ていない。

しかし前々から気になっていたのだが、一向に警察に通報した気配がないのだ。普通ならば、学園内で殺人事件が起きれば、通報するし、ましてや、密室殺人で不可能犯罪だ。現状で一番怪しいのは、及川先輩だが、彼は行方をくらましていた。彼にアリバイはないが、少なくとも俺が現場に着いてからは、誰も入ったり、出たりしていないので、それ以前ということになる。だから、先生や校長に話を聞いてなぜ警察を呼ばないかと聞いてみることにした。

「誠ちゃん!校長室は一階にあるよ。行こう」と思考を読まれたかのようなタイミングだった。春子も賛成のようで首を上下に上げ下げしながら頷いていた。3人で階段を降りて、歩いていくと校長室は一階の端側に佇んでいた。中に入ると、誰もいないようなので、少し待たせてもらうことにした。

「校長先生どこだろうね?こんな非常時なのに」と素朴な疑問を春子が口にした。しばらくすると、扉が開いて、校長と思しき老人が入って来たのだ。

「あのー校長先生ですよね?」と尋ねてみると、

「ああそうだが何用かね?」と胸を張って答えた。

「突然訪問してしまい、すいません実は、校内でとある事件が起こっていて、捜査の協力をしてもらいたいのです。」と答えた。

「とある事件とはなんだね?」と問い返されたので、

「この学校で起こった殺人事件ですよ。」と言うと。

「そうか、よもやこの学園で事件が起ころうとは...。」と複雑そうに溜め息をつきながら言った。

「わかった。答えられる範囲では答えよう。」とおっしゃったので、

「では、まずはじめに、この事件のことは知ってらしたのですか?」と尋ねた。すると、

「ああそういう噂は聞いていたがね。まさか本当だとは思っていなかったがな。」と返ってきたので

「では、今からでも通報すべきではないのですか?」聞き返した。

「ことを大きくしたくないのだよ。学校で事件が起きたなんてことになったら、上層部や保護者からの批判が来て、全て学校の責任になってしまう。だから調べるならこのこと内密に解決してほしい。」と力強く言われた。よほど重要なことなのだろうと内心思った。何がともあれ、一番引っかかっていた疑問が解けた。

「では次に、事件が起こった3時40分から3時50分までの間にどこにおられました?」と尋ねてみた。

「なんだね?君は、私が犯人だとでも思っているのか?」と少し怒り気味に答えた。

「いえいえ、ただ可能性があるってだけなので。特に深い意味はないですよ。」と弁解をした。

「うむ、ワシはずっとこの部屋で、他校との親睦を深めるためにあちら側の校長先生と話し合っていたよ。その校長は福沢永吉という人だから、彼に話を聞いてもらえば、本当だと理解してもらえると思う。」なので、とりあえず校長先生に話を通してもらい、明日伺うことにした。今日はできるだけ情報をかき集めるのが先決だろう。犯人への糸口がまだ見つかっていないのだから。すると、今まで沈黙をも守っていた集と春子が口を開いた。

「誠司、俺たちも手伝うぞ」と集と春子が言って来てくれた。

「おー助かるよ!」と表面上は冷静にしていたが、まさか初日から殺人事件が起きるなど誰が予想できただろう。しかし今はこれ以上被害者を出させないためにこの事件を解決するのが先決だろう。

「じゃあ、集は事件現場の周辺の人に、事件が起こったとされる時間帯に誰が出入りしたのかをきいてきてくれないか?」と頼むと、

「おういいぜ、困った時は助け合うもんだろ?友達なんだから。」

「春子は学校の見取り図を描いてくれないか?」と頼んだすると、快く承諾してくれた。俺はというと外に何か落ちていないかを再度調べることにした。事件が起こった部屋の窓の周辺を調べてみた。しばらく外を歩き回っていると、事件現場の窓の前に着いた。 辺りを見渡してみると、一見何もないように見えた。しかし近づいてみてみると、何やら糸くず見たいのが落ちていた。もしかしたら脱出に使われたのかもしれない。それはそうとして、情報共有の時間になったので、事件現場に再度赴いた。部屋に着くと、まだ誰もいないようだった。しかしふとしたことに中から物音が聞こえた、そういえば、

