第14話 世界が徐々に危うくなっていく件について
とりあえず何とか四奈川たちと距離を置くことができた俺は、これからのことについて考えていた。
実際彼女たちに説教じみたことを言ったが、その中に出た懸念も満更嘘ではない。
今はまだ世界のあちこちで不規則にダンジョン化していっているようだが、この世界そのものがダンジョンと化して、それこそ異世界ファンタジーのような、外を出歩くとすぐにエンカウントするようなことになってもおかしくないのだ。
コンビニに行こうとしてモンスターと遭遇し襲撃を受ける可能性だってある。
世界中にモンスターが溢れ返り、人間たちの居場所を奪われてしまうことだって考えられるのだ。
そうなってから対策を取っても遅い。
少なくとも俺はそこまで器用じゃないし、結局パニクった挙句、あっさりと殺されてしまうような小物だ。
だったら最悪を想定しつつ準備をしておくのが賢いやり方だと思う。
そのためにはやはり何といってもレベル上げ、これだろう。
どんなモンスターが目前に現れようとも生き抜けるだけの能力は欲しい。
「となればやっぱダンジョン探しになるんだよなぁ」
そこでちょっと失敗したことについて溜め息を漏らす。
こんなことならせめてダンジョン化した場所を、葉牧さんに聞いておくべきだった。
そうすれば先回りか何かして攻略することも可能だったはず。
「けどそんな簡単に見つけるなんて、四奈川の情報網は一体どうなってんだか」
ま、嘆いていても始まらない。
俺は目ぼしい情報がないかと、SNSでダンジョン関連のやり取りを確認してみる。
ただどれも遠出しなければならない場所ばかりだ。
「……! そういや学校がダンジョン化したって話あったよな」
教師の増山に聞いた話だ。
学校と言えばそれなりの規模だ。一軒家などと比較にならないほど大きい。
となれば仮にダンジョンコアを破壊できれば、たんまりとコアボーナスを獲得することも可能なのではなかろうか。
「けどま、そういうでけえダンジョンには比例して強力なモンスターとか罠とかあるしなぁ」
家レベルでさえ矢が飛んできたりする罠があるのだ。学校だとどんな罠や凶悪なモンスターが待ち構えているか考えただけでゾッとする。
「今はまだ行かない方が良い、か」
行った奴がいるのかどうか、学校周辺の情報を確かめてみた。
するとバカな生徒が先走りしたらしく、何人か足を踏み入れたという情報を得る。面白半分に学校内で写真などを撮って載せている。
ただ途中で情報が途切れており、この結果は恐らくあまり芳しくないものだ。
スマホを無くしたか壊したか、それとも扱う本人がすでに……。
学校を攻略したなら、こういう連中はすぐに大手を振って知らせるだろう。それがないのであれば、まだ未攻略であり挑戦者は逃げたか死んだかどちらかだと思う。
モンスター情報も上がってきていないので、罠に嵌まってそのままという可能性が高い。
つまり推察すると、生半可な実力で挑むのは無理だということ。
「…………ん?」
SNSの情報を流し見ていたら、気になる情報を発見した。
〝情報交換しませんか。ただし条件は有能な『持ち得る者』だけに限る〟
そんな申し出とともに、場所や日時などが指定されている。
場所はここから近い廃ビルの中だ。
…………すっげえ怪しい。
情報交換なら別に他の場所でも良かったはず。何でわざわざ廃ビルなんていう、いかにも何かありますよって感じの所でするのか。
ただ興味はある。
ここに行けば何かしらの情報を得ることができるかもしれない。
それに俺以外の『持ち得る者』の存在も知ることが可能。
「……『マスター・キー』ねぇ」
SNSネームがそうだった。
「日付は……今日の午後二時か」
どうするか悩む。
単純に罠ということも考えられる。『持ち得る者』の中には、当然過激な連中だっているだろう。
自分が最強、自分だけが選ばれた存在であればいいと考える奴がいたとして、他の『持ち得る者』を消そうと動くかもしれない。
