第53話 巨人と遭遇する件について
「――巨人伝説、か」
そう。この山には巨人にまつわる物語が伝わっているのである。
巨人、その名も――ダイダラボッチ。
名前くらいは聞いたことがある人も多いのではなかろうか。
俺も詳しくは知らないので、ネットで調べてみると……。
どうもダイダラボッチとやらは日本各地で伝承になっている、妖怪や鬼などに当てはまる存在らしい。
しかも山や沼、あるいは湖を作ったとされていて、この【榛名山】だけでなく【浅間山】や、日本一有名な【富士山】もまた、ダイダラボッチによって作られたと言われている。
「おいおい、モンスターだけじゃなくて妖怪なんてのも出てくんのかよ」
どんどん収拾がつかなくなってきそうだ。まあ妖怪とモンスターの境界線もあやふやではあるが。
「でも今噂になってる巨人が、このダイダラボッチだとするととんでもねえな」
一説には、静岡県の【だいらぼう山】の頂には150メートルほどの窪みがあるが、それはダイダラボッチがつけた足跡とされている。
足跡でさえそれほどの大きさだとすると、一体全体どれほどの大きさなのか計り知れない。
そんな相手がモンスターとして現れてバトルになったとして、とてもではないが勝てるとはまったくもって思えない。
やはり今回もボスは相手にはせずに、コアだけを破壊した方が良いようだ。
「けどこのダイダラボッチの伝承って面白いもんだなぁ」
妖怪って聞くと悪さをする連中のような印象があるが、このダイダラボッチに関してはあまりそういった逸話はない。
逆に比較的温和で大人しく、人助けをする妖怪として有名だったりするようだ。
山の陰に覆われた村があり、陽射しがなくすぐに日暮れとなって困る人々のために山をそのものをどけてあげたという話なんかがある。
中には神様そのものだという説もあって、とてもモンスターとは考えられないほどの話ばかり。
「大体そんなに大きいんだったら、こっからでも確認できそうだけどなぁ」
しかし山頂付近にそれらしい影は見当たらない。
やっぱりダイダラボッチとは無関係の巨人なのだろうか。
そこで約一時間ほど経ったので、
そこから山頂目掛けて進んでもらう。どんなモンスターがいるのか、周囲を確認してもらいながらだ。
気力消費に気を使いながら時折休み時間を挟みつつ、そうやって時間をかけてヒーロは進む。
そうして【榛名富士】の山頂へ入ると、そこには【榛名富士山神社】があった。
ただ途中からもそうだったが、山頂では霧が濃くモンスターがいなくとも歩くのは躊躇われる景色と化している。
本来なら山頂から見える景色は、他の山々を一望できる素晴らしい光景を拝むことができるらしいが、今日はそれも楽しめないらしい。
そしてやはりここもすでに【榛名神社】のように、モンスターに荒らされたせいか見るも無残な状況となっている。
「けど濃霧とは最悪だな。こんなんじゃコアを探すのも一苦労かもしれねえ」
仮に前回クリアしたようなダンジョンだったら、コアを守っている門番や扉などがあるからそれを探せばいいのだろうが、この広い山頂の中、調べ回るには時間がかかり過ぎる気がする。
そろそろ日も暮れる時間帯だし、今日はこの辺で切り上げた方が良さそうだ。
ヒーロを《召喚》で呼び戻そうとしたその時である。
突然どこからか船の汽笛のような音が響き渡ってきた。
「ん? どこからだ? ヒーロ、分かるか?」
「キュ! キュッキュキュ~!」
五感が鋭いヒーロは、聞き取った音を頼りに駆け始めた。
俺だったら手探りで進むしかない霧の中、ヒーロは迷うことなく地面を跳ねていく。
するとピタリとヒーロが止まると、ヒーロが突然ブルブルと震え始めた。
今俺はヒーロと感覚がリンクしている。だからこそ分かる。
ヒーロが怯えているということが。
あのヒーロでも怯えてしまうような存在が、その先にあるということだ。
そこへまたも汽笛のような音が響く。
さっきよりも確実に大きな音だが、今度はそれだけではなく霧の中から黒い影が映し出され、見上げるほどの巨大さに俺もヒーロも絶句してしまう。
――きょ、巨人っ!?
まるで天を衝くようなその影はのっそりと動き回り、目のような赤い二つの光がキョロキョロと周囲を見回している。
俺は本能でこれ以上ここにきては危険だと判断し、ヒーロを呼び戻すことにした。
そして姿を見せたヒーロは、真っ先に俺の胸に飛び込んできて鳴き声を上げながら震えている。
余程あの巨人の存在が恐ろしかったのだろう。
「ヤベエな……アイツはヤベエ。あれ以上近づくこともできなかった」
ヒーロの身体だったけれど、これ以上踏み込んだら取り返しのつかない事態を招くのではと考えてしまったのだ。
「とにかくご苦労さん、ヒーロ。よくやってくれた」
コイツのお蔭で、【榛名山】には間違いなく巨人がいることが分かった。そしてモンスターの枠組みすら超えたような理外の存在だということも。
健一たちはアレに何をされたのか分からないが、怯えておかしくなったと言われても不思議じゃない。
それにあの巨人も、まるでここに近づくなとでも言わんばかりに敵意らしきものを周囲に振り撒いていた。
あれじゃとてもではないが、生半可な覚悟では近づけない。
同じモンスターのヒーロでさえコレだもんな。
俺はいまだ震えているヒーロを撫でながら、とりあえずこの場から離れようと足を動かした。
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