「犯人は現場に戻る」というのが刑事ドラマなどでは定番だというの思い出しながら入ると、そこには見たことない先輩がそこに立っていた。

「あのーあなたはどなたですか?」

「俺は及川だ。そういうお前たちこそ何しにここにきた。」と言われたので、驚いた。そこには姿を消していたはずの及川先輩の姿があった。すると、春子や集が入ってきた。

「おーいどうしたんだ?」

「何かあったの?」と二人に聞かれたので、

「実は集合時間になったから、この部屋に来て二人を待っていたら、中から物音が聞こえて、入ってみたら姿を消していたはずの及川先輩がいたんだ。」

「え...まじで、とりあえず事情とアリバイ聞いてみようぜ?」と集が珍しくまともなことを言ったため、

「何を企んでる?」と疑惑の目を向けていうと、

「やだなー誠ちゃん?ただ事件解決したいだけさ。」と茶化しながらいうので、

「とりあえず...そういうことにしてやる。」と言いながら、内心では、絶対面白がっているのだろうと疑っていた。しかし今はそれどころではない、今まで謎の多かった及川先輩が現れたのだ。聞くべきことがたくさんある。

「及川先輩、実はこの部屋であなたの所属している謎研の部長が天井に吊るされて殺されていたんだ。知ってましたか?」と聞くと

「えーそうなんですか?」とあまり驚いた感じがしないので

「あまり驚きませんね?本当は知ってるんじゃないですか?」と聞いてみた。

「いやーこれでも驚いていますよ?ただ噂を聞いたもので。」と答えた。

「変な噂を聞いたんですよ。」

「どんな噂ですか?」と訝しみながら聞くと。

「いやー、謎部研の中で三年の先輩が部室で首吊るされて殺されたって聞いて。」

「ではまず、犯行時刻の3時半から3時50分の間に何をしていましたか?」

「その時間なら、気持ちが悪くなって保健室で寝ていました。」

「それを証言できる人はいますか?」と尋ねると、

「保健室には誰もいなかったのでいません。でも俺はやってないぜ」と返答が帰って来た。彼のところを後にして、事件現場周辺の人に話を聞いてみることにした。まずはその近辺の先生に話を聞いてみることにした。まず一人は事件現場の隣の部屋のクラスの先生に話を聞いてみることにした。隣は3ーC組だった。先生は三枝先生という人らしい。中へ入ってみると、中には生徒の姿がなく、そこには先生しかいなかった。

「あのー三枝先生ですよね?」と尋ねた。すると

「はい、そうですよ。」と言われたので、

「単刀直入に聞きます。今部屋の隣でこの学園の生徒が密室で首を吊った状態で発見されました。何か見たり聞こえたりしませんでしたか?」と聞き返した。

「あ....そう言えば、何か物音が聞こえたような気がする。何かを引きずるような音。」とこたえてくれた。

「そうですか。他に誰かが隣の部屋に入ったり、出たりしていましたか。周りに誰かいましたか?」と再度尋ねる。

「うーん 誰も見てないな。授業が終わってからは、生徒に質問されて答えたりしていたから、常に見ていたわけじゃないからね。でも斎藤くんが通った後、笹倉さんが通って、悲鳴を聞いて駆けつけた君達は見たけど、斎藤君が通ってから笹倉さんが通るまでは誰も通ってないとおもうけど。」

「そう言えば関係ないかもしれないけど、あの教室は曰く付きな場所らしくてね、あの部屋でいじめを受けた生徒が首吊り自殺をしたらしくて、放課後になると学校をさまよっているっていうまあよくある怪談なんだけど。ここ数日に、学校に物を忘れた生徒が夜学校へ行ったんだけど。恐る恐る歩みを進めて荷物を教室からとって帰ろうと、すると 例の教室の前を通ると、ガサガサと音がしたらしくてね。そろりそろりと近付くとドアが開いていて中を見ると、そこには首吊っている生徒が天井にぶら下がっていたらしい。彼らは悲鳴をあげながら走って帰ったらしいんだ。」と語った。さしてこの事件に関係ないと断定して進めることにした。

今の現状での最重要容疑者は及川先輩で、彼以外は全員にアリバイがある。そしてそのアリバイも友達や先生によって裏付けされている。残るはトリックのみなのだが、部屋は密室だった。つまり犯人は、授業が終わり生徒が帰宅し始める3時半から笹倉先輩が死体を発見して悲鳴をあげた3時50分の間に犯行を行い、誰にもバレずに部屋を出たことになる。この密室トリックを崩さなければ、事件の解決は不可能といえるだろう。しかし次の事件が起こるかわからないため、あまり猶予はない。もうすぐ日が暮れそうなのである。いつに次の事件が起きるかわからないため、早く事件を解決しなければいけないのである。なかなか上手くいかないためイライラしていると、

「頑張れよ 誠司!今までちょっとした事件に関わってきたけど、全て解決してきたじゃないか。一緒に事実を検証して行こうぜ。」と集が励ましの言葉をかけてきた。

「そうだな!ありがとう!冷静になったよ。そうだ俺は一人じゃないんだ」と新たに決心した、三人でこの事件を解決すると。まず犯行時間はたったの20分でその間にあの部屋の出入り誰にもバレずに犯行に及んだ。そして部屋の中には痕跡らしい痕跡はなかった、しかし近隣の先生の話によると何か物音が聞こえたらしい。つまり犯人は犯行後何らかの手段で窓か扉から出たことになる。しかしここまで用意周到に行動していた犯人が痕跡を残すとは思えない。実際にこれといった証拠品は見つからなかった。


次の日になると、昨日と同じで集と春子と一緒に学校へ行き、普通に授業を受けた。そうまさに平凡な日常がそこにあった。...嫌正確には違うな、まだ昨日の事件が解決していない。

普通に授業を受けて、放課後になった。授業中も昨日の事件について考えていて、内心では心ここにあらずといった状態だった。それゆえか学校の時間がこんなにも長く感じたのは初めてだった。

授業を終えて、再び情報を集めなければいけない。状況と動機から言って謎研のメンバーの中の誰かが犯人なのだが、未だ尻尾はつかめていない。いや正確には一番怪しい人物はいるのだが、ここまで用意周到に計算してきた犯人がこんな初歩的な間違いを犯すとは思えない。そうこう考えていると、集が

「部屋の周辺の人に聞き込みしてみよう。何か思い出した人とかいるかもしれないし。」「そうだな!まずそこからだな。情報が必要な状況だからな。」と答えると。

「よし!じゃ行ってみよ〜〜〜〜」と春子がなんとか必死に俺たちを励まそうとしてくれている。

そして思わず本音がポツリと出てしまった。おもわず

「....ありがとな.....」と口に出していた。正直、まさか入学初日にこんな事件が起きたって言う時点で、もう不安で押しつぶされそうだったんだ。また二人を危険な目に合わせてしまうんじゃないかと不安だった。でも二人がいてくれたから冷静でいられたんだ。

「感傷に浸るのは事件解決後にしようぜ!想誠司君(ソーセージくん)」と彼ながらの励ましなのだろう。今度は謎研周辺の教室の生徒に話を聞くことにした。


昨日は隣の教室の先生に話を聞いたので、今度はそのクラスの生徒に話を聞くことにした。

「あのーすいません先輩方〜!! 昨日の3時半から3時50分の間に誰かが隣の部屋を出入りしたり、物音が聞こえたりしませんでしたか?」と尋ねると、

「あーそういえば、及川が隣の部屋に入っていくのを、見たよ。あれは確か3時20分ぐらいで斎藤が部屋の前を通ったすぐ後だったよ。そのほんの数分ぐらいで及川は部屋を出てったよ。そのあと、確か何かが引きずられているような音がしたよ。」と田辺さんが言っていた。

次に先生に「3時半から3時50分の間に現場の周辺にいた生徒って誰がいますか?」と聞くと

「あーそういえば生徒会のメンバーが周辺にいたなー。生徒会の謎研は仲が悪いからな。」と返ってきたので、

「ありがとうございます。彼らの話を聞いてみることにします。」というと、

「彼らなら生徒会の部屋にいると思うよ。」と教えてくれた。

三階の端には生徒会室があり、生徒会会議により、校則や部費の上げ下げなどはこの会議で決まるため、ある程度の権限を生徒会は持っている。そんな部屋には、生徒会の役員が書類や相談などを受けている。扉の前へ来ると、ドアをノックした。

