第33話 エロ猫と再会できた件について
「やっぱ落とし穴だったか。いいぞ《自動回避》、ナイスな仕事だ」
実はこの攻略を行う前に、《自動回避》のランクを上げておいたのだ。
今までは敵意のある攻撃だけに反応する力だったが、ランクを上げたお蔭で、こうして自分に害のある罠なども察知して回避してくれるようになった。
また一度使用してしまえば十五秒のインターバルを要したが、ほんの少しだけ軽減して十三秒になっている。たった二秒だと思われるかもしれないが、この差は結構大きなものだ。
特に戦闘している時の二秒は生死を分けることだってある。
しばらくすると、床が元通りになった。
「落とし穴か……! 穴……地下……まさか!?」
一つの考え。それはこの穴にあのエロ猫が落ちたのではないかということ。
いや待て、アイツは罠を察知することができる。むざむざ落下するとは考えられない。
……だがこの学校に地下へと通じる道があるなんて話は聞かないし、仮に地下にエロ猫がいるのであれば、落とし穴に落下したとしか思えないが……。
俺はもう一度、足を伸ばして床を開かせると、
「おーいっ、吾輩~っ! 聞こえるかー! 聞こえたら返事しろーっ!」
正直大声を出すのはリスクが高いが試す価値はあった。
声は返ってこない。やはりここじゃなかったか……そう思った矢先のことだ。
微かに穴の奥から声らしきものが聞こえてきたのである。
「!? 吾輩か! おーいっ、俺だ、六門だ! 吾輩~っ!」
「――おぉ、あんさんかーっ、待っとったでー! 助けてや~っ!」
その声と喋り方は間違いなくエロ猫だった。
本当に落とし穴に落ちていたとは。しかしこれでもう問題はない。
彼は情報収集をしている最中ではなかったからだ。あとはこのことをヒオナさんに告げ、一度彼を消した上で再度召喚すれば万事OKである。
「もう少し待ってろーっ! すぐにヒオナさんに伝えてくるからーっ!」
「早ぅしてなぁーっ!」
俺は踵を返して、ヒオナさんが待つ下駄箱へと戻る――が、その先から誰かが歩いてくる気配を感じとったので、すかさず《ステルス》を使用し息を潜める。
そしてカツカツカツと歩いてきたのは――。
ア、アイツら……っ!?
目の前に現れたのは飛柱の連中だった。
そんな……ヒオナさんはどうしたんだ? 逃げたのか?
俺は彼らが喋りながら歩いてくるので、その声に耳を傾ける。
「にしてもあの女、かなり手強かったですね」
「ふわぁ~。……虎はなかなかおもろかった」
どうやらヒオナさんは山月を召喚して戦闘したようだ。
「俺一人じゃ、手に余るところでしたぜ。しかしさすがは若。次期組長として、いえ、いずれ不動組を背負う人材は若しかおりませんな」
「やだよめんどーせえ。俺は日がな一日……のらりくらり生きていたい」
ああ、その願い心底同意する。やっぱコイツとは気が合いそうだ。
「そう言わず。若を慕ってる連中は多い。それに今の若には絶大な力がある。これは最早天下を獲れとの天啓ってやつですぜ」
「……ぐぅ~」
「また寝てる。はぁ……仕方がないお人だ。だが若のためにも必ず《コアの遺産》とやらは手に入れなければな」
やはりコイツらも《コアの遺産》のことを知っているようだ。
俺はそのまま突き当たりを右へと歩いて行くのを見ると、元来た道を駆け出していく。
そして下駄箱についた時にギョッとする。
「おいおい、何だよこれ……っ!?」
天井に床、壁に至って異常な光景を作り出している。
あるところはスプーンで繰り抜いたようになっており、あるところでは切り刻まれたような跡を生み、あるところは丸い穴ができ向こうの様子が見える。
下駄箱も同じような被害を受けていて、中には押し潰されたようになっていたり、単純に粉々にされているところもあった。
「一体どんな戦いをすりゃこうなるってんだよ……そうだ、ヒオナさんは!?」
キョロキョロと周囲を確認しながら歩を進めていく。
すると床に血液が付着しているのを発見し、それが道を示すかのように点在している。
俺はその跡を追っていくと、そのまま外に繋がっているようで、校舎を出て裏手の方へと回った。
そこには――。
「アレは――ヒオナさんっ!?」
壁を背にしてぐったりを座り込んでいるヒオナさんを確認した。
