陰キャの桃源郷

第1話 陰キャの桃源郷

『陰キャ』それは社会的地位の低い平民に対してつくられた兵農分離ならぬ「陽陰分離」の産物である。これはそんな分離政策によって生まれた怪物、影（かげ） 宇須尾（うすお）の出会いと成長の物語である。

「フッ、今日も俺はまわりに人を寄せ付けなかったぜ」

そんな独り言を言いながら、影宇須尾（かげうすお）は、誰もいない静けさ溢れる教室に独り座っていた。窓の外では、サッカー部が本当にストレッチか？ストレッチにそんな声量いる？と思うほど声を張っている。　いつもと変わらない日常だ。

　しばらく鞄を無意味にかき回した後、宇須尾は大きい溜め息をついた。

「・・・哀（あわ）れなり」

　昨日見た異世界もののアニメの影響だろうか口調が気持ち悪くなっている。

　そう捨て台詞を決めて教室を出ていった。

　宇須尾の１日は早い。４時には起床し、軽い朝食を済ませると５時には教室で「独り消しゴム大戦」を繰り広げている。

当然、校門は開いていないので門の上から失礼している。なぜそんな事をしているのかは想像に容易い、皆と同じ登校時間では、ボッチ感があるからだろう。

その後は言わずもがな、随時（ずいじ）独りでいる。宇須尾の学校での生活を紹介するのはこの辺にしておこう。良心が痛む。

そんなボッチで陰キャの宇須尾にも大いなる野望がある。

『友達をつくる』だ。

普段はクラスで孤高の陰キャを演じている彼も友達が欲しいのだ。

努力なしで友達なんかつくれない？

そんなことは宇須尾が一番わかっている。友達は自然と寄ってくるものだなんんて都市伝説なのは入学してすぐに思い知った。

　彼自身も友達をつくる努力はしたつもりでいる。話しかけてもらえるように、毎日隣の席の渡辺（わたなべ）さんを見つめているし、目立つ為に授業で答えが分からなくても手を挙げている。

　そんな時きまってクラスのみんなが可哀想（かわいそう）な目で宇須尾のことを見るのだ。

誤解しないで頂きたいが、何も宇須尾だけが悪いわけではない。周りも悪いのだ、明らかに奇行を駆け抜けている彼に、「静（しず）まれ」「個性的だね」こんなものでもいいのだ。

　そんな言葉でも陰キャにとっては、「友達になってください」並みの破壊力をもつのだ。

少々、宇須尾の紹介が長くなりすぎた、このくらいにしておこう。なんせこのお話は彼の出会いと成長を描く予定なんだから。