すると、

「どうぞ」と返事が返ってきたので、遠慮なく入ることにした。

扉を開けると、四人の生徒が座っていたので、

「生徒会の皆さんですか?」と尋ねると、自己紹介をしてくれた。

「俺が生徒会の風間武文だ!」

「私が生徒会副会長の旭川凪です。」

「僕が生徒会書記の藤沢東林っス」

「私が生徒会会計の夕闇花蓮ですわ」

それはさておき事情を聞いてみることにした。

「えっと、昨日の放課後の3時半から3時50分の間何をしてましたか?」と聞くと。

「昨日は生徒会の会議中だったよ。部費の増量などの話をしていた。3時20分から四時までずっと会議だったよ。」


4章:事件終結へ


ようやく全体像が見えてきた、しかし状況が及川先輩の犯行だと裏づけていたが、ここまで用意周到に準備を入念に練ってした犯人がこんなヘマを犯すとは思えなかった。しかもわざとらしく、ロープを残すなんて、明らかに犯人が窓から出たと偽装するためという風に誘導しているに他ならない。しかし、彼以外には全員にアリバイあるしなーと思っていた。

春子が何かを読んでいた、

「おい!春子何読んでんだよ?」と聞くと、本を閉じて、

「実はさ、演劇中に演劇部の部員が殺されたんだけど、実は演劇部のドッキリだったの。」といった。

「ちょっと待てよ、もし俺の仮説が正しければ.....」

「全員この謎研の部室に集めてくれ。」と集と春子に頼んだ。ついにこの事件が解けた。

「おい?なんで全員集めた?」と謎研の面々と集と春子が入ると、そこには新たな首吊り死体があった。そしてみんなが驚くと、

「やあ...みなさん!よく俺のショーへお越しいただきました!」と私は言った。と目を開けていうと、「えーなんで生きてるのって顔してますね?」

これはこの事件で使われたテクニックですよ。

「そう!真相は実にシンプルです。被害者である彼は死んでいなかった。そして、謎部の部員全員が共犯者で新入生を試していた。」

「そうですよね?斎藤忠臣さん?」と言うと、何も起こらなかった。

「なんだよ何も起こらないじゃん!」と全員が言うと、

「では燃やしますねー!と」と言うと、ガバッと彼は起きた。

「し...しまった。」と言っても遅かった。

「そして、彼が死んでいないとなると、放課後の霊ってあれ実は、謎部のメンバーが事件の打ち合わせをしていたところを、先生が見て、首吊り死体の霊と勘違いしたって言うことです。そしてその時にいた霊というのは本番のシミュレーションをやっていた斎藤先輩ですよね?

あなたがたは自分のミスを利用して架空の霊をでっち上げて真相から遠ざけようとした。

実際薄暗いところに首吊り死体があってそれ以降に人が徘徊したとういう噂を聞けば誰も怖くて近づけないでしょう?」

「なるほど、でもその怪談は昔からあったよ?」

「では、いつからか正確に覚えていますか?こう言う怪談ってだいたいいつからあったかわからないものです。」と答えた。

「この噂は先生に最初に見られた際に謎研メンバーが噂を流したから。そして噂というのは誰が言い出したかなんて覚えてる人はそういないのではないでしょうか。」

すると、「うっ!正論だな...」と呟いた。


「最後にアリバイについてですけど、アリバイは前もって打ち合わせしてあって、全員共犯なら及川先輩以外の人物にはアリバイを作り、そして不自然なまでにも及川先輩だけにアリバイがなかったというのも可能ですよね?」

「そして一番最初の疑問だった、なんで警察を呼ばなかったのかと言うことです。普通殺人が起これば真っ先に警察を呼ぶはずなのに、呼ばないのは、責任問題になるからと思っていたけど。これが自作自演だとすると、ほんとは毎回新入生にこの問題出しているのではないでしょうか?それを証拠に部活ボードの謎研のところに、入部オリエンテーションがあると書いてあった。そして毎年のことだから、警察呼んでわざわざ恥をかく必要がないと言うことだったのでしょう。」

「以上が私の推理です。長らくおつきあいありがとうございます。」と言うと、

「君合格だ!ぜひ入部してくれ!歓迎するぜ」と言われたが、

「考えさせてくれ...」と答えた。

「そうか...残念だが君の意思を尊重して待つとしよう。」

傍迷惑だとも思いつつも、それとは裏腹に気分と顔は晴れ晴れしていた。その時に見た夕日は憎たらしいぐらいに綺麗だった。こうして、やっといつもの日常に戻れると思っていたが、案外終わって見ると楽しかったようで充実感があった。しかしその事件後に普通の生活に戻ってからはどこか心に穴が空いたような気がした。その後彼らが謎研に入ったのはまた別の話...。




     

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潜日謎々 菱目日野 @HBS

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