慌てて駆けつけると、彼女の様子に思わず息を飲む。
全身が刻まれたかのような無数の傷跡から血液が滴り落ちていた。
「大丈夫っすか、ヒオナさんっ!」
「っ…………あぁ、六門か」
俺は背にしているバッグからタオルと、応急処置用の薬と包帯を取り出し手当をしていく。
「まさかあんたがここまでボロボロにやられるなんて」
「はは……ちょっと、ね。こっちは牽制のつもりだったんだけど……」
ヒオナさんが溜め息を零すと、スッと目を細めて怖いくらいに真面目な表情を浮かべる。
「……あの飛柱って奴はとんでもないわ。バケモノよ、まったく」
俺にしたらヒオナさんも十分バケモノクラスなのだが、そんな彼女が一方的にここまでやられるということは、飛柱兵卦という少年はさらに規格外というわけなのだろう。
「とにかく今はアレに関わるのは止めた方が良いわね。このワタシでさえ、こうやって逃げるのが精一杯だったもの」
言われなくてもあんな危なそうな連中に自己紹介なんてしたくない。
だってヤクザだしなぁ。ああ嫌だ嫌だ。
「はい、これで何とか処置はできました。見た目は派手でしたけど、一つ一つの傷は浅かったですね」
「ありがとね~。……にしてもあのガキィ、いつか目に物を見せてやるわ」
こわっ! ヒオナさん、今あんたすっげえ顔してるの気づいてる? ねえ?
「……ふぅ~。ところで吾輩はどうだった? いた?」
「あ、そのことなんすけど」
俺は落とし穴に落ちたエロ猫のことを伝えた。
「なるほど。あのバカ……とにかく一度呼び戻してみるわね」
そしてヒオナさんは、再びこの場へ吾輩を召喚した。
地面に突如広がった黒ずみから、見慣れた猫が浮き出てくる。
「いやぁ~、やっとお天道さんを見られたわ~! ホンマあのまま死ぬかと……って、嬢ちゃん! どないしたんやその姿は――」
やっぱり主人が傷つくのはしもべとして許せないのか、彼はギョッとした表情で詰め寄って、
「めっちゃエロイ恰好やないかぁ! 何やボロボロにされた女騎士プレイかいな! なあなあ、『くっ、殺せっ!』って言うてんかぁ!」
「ってアホかぁぁぁぁっ!」
「ふぎゅうぅっ!? い、いきなり踏みよってからに……何すんねん……相棒?」
「うるせえ! こんな時にエロにしか走れねえのかお前は! つーか相棒って言うな!」
こんなエロ猫が相棒なんて人生終わりかねない。たとえ契約したら魔法少女になれるとしても、少女たちは絶対に契約なんてしないだろう。
だってコイツ、絶対にその対価としてエロイことを要求してくるしな。
「あはははは、ちょっと傷が痛いんだから笑わせないでよ」
腹を抱えて笑うヒオナさんを見て、思わず恥ずかしくなってエロ猫から足をどけた。
「くぅ~痛かったぁ。できたら美女に踏まれたかったわ」
マジでコイツ、尻尾くらい切ってやろうかな。
「さて、吾輩。首尾はどう? ちゃんと仕事はこなせたのかしら?」
「とーぜんやで!」
「けれど落とし穴に落ちてたって聞いたけど?」
「ぎくっ!? け、けどちゃんとダンジョン内の情報は掴んだんやで!」
どうやら仕事はこなしてくれたようでホッとした。何もしないうちに落とし穴に落ちたわけではなかったようだ。
「だけどよ、何で落とし穴なんかに? お前だったらかからないだろ?」
「それは聞くのも涙、語るのも涙なふか~いワケがあるんや。……聞きたいやろ?」
「別に。どうでもいいからさっさとダンジョンについて話せクソ猫」
「ちょっ、そこは聞いてんかぁ! なあなあなあなあ!」
「ああもう分かった分かった! じゃあ聞くからさっさと話せよ!」
どうにもその話を聞かなければ先に進めないようなので。
「おほん! 実は――」
吾輩が語るには、落とし穴を発見した際に、ダンジョンに侵入してきた『持ち得る者』と鉢合わせしたらしい。
相手はモンスターだと思い、吾輩に攻撃を仕掛け、それをジャンプして避けたのは良いものの、着地点が落とし穴がある場所だったという。
「そしてそのまま落下してもうて今に至るっちゅう悲劇や」
「完全に『持ち得る者』の気配を見逃してたお前の落ち度じゃねえか」
俺のツッコミに「ぐはっ!?」と地に伏せる吾輩。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます