第9話 あやかしがこっそりついてきたらダメですか?

「なっ、なっ、なっ、なっ……!」


 突然現れた刑部姫を前に佳祐は全身を震えさせ、そんな佳祐を刑部姫は小首をかしげながら尋ねる。


「ん? どうしたのじゃ佳祐? そのように震えて?」


「なんでお前がここにいるんだああああああああああああああ!!」


 叫ぶと同時に刑部姫を掴み、奥へ移動する佳祐。

 そんな佳祐を刑部姫は不思議そうな顔で見つめる。


「なぜってお主の後をついてきたからじゃ」


「ついてきた!? どうやって!? たまに後ろ振り返っていたけれど、いなかったぞ!?」


「当然じゃ。わらわはあやかしじゃぞ。透明化の術くらい心得ておる。姿を消して、お主の後をそっとついてきたのじゃ。するとなにやらこの大きな建物の中に入ってきて、そこにいる女に原稿を見せておるではないか。あやつがお主のいう担当というやつなのじゃろう。最初は出る気はなかったのじゃが話の流れからわらわが必要だと分かってな。こうして姿を現したわけじゃ」


 ふんっと自慢げに鼻息を吐いて胸を張る刑部姫。

 だが、佳祐はそんな刑部姫を見て頭を抱えるのであった。


「あのなぁ……部屋で待機してろって言っただろう」


「そんなことできるわけがなかろう! わらわが漫画を描けるかどうかの一大事じゃぞ! どうなるのか結果はこの眼で見たい!」


「それは分かるがお前がいると話がややっこしくなるんだよ!?」


「何故じゃ? 先程のそちらの担当が言うには作画担当のわらわがいた方が話がスムーズになると言っておったぞ」


「そうだけど、自分の格好を見ろ! 明らかに浮いてるだろう! つーか、耳と尻尾くらい隠せよ! あやかしだとバレたら漫画どころの騒ぎじゃないぞ!」


「な、なに!? も、もしやあやかしとバレると漫画は描かせてもらえないのか……!?」


「まあ、その可能性は……ある」


 佳祐の返答に「ひいいいいい!」と尻尾を逆立たせ、怯える刑部姫。

 無論、あくまでもそうなる可能性が高いだけであったが、それ以上にあやかしなどという非日常的な存在をまともに受け入れられる人間がどれほどいるであろうか。

 最悪パニックが起こり、漫画を書くどころではなくなる。


「……佳祐君……その子……」


「ひっ!?」


 そう思った矢先であった。佳祐の背後からゆらりと幽鬼のように担当の美和が刑部姫を覗き込んだのは。


「あ、み、美和さん! こ、この子はその……決して怪しいものではなく! そ、そう! この子はオレの従姉妹でオレに憧れた漫画を描き始めた子で、それで――」


 と説明も途中のまま、美和は「がばりっ」と刑部姫の肩に両手を置く。

 あやかしだとバレた!? そう佳祐が思った瞬間であった。


「~~~~~~~か、かわいいいいいいいいいい!!」


「へっ?」


「えー、なに、この子ー! ちょーかわいい! ちょータイプ! マジ好み! いや~~! お肌つるつる~! ちっこい~! なにこの銀髪綺麗~! それにこの耳も尻尾も巫女服もコスプレー!? っていうかそれって前に佳祐君が描いていた『巫女っ娘探偵カグヤちゃん』のコスプレでしょ!? ねっ、ねっ!?」


「あー……はい、そうですね」


「や~~ん、やっぱりそうよね~! 可愛い~~!!」


 美和は刑部姫を抱きしめたまま、その頭を撫で眼はすっかりハートマークとなっていた。

 担当の思わぬ豹変に呆気に取られる佳祐であったが、そういえばこの人は割と可愛いもの好きで、前回の『巫女っ娘探偵カグヤちゃん』の主人公カグヤのデザインも担当の美和が一押しだったのを思い出し、刑部姫の外見が彼女の好みにがっちり一致していることに気づく。


「ええい! 離せー! 離さぬかー! 貴様、わらわを誰と心得ているー!!」


 なお、そんな美和に抱きしめられたままの刑部姫は彼女の腕の中で必死に暴れていた。


「やーん! ちょっと生意気な口調なのも可愛いー! ねえねえ、本当にあの漫画、君が描いたのー!?」


「当然じゃー! わらわが描いたー! それはいいから離せー!!」


「本当!? すごーい! 君、天才だよー! 可愛い上に漫画も上手いなんてずるすぎー! っていうかいくつなのー? 中学生? 小学生……ってのはなさそうだと思うけれど、ひょっとして高校生とか!?」


「ええい、なんじゃその中学とか小学とか! わらわはお主なんかよりもずっと年上じゃー!!」


「えー!? 嘘ー!? もしかして大学生!? その外見でー!? ひょっとして成人済みー!? でも、それもありー! というかギャップ萌えで可愛いいいいいい!!」


「ええーい! いいから離せー!!」


 暴れる刑部姫と、それを抱きしめたまま離さない美和。

 そんな二人を呆れた様子で見守る佳祐。

 月刊アルファの編集部の一室はしばらくそんなやかましい声を周囲に響かせたという。

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