お嬢様が行くヨーロッパとんでも珍道中
高橋 マリ
第1話 福島の放射能から逃げてスイスへ
最初に。
これは、私が友人牧子と、ヨーロッパを周遊した際の、まぎれもないノンフィクション旅行記である。
きっかけは、今からもう8年も前になる、2011年の311の福島の原発メルトダウン事故による、日本からの逃避である。
とはいえ、海外に移住したという話ではない。日本から逃げるとしたらどこが良いか?と、下見も兼ねてヨーロッパを周遊した話であるが、別にそんな固い話ではなく、あくまで、それをきっかけに、ヨーロッパを旅行した際の、珍道中の話である。なので、皆様方におかれましては肩の力を抜いて、移動中の電車なり、移動中の飛行機の中でなり、軽い暇つぶしに、私たちのトラブルに満ち満ちた旅行記を読まれたし。かしこ。
「あー。今確実に光ったな。」
高速道路でもない下道を、愛車のワーゲンでかっ飛ばしていたときに、オービスが光った。
通常は、オービスの位置も、ネズミ捕りのポイントも頭に入っている私にとっては、珍しいことである。
ちらりと、速度ゲージを見る。
90キロ。
うーん。一発免停かな。と、心の中で思う。
思索もかねた一人ドライブに、マリリンマンソンの曲なんてかけたからだ。と、軽く舌打ちするも、時すでに遅し。
次からは、ドライブミュージックはボサノヴァにでもしようと思った数週間後、速度違反の呼び出し通知が届き、予想通り、免停。
2か月の免停が講習に金払っても、1か月に減るだけ。
なんかあほくさいな。帳消しになるわけじゃないのかよ。と思い、講習を受けずに帰ってきた。
罰金も取ったうえに、講習でも金取るのに、半分に減らすだけって萎える。
部屋のベッドに寝ころびながら、ちょっくら海外にでも行こうかな?とふと思う。
ドライブ中に考えていたのも、今年の3月に起きた福島原発の屋根のぶっとんだ原子炉からあふれでた放射性物質は、ここ北海道の札幌にも風にのって流れてきているという事実と、今後、自分がその影響をどの程度受けるのか?白血病などの放射性物質の影響による疾患者になる可能性はどの程度なのか?ということも、思索のなかの3割程度に含まれていたからだ。
ということで、次の日、両親に
「スイスにいる友達のところに、遊びに行くことにしたわ。放射能も怖いしね。」
というと、二人とも、えっ。突然どうしたの?という顔をしたけれど、
「ちょっと考えてみたんだけど、お母さんたちは、もう十分生きてるから、好きなもの食べて好きな風に死んだらいいけど、私はまだまだ生きる予定だし、放射能まみれの日本にずっと住むかもわからないし、今スイスに友達いて遊びに来いって言ってるから、ちょうどいいし3か月ビザなしで行くことにしたわ。」
という、なんともいい加減な理由を盾に、若干困惑する両親を説得し、一週間後に、友人の住むスイスに旅立つことにした。
まあ、2か月も札幌で車運転できないとか、つまらなすぎるしね。という、オービス光らせて免停になった事情は、話す必要もないので、黙っておいた。
ここらへんで、お気づきの方もいらっしゃるとは思うが、私は自分でいうのもなんだが、そこそこお嬢様である。
実家は、札幌で不動産業をいとなんでいる、プチブル。という層の、庶民よりはちょっとお金持ち。程度の家に、生まれ、そのまま、ちょっとお金持ち。の人生を享受してきた今年36歳。
この旅行の際は、私が当時28歳、友人牧子は私の1つした、学年は2つ下の、27アラサー二人組の、ヨーロッパ周遊旅行の話である。
そんなこんなで、
ぷちぶるの我が家は、私が3か月海外に行こうがつぶれるわけでもないので、気楽にほいっと国外脱出を済ませたのである。
「ちょっとー。日本やばいわ。放射能汚染だわ。タバコも吸わず、この年まで健康に気を付けてきた意味なくなったわ。くそったれのあほんだらが、放射能まき散らしやがって。」
「こっちでも、日本の津波と放射能汚染の話すごいよ!」
「北海道は津波なかったけど、私いま放射能にまみれてるかもしれんし!まじ日本終わった。放射能吸い込みたくないんだけど!」
スカイプで、スイスに住む学生時代の友人明日香と、福島原発の影響を話していたときに、
「じゃあ、うちに遊びにくれば?部屋二つあるし、いつでも来ていいよ」
「スイス?私が海外旅行好きじゃないのって、長時間飛行機に乗るのが苦手だからだって、あんた知ってるじゃん。札幌からスイスまで何時間かかるんだよ。想像しただけで疲れる。でも、まあ。背に腹は代えられないし、放射能にまみれてるよりスイス行くほうがましっぽいし。ならいこっかな。」
お嬢様同士の会話は、話が早い。
私と明日香がすごした大学は美術学校で、札幌のちょっとお金持ちの子女が集まるお嬢様美術学校だった。
明日香も御多分にもれず、実家は建設業を営む自営業のぷちぶるである。
私が通っていたデザイン科の教室内で、デッサンに使うステッドラーの青い鉛筆をぶんなげると、どこかの社長令嬢の頭に当たる程度には、私の同級生は社長令嬢だらけだった。
まあ、基本的に美術学校なんていうものは無駄に金がかるのである。画材ひとつとっても、なかなかに高価なものなのだ。
親のすねをかじり尽くす覚悟の人間が通うところである。
そんなこんなで、すねをかじりつくした明日香といえば、現在は、スイスで壁画修復の仕事をしている。スイスの前は、ウィーンに数年住んでいて、ドイツ語は日常会話はぺらぺら。すねかじり学校のなかで知り合った、すねかじり友達の中では、なかなかに、尊敬するところのある友人である。
「スイス行くなら、なんか持ってったほうがいいものとかある?あとお土産何がいい?」
っていう、遠足前みたいな会話をしながら、1時間程度でスーツケースに荷物をまとめる。
あとは、両親の説得だけである。
その話はすでに書いたので、そこからの、航空券の手配やらの話を続けたいと思う。
まず、北海道からスイスとなると、新千歳空港から飛ぶことになるのだが、新千歳空港はハブ空港ではない。はっきりいって使えない空港である。
新。ってついてるわりには、新にしたときに、なぜハブにしなかったのか謎である。
そこらへんは、その当時の北海道知事が使えないあほだったんだと、推測するしかない。
どう考えても新千歳空港はハブにして、千歳に冬でも遊べるディズニーランドでもどかんと作れば、北海道経済はまわるにまわったはずである。
そんなこんなで、新千歳空港からスイスへの直行便はないので、どこかで乗り換えしなければならない。
まあ、ポピュラーなとことでいうと、成田空港だが、福島の放射能汚染を恐れてスイスにいく。という、体なのに、汚染がもしかしたら福島よりもすごいかもしれないと当時言われていた東京にある成田空港はあまり使いたくはなかったので、ぐぐったところ。
お隣韓国の、インチョン空港が候補にでてきた。
新千歳空港から3時間。成田までとさほど変わらない時間で行けるっぽい。
ということで、インチョン空港経由でのスイス行に決めた。
そして、航空会社も大韓航空が最安値。
機内食はビビンバらしいし、大韓航空でいいか。と、即決してスイスのチューリッヒまでの16万の往復航空券をぽちる。
明日香の住む都市は、チューリッヒではなく、スイスの首都であるベルンである。
明日香に聞くまでは、スイスの首都ってチューリッヒだと思ってた私はスイス音痴だが。
まあ、行けばどんなところかわかるだろ。ってことで、チューリッヒまで迎えに行ってあげる。という明日香の提案に感謝しつつ。
いざ、スイスへ。
12時間にもおよぶフライトは、飛行機ぎらいの私をへとへとにさせた。が、明日香が、100円均一のスリッパは何個か持ってきたほうがいいよ!というアドバイスをしてくれ、そのスリッパに飛行機内で履き替え、足の面では快適であった。(大韓航空は紙のスリッパはついてるけどね)
皆様方においても、旅行にいく際には、必ず100円均一のスリッパを持たれたし。旅の必需品である。
ヨーロッパのホテルにもスリッパってないからね!!
持参必須!
でもって、オーストリアで1時間ばかしの、燃料補給をすませたのち、インチョン空港から旅立った私の乗った飛行機は、やっと、チューリッヒに到着したのである。
ついてそうそう、チューリッヒの空港は、自分が預けたスーツケースがでてくる、あのぐるぐる回ってる場所まで、飛行機を降りてから、地下鉄みたいなものにのって移動しなければならない。
これ乗っちゃっていいのかな?
という、一抹の不安を煽るつくり。
だって、一度これ乗ったらもう戻れないでしょ?
空港スタッフのおじさんに、つたない英語で確認すると乗ってオーケーらしかったので、その地下鉄にのり、やっと自分のスーツケースを受け取る。と、安心したのもつかの間、スーツケースのキャスター部分が破損してる!
くそったれの空港スタッフが私のスーツケースぶんなげやがって。と怒りを覚えるも、怒っていても物事は進まないで、近くの空港スタッフの小太りのおばさんスタッフをとっ捕まえて、
、「マイスーツケースいず、ブロークン。」
と、伝える。
私の適当な発音でも、すぐに通じて、オーケーオーケー。こちらで受付してね。と笑顔で対応してくれる。
受付らしき、テーブルに座り、流暢な英語で説明を受けるも、なんか、乗っていた航空会社に連絡しろ。って言ってるんだよね。
いや、保険会社に請求するから、航空会社には請求必要ないよ?と思うものの、保険。という英語がでてこない。
受付スタッフに、ジャストアモーメント。といい、持ってきた電子辞書で、保険。と翻訳する。
その当時は、スマホはまだ主流ではなく、私もアイフォンカスタマーではなかった。
英語で、保険を使う!
と、言うと、すべて理解してくれたようで、じゃあ、証明書だすね!と、笑顔で対応してくれました。
ちなみに、保険は英語で、インシュアランス。だそうです。憶えておきましょう。
そして、空港ついたときにスーツケースなどの破損があった場合は、到着出口からでちゃうと、証明書もらえないので気を付けてくださいね。
受付してくれたお兄さん。私が日本人と知るや知っている日本語をめちゃしゃべってくる。
最後は「ばいばーい!(日本人の発音)」と言いながら、めちゃ手を振ってくれました。
さて。
やっと、証明書を携え、出口にでると、明日香がすぐに私を見つけてくれて,
ハグ!
??
こいつ、ハグしてくるような、タイプだったかな?
と、ちょっと戸惑ったけど、明日香に会うのは数年ぶりだし、海外生活も長くなればそんなもんかな?と、軽くながし、
明日香に、到着予定時間を1時間もすぎてでてきた詫びをし、一緒にベルン行きの電車の切符を買って、午後11時ぐらいに、家に到着したのでした。
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