第34話 四奈川たちが戦っている件について
「まあいいわ。そんなどうでもいい話よりも吾輩、ダンジョンコアの居場所は分かったの?」
「うぅ……真っ暗な場所でず~っと一人ぼっちやった吾輩の話がどうでもええて……」
「いいから答えなさい! 今度発情期の雌猫を紹介してあげるから!」
「よっしゃあぁぁぁ! 何でも聞いてんかぁ!」
マジで現金な猫である。夏目漱石が知ったら嘆きそうだ。
ていうか霊なのに交尾できるのか?
そんなバカバカしい疑問が浮かんだが、それこそどうでもいい話だと思いすぐに捨てた。
「コアについてやけど、東の方に旧校舎があるやろ?」
「あ? ああ、確かにあるな。ずいぶんと古いやつで、近々解体される予定だったみたいだけど」
「その旧校舎やけどな、中に入ったら驚くで」
「驚く?」
「中は異次元空間になっとって、まさに巨大迷宮みたいになっとんねん」
聞けば外観は一切変わらないのに、内観はその十倍以上もの規模に比べて、多くのモンスターや罠などが配置されているという。
エロ猫は、そのダンジョンの最奥にコアをその眼で見ているらしい。
「ていうか発見したならお前がコアを破壊しても良かったんじゃねえの?」
「ああ、そりゃあきまへんわ」
「は? 何で?」
「吾輩にそないな力はおまへんねん。コアを破壊するにもそれなりに力が必要でっしゃろ? とてもとても吾輩じゃ傷一つつけられまへん」
コイツは探索・感知に特化した妖霊であり、攻撃力は皆無という性質を持っているという。なるほど、そう都合良くはいかないようだ。
「じゃあさっそく旧校舎に向かいましょう!」
「待ちなさい、六門」
「ヒオナさん?」
「……ワタシはちょっとダメね。このまま一緒に行っても足手纏いになるだけみたい」
血を流し過ぎたのか、確かに顔色も悪い。このまま無理をさせて倒れられても面倒ごとが増えるだけ。
「だから……吾輩、六門について行きなさい」
「ふぁっ!? まだ働かせるっちゅーんかい!」
「発情期の雌猫プラス高級猫缶を一週間……いや、一ヶ月分!」
「何なりとお申し付けくださいませご主人様」
ほんっと、この変わり身ぶりには顎が外れそうだ。コイツのこと、信じてもいいの?
何かあったらサクッと見捨てられそうなんですけども。
「あとを頼んでもいいかしら、六門?」
「ったく、エロ猫じゃないけど働かせ過ぎっすよ。俺だってご褒美があればいいんすけど」
「あらら、じゃあ帰ってきたらタップリと……ねぇ?」
胸元を大胆に開いてウィンクをしてくる。
「い、いやいや、もうその手には乗りませんて! 俺を色気で落とそうとしても無駄っすよ!」
「その割には前屈みだけど?」
それは仕方ありません! 男の子ですから!
「そうね~、じゃあ何か欲しいものを言いなさい。できる限り応えてあげるから。あ、シオカが欲しいっていうならあげるわよ?」
「それマジっすか!?」
〝お、お姉ちゃんっ!?〟
直後、ここにいる全員の頭の中にシオカの声が響いた。どうやらまたスキルを使って思念をリンクさせていたようだ。
〝お姉ちゃんっ、勝手にわたしをご褒美にしないでよぉ!〟
「あらら、六門のこと嫌いなの~?」
〝きっ……嫌いとかじゃなくて……そ、そういうことはお互いのことをもっと知ってからが常識だし、だからわたしはその……〟
「ああワタシの妹、マジで神カワイイ……」
うっとりしてるとこ悪いけど、さっきから開けた胸元を吾輩がガン見してるんだけど……鼻血を出しながら。
「ご、ご褒美のことはあとにしましょう。時間を無駄にしてたら、いつ他の連中に先を越されるか分かったもんじゃないっすよ!」
「それもそうね。……頼める?」
「うぃっす。俺だって経験値を上げたいっすからね。その提案に乗ってあげるっすよ」
それにヒオナさんが傍にいない方がスキルを使いやすい。
こんな危なそうなダンジョン、すぐにでも逃げ出したいが、さすがに女性をこのまま置き去りにはできない。いつモンスターか、それとも他の『持ち得る者』に襲われるとも限らないからだ。
そのためにも早くダンジョンを攻略しなければならない。
ったく、俺が他人のためにリスクを背負い込むなんてなぁ。
「んじゃエロ猫、俺の服の中に入れ」
「へ…………あんさん、そないな趣味が?」