こうやって情報交換と称し、正直に集まってきた連中を一網打尽にしていく策略の可能性だってある。
俺は検索ワードで、『持ち得る者』と罠、そして殺害といった言葉を打って検索してみた。
だが今のところ、俺が考えたような状況が起こっている様子はない。
しかし今のところは、だ。
「う~ん、行くべきか行かざるべきか」
俺は情報は得たいものの、危険度も高いことに足踏みしてしまう。
ただ気になるのは募集要項に〝有能な〟という言葉が入っていること。どういう基準で有能か無能か図るのか。本人に任せるならば、単なる自信家が集まってくるような気もするが。
呼びかけ人の意図がいまいち掴めない。
頭をボリボリとかきながらテレビをつける。
するととんでもないニュースが飛び込んできた。
何と世界中の刑務所や拘置所、果ては留置所で容疑者や受刑者たちが逃げ出したという報だ。
何でも逃げ出した連中は妙な能力を使う者たちらしい。
「……やっぱそうなるよな」
これも俺が近いうちにそうなるだろうと予測していたことだ。
自由を奪われた連中が、簡単に外に出られる能力を持ってしまったら?
中には罪の意識なんかよりも、自由を求めて逃げ出す奴らだっているだろう。
そして実際にそれは起こっている。
「これは荒れるな、マジで」
人間にとって、敵はダンジョンやモンスターだけではないということだ。
一番怖いのは、平気で人を傷つけることができる人間。
「神様よぉ、せめてそういう連中にだけはステータスとか与えるなよな、ったく」
見ればアメリカの刑務所の一つが映し出されていて、火事にでもあったかのように火の手が上がっている。他にも外壁が崩されていたり、大きな穴が外へと通じている光景が映っていた。
俺は検索ワードで逃げた受刑者や犯罪者を検索してみる。
するとすでにそういう連中の被害に遭っている一般人の情報が載っていた。
金や衣服を奪われたり、中には女性が乱暴されたような事件もある。
これは本格的にマズイ状況だろう。今、必死に警察たちが、逃げた連中を捕まえるために奔走しているようだが、相手は『持ち得る者』だ。
恐らく対抗するには相応の準備が必要になる。仮に銃や毒などが無効化するようなスキルを持っていたら、それこそどうにもならなくなるはず。
たった数日で、世界は未曽有の大混乱に陥ってしまった。
そしてこれからもっと世界は崩れていくことだろう。
「そうだよな。こういうバカな奴らにも俺らは対抗手段を講じていく必要があるんだ」
何でこんな大変な状況なのに、人間にも気をつけなければならないのか本当に鬱陶しい。
「というか、実際に何人くらい『持ち得る者』がいるんだろうな」
それに気になるのは、先程四奈川が言った言葉だ。
彼女はもしかしたら今後、俺が『持ち得る者』に目覚めるかもしれないと口にしていた。
てっきり世界が変わったあの瞬間で選出されたのだとばかり思っていたが、後天的に『持ち得る者』になる可能性だって否定はできないのだ。
極端なことをいえば、将来的に人間すべてが能力を持つことだってある。
そうなったら益々世界は大パニックだろうが。
犯罪者や受刑者たちの中で、たった数人規模が目覚めただけでこの状況なのだ。
極悪非道な奴らが全員『持ち得る者』になったら……。
きっとその時点で世界はもう終末を迎えそうな気がする。
それだけはどうにか避けてほしい。
「……情報交換か」
改めて先程の提案について思考する。
仮に近くに危険な輩がいるのであれば、一目くらい確認しておいた方が良いかもしれない。
俺のスキルを駆使すれば、それも難しくないと思う。
少なくとも俺みたいに、興味を持って集まる奴らもいるかもしれない。
その中で数人だけでも知っておくだけで価値はある。
「………………よし、行ってみるか」
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