第2話

 警備兵が集まり、絶体絶命と覚悟したその時。


「何たる非道。

 何たる無道!

 義を見てせざるは勇無きなり!

 御助け申す!」


 思いもよらない助けが入りました。

 大陸の過半を治める大帝国、アストリア皇国の使者殿が味方してくれたのです。

 これには会場にいる全員が驚愕したようです。

 私は急いで逃げ出しました。


 視線の端に映るのは、会場中を縦横無尽に暴れ回る使者殿です。

 確かドーセット男爵令嬢ベロニカ様と申されたはずです。

 アストリア皇国でも南方の出身で、癖のある黒髪に黒玉の瞳、濃紺色の肌に女性にしては長身で剛柳な身体つきで、いかにも女戦士と言う方です。


 悪党共もどう接していいのか分からないようです。

 当然ですね。

 大帝国の御使者に、非道無道と面罵され、敵対されたのです。

 今更なかった事にはできません。

 同時にアストリア皇国の御使者の口を封じるのも不可能です。


 私は走りました。

 命がかかっているのですから当然です。

 ですが味方は皆無です。

 悪党共の話を信じるなら、爺達信じられる家臣は皆殺しにされています。


 だとしたら、家の馬車は使えません。

 御者も護衛も侍女も敵に回っている可能性があります。

 信じていた者に裏切られているかもしれません。

 信じたくない事ですが、用心しなければなりません。


「あ!

 御嬢さんどうされたのです⁈

 馬車はないのですか?

 護衛の方々はどこにおられるのですか?

 ちょっと!

 一人で夜道を歩くのは危険ですよ!」


 悪党共は私が会場から逃げ出せるとは思っていなかったようです。

 警備兵や門衛は私を止めようとしませんでした。

 むしろ心配いしてくれるほどです。

 ですが当然でしょう。


 近頃の王都の治安は悪化の一途をたどっています。

 全ては父上と母上が謀殺され、王弟ヒックスが権力を握った所為だと、今は亡き忠臣達が言っていました。

 


 今日の事を考えれば、王弟ヒックス、王太子ウェルズ、ティッチフィールド公爵マテオが結託してやった事に違いないのです!

 絶対に許しません!

 父上様と母上様の敵はもちろんですが、爺達忠臣の敵もとって見せます。


 そのためにも、絶対に逃げ延びなければなりません。

 ですが、頼るべき人が思い当たりません。

 家は奸臣共に乗っ取られてしまっているでしょう。

 中には忠義の心を持った者も残ってくれているでしょうが、残念ながら見分ける方法が思いつきません。


「うふぇふぇふぇ。

 こんな夜更けに一人でどこに行くのかな?

 御嬢さん。

 危ないから送ってあげよう。

 うふぇふぇふぇ」

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