「あるかアホ! 服の中に入れておけば、俺のスキルの効果がお前にも得られるんだよ! ただし下手に声を出したり動いたりはするなよ?」
「仕方ありまへんなぁ。そういうことなら我慢しまひょ」
コテコテの関西弁を喋る猫が、俺の服の中へと入ってきた。以外に毛並みが良いので肌触りは悪くない。
そうして旧校舎へ向けて走り出した。
旧校舎は木造で、どの校舎よりも規模は小さい。ただその周囲には何もなく、広い敷地なので、学校側としてはココを更地にして、新たに運動施設を作る予定らしい。
まあ運動部にも体育にも興味がない俺にとってはどうでもいい情報ではあるが。
そんな古びた校舎を目の前にし、俺は物陰に隠れていた。
理由としては旧校舎の入口に、ある光景が広がっていたからである。
四奈川たちと一ノ鍵の《クラン》が、見たこともない連中と対峙していたのだ。
ここに来て、アイツら以外の『持ち得る者』たちを初めて見た。
今のうちに先に進むのもいいが、せっかくだから戦いを観察して情報収集に努めようと思う。
だから俺はその様子を静かに見守ることに徹した。
「こりゃまた可愛らしい攻略者たちじゃねえか、なあ加山?」
「真中の言う通りだな。コイツらもココが怪しいって踏んで来たんじゃねえか? お前もそう思うよな、瀬尾?」
「俺たちの邪魔をするなら排除するしかねえな」
人相の悪い男三人衆。歳は三人とも二十代後半といったところだろうか。
「貴様ら、織音様の御前だぞ。ひれ伏せ!」
一体いつの時代だよと思わずツッコミそうになるが、北常の言葉に男たちの怒りのボルテージが上がる。
「生意気なこと言う奴らだなぁ。しょうがねえ。俺たちが世間の厳しさってやつをねっとりたっぷり教えてやらねえとなぁ」
コイツも時代錯誤的な文句を言っている。モブ感が半端ない。
葉牧さんは「お嬢様、お下がりください」と言って四奈川を後方へと押しやる。そんな四奈川は気色の悪いことを言って近づいてくる男たちに怯えをみせていた。
その中で、一ノ鍵だけは相変わらず腕を組みながら悠然と佇んでいる。
「瀬尾ぉ、お前のスキルで足止めしやがれ!」
「まかせろ。――《バインドウィップ》!」
手に持っていた鞭を彼女たちに向けて放ったと思ったら、鞭が分裂したように四本に別れ、それぞれが彼女へと向かう。
その速度は中々に素早く、あわや全員が鞭に囚われようとした直後、鞭が細切れにされた。
行ったのは北常とナイフを持つ葉牧さんだ。自分たちの守るべき主に、鞭が辿り着く前に排除してみせた手腕は見事としか言いようがない。
「ちぃ、先に前衛の二人を何とかした方が良いみてえだな。ならこれでどうだ――《斬々スラッシュ》ッ!」
加山と呼ばれた男が、両手に握っている剣を振るう。
すると漫画やアニメみたいに、剣から斬撃が放たれるという驚くべき光景を目にする。
しかしそれも前衛の二人は慌てることなく、各々が持っている武器を駆使し受け止めた。
「んだよコイツら! 俺たちはレベルも10以上だってのに!」
おいおい、その程度でここを攻略しようと思ったのか? よくもまあ、道中のモンスターに返り討ちにされなかったな。
「情けねえな、お前ら! この俺が――」
もう一人の真中という男が何かしらのスキルを使おうとしたところ、
「痺れなさい――《放雷》」
葉牧さんから放出された雷撃が、目にも止まらない速度で真中に命中した。
「うがががががががががぁぁぁっ!?」
その一発だけで黒焦げになり、真中は意識を失い前のめりに倒れてしまった。
うわぁ……えげつねえスキルだなぁ。
さすがは『雷神の眷属』という恐ろしい称号を持っているだけある。
あんな自然の力を利用する葉牧さんに一体誰が勝てるというのだろうか。
「お、おい真中!?」
「こ、このガキども強ぇっ!?」
ようやく葉牧さんたちが、そこらの『持ち得る者』とは違うことを認識したのか、顔を青ざめさせている男たち。
「に、逃げるぞ瀬尾!」
「お、おう! まともにやって勝てる相手じゃねえ!」
二人が、倒れた仲間を置き去りに逃亡しようとした直後のことだ。
「――――――――〝動くな〟」
その言葉が発された瞬間、男たちの動きが本当に停